オジさんたちが「女性視点」を取り入れたら日本は復活する!

マーケティング発想の再生策
2021年06月04日 06:00
株式会社ハー・ストーリィ 代表取締役

(編集部より)過去30年、日本の名目GDPはずっと横ばい。先進国で断トツの「ビリ成長」にあえぐのは、デジタル化の遅れなど、さまざまな要因が取り沙汰されています。長年ビジネスの現場で、消費活動に大きな影響力をもつ女性の力に注目したマーケティングを専門としてきた日野佳恵子さんが、独自の視点から発想の転換を訴えます。

Xavier Arnau/iStock

先日発表された2020年のGDPは前年比マイナス4.6%と、リーマンショック当時を上回って過去最大級の落ち込みとなりました。コロナショックの長期化で、飲食・観光業界は前代未聞のピンチ。頼みの綱のワクチンも先進国でもっとも遅れ(5月末時点)、出生数の急減により少子化もさらに加速しています。若い世代のなかには「もうこの国はダメだ。自分一人だけでもどうやって生き残ろうか」と絶望的な声もあがりはじめています。

日本復活へ必要な「ストッパー」外し

でも、私はまだ楽観的でいます。たしかに日本はバブル時代のような絶頂期はもう来ないかもしれません。GDP全体としては世界3位の5兆ドルがあって、4位のドイツより約1兆ドルも上回っています。1億人規模の国内市場は、あと二十数年は維持できるはずです(コロナ前で1億を切るのは2055年の予測でした)。

しかし、私が日本の将来に楽観的なのはそうした過去からの「資産」に基づくだけではありません。生まれ変わるほどの再生ができるのか、ひとつ「重要な条件」があります。それは、この国は人口の半分を占める女性の力を抑える「ストッパー」が厳然と存在し、それをいかに取っ払うことができるか。

近年話題になっていますが、世界経済フォーラムが発表するジェンダー・ギャップ指数において、今年3月の最新版では総合スコアで156カ国中120位。特に経済で117位、政治で147位と、トップ層に女性がいない状態があいかわらずで、このままでは国としては衰退は避けられません。

トップ層で女性が極めて少数派ということは、企業でいえば女性の消費者に十分こたえようとするビジネスを推進する意思決定力が弱いことにつながります。ここで私自身のキャリアを少し述べますと、20代は広告会社につとめ、マーケティングに携わるようになったのですが、当時(1980年代)は男女雇用機会均等法ができてまもなく、企業社会は圧倒的に男性優位。そして、それまでのマーケティングは男性視点だという不都合な事実に気づき、その後、女性の視点をもっと生かしたビジネスをやりたいと一念発起して、1990年にいまの会社をつくりました。

「女性視点」でビジネスが変わる

「女性向け」マーケティングと「女性視点」マーケティングは、言葉は似ていますが、本質は違います。ファッションや化粧品などあきらかに女性が買うことを想定して戦略をつくっていくことが前者だとすれば、後者は、マーケティングの常識を疑い、男性の視点と異なるところから新しい可能性を切り開いていくことです。

一例をあげると、ここ数年で成長している作業着のワークマン。あるとき同社で販売する厨房用の靴が急激に売れたことがありました。作業着といえば男性向けの印象が強いですが、店舗に確認すると、購入者は女性だったのです。さらに調べると、靴の「滑らない」機能がマタニティシューズに適しているという評判がSNSから広がっていたのです。この靴の使われ方は想定しなかったものですが、同社はこの発見をきっかけに男性作業着だけでなく、女性や一般客を意識した営業に力を拡充。アウトドアのウェアを取り扱う新業態の店舗も出すなどの大きな転換で成功をおさめたのです。勢いはとまらず、過去3年で売上高は2倍近くまで増やし、1000億を突破しました。

女性人気で火がついたワークマンの「ファイングリップアーバン」(画像は最新モデル:同社サイトより)

ワークマンにとどまらず、この30年、企業が女性視点をとりいれて新しい可能性を切り開くお手伝いをしてきました。そして、女性視点を取り入れることはマーケティングにとどまりません。そもそもマーケティングは消費者の課題を解決することです。

たとえば人材採用。少子化で各企業が人手不足に陥り、優秀な人材をどう確保するか悩んでいました。経営者の方々に助言を求められると、私は「女性が切実にのぞんでいることを導入すると、女性だけでなく優秀な30代以下の男性も採用できますよ」と言ってきました。大企業でもまだまだ「妊娠しない」男性を優先して取りたがる傾向はあります。

しかし、時代は変わりました。育休が取りやすい環境なのか、過度な残業はないのか――。経営陣のおじさまが若い頃は「24時間タタカエマスカ」のCMが流行った時代。家事も育児も奥さんに任せきりで、深夜も休日もがむしゃらに働いてきましたが、女性だけではなく、いまの若い男性も「イクメン」が当たり前の時代に社会人になっているわけですから、採用する側は、価値観がかなり異なると思っていないとズレが生じるわけです。

変革へ、オジさんの心のスイッチは?

そもそも少子化が企業の採用を脅かすほど深刻になってきたというのに、社会全体が女性の視点を本気で取り入れてこなかったのが、この30年でした。妊娠の努力をしている女性を支えるプロダクトやサービスがまだまだ足りないのがひとつの証左。健康経営を掲げて国から表彰されるような企業が、メタボやメンタルの対策はできてきたのに、女性特有の生理や妊娠初期のつわりといった問題には対処してないところが少なくありません。

オジさんたちは変われるか?(paylessimages/iStock)

男性の経営者や有識者はしばしばデジタル化の遅れを引き合いに「平成の敗戦」と嘆かれますが、私からすればデジタル化と同時に、女性の存在を押し上げてこなかったことも大きく、そのことにまだ気づいてないのかと悔しい気持ちにもなります。ですが、ここで大事なのは、声高に男女平等を叫んでオジさんたちを責め立てるだけでは、物事は変わらないことも認識しておくことです。男か女か、なにか党派的な論争になると、紛糾したところで何も残らないものです。

意思決定層に女性が少ない現実にあって、オジさんたちの心のスイッチをどう押して、巻き込んで、一緒に新しい道をつくっていくか。詳しくは別の機会に述べたいと思いますが、たとえば言葉のチョイスを変えてみるだけでも、男性の反応は変わるもの。「男女平等!」と前面的に掲げるのではなく、「ダイバーシティ」とか「ウェルビーイング」とかに“翻訳”すると、今風でおしゃれじゃないですか?オジさんたちもきっと乗ってきますよ(笑)。発想を柔軟に転換して大きな流れをつくっていくことが大事ではないでしょうか。

今回は私が専門とするビジネスを中心に女性視点の重要性を述べてきましたが、政治や官公庁、社会分野の課題解決にも女性視点マーケティングの考え方は応用が効くと思います。

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株式会社ハー・ストーリィ 代表取締役

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