AI 時代はPDCAよりAAR!仕事の進め方は変わった

【後編】鈴木寛×重松大輔「AI 時代の教育とキャリア」
  • 元文科副大臣の鈴木寛氏と起業家の重松大輔さん「教育とキャリア」対談後編
  • AI時代の教育からキャリア論、大人のマインドセットに話が展開
  • 仕事の進め方も変化。「PDCA」に変わる「AAR」とは?

【編集部より】この国はいつまで昭和型の教育方式を続けるのか?日本が長期停滞しているのは教育も要因ではないのか?……大学教員、政治家の立場から数々の教育改革を主導してきた“スズカン”こと鈴木寛さんと、起業や3人の子育てを通じ、昨今の日本の人づくりに問題意識を抱くスペースマーケット社長の重松大輔さん。

前編では思春期の教育を中心に議論しましたが、後編では大人のマインドセットを考えます。(収録は6月中旬に行いました)

これからの人づくりについて大いに語り合った鈴木寛さん(左)と重松大輔さん(撮影・武藤裕也)

開成が奨学金制度を始めた意味

【鈴木】日本の教育政策の最大の課題は、中高生の自己肯定感の圧倒的な低さ。子どもの頃から塾通い、下手をすれば3歳から勉強に追い立てられる背景には、受験業界の不安マーケティング症候群にみんなハマっている実情があります。しかし、実は開成や麻布、灘といった名門校の先生方がその不安マーケティングに困っているんです。

【重松】それは興味深いですね。

【鈴木】どの世代の受験も勉強の計画を立てて実践したり、軌道修正したりするマネジメント力が必要です。中学受験の場合はお母さんが「きょうの勉強メニューはこれをやる」とマネジャーになることが多いのですが、大学受験となるとそうはいかない。

ここで問題が生じます。難関私立中に合格して、さあ東大を目指すぞとなったとき、敏腕マネジャーのお母さんはもういない。ある名門校の校長先生が嘆いていましたが、いまの生徒はセルフマネジメント能力が落ちているというのです。

【重松】自己完結能力が高いイメージがあるので信じられないですね。何か対策は打ち始めているんですか。

【鈴木】これは近年話題になったのですが、開成中学が低所得世帯向けに奨学金制度を始めました。中学受験はものすごいお金がかかりますから、開成に合格する子どもたちの多くは裕福な家庭に育っているわけです。奨学金制度によってハングリー精神のあるお子さんにもチャンスを作るのと同時にセルフマネジメント力の高い生徒を増やす狙いもあるようです。

というのも、裕福でないご家庭だと、お母さんも働いていて受験のマネジャーができなかったり、塾に通いづらいことも多いわけですが、そういうハンデをものともせずに自律して学力を培うお子さんがいるんですよ。おそらく開成としては、そういう生徒の活躍によって一石を投じたい思いもあるのではないでしょうか。

鈴木寛(すずき・ひろし)東京大学教授、慶應義塾大学教授、社会創発塾塾長
1964年兵庫県生まれ。灘高校、東京大学法学部卒。1986年通商産業省(現経済産業省)に入省。山口県庁出向中に吉田松陰の松下村塾に何度も通い、人材育成の大切さに目覚める。1999年、慶應義塾大学SFC助教授に転身。2001年〜13年、参議院議員。09年〜11年、文部科学副大臣。高校無償化、コミュニティスクールなどを実現。2015年〜2018年、文部科学大臣補佐官として大学入試制度改革に尽力した。通産省時代から私塾「すずかんゼミ」を開催。歴代の主な教え子に川邊健太郎氏(Zホールディングス社長)、出雲充氏(ユーグレナ社長)、城口洋平氏(エネチェンジCEO)ら起業家も多い。

AIの時代は熟考することが大事

【鈴木】ところで重松さんは創業時は何人体制でスタートしたのですか。

【重松】2014年に創業した当初はCTOと2人。社員は、いまは事業開発の部門で活躍している11歳年下の部下だけでした。おかげさまで5年で上場し、社員もいまは70人近くにまでになりました。

【鈴木】5年で上場とは順調ですね。これからも社員を育て、組織も大きくしていくと思いますが、お子さんをボーディングスクールに入学させるように、教育や人づくりにも独自の考えをお持ちのようなので、会社の人材育成も何かこだわりをお持ちなのでは。

【重松】これからの時代、人と同じことをやっていてもダメで何か付加価値を出さないとやっていけませんよね。そのためには自分の強みを早く知って、まさに夢中になれるものを見つけて磨き上げていかないといけないと思っています。

重松大輔(しげまつ・だいすけ)株式会社スペースマーケット代表取締役社長。1976年千葉県生まれ。千葉東高校、早稲田大学法学部卒。2000年、NTT東日本入社。主に法人営業企画、プロモーション等を担当。2006年、(株)フォトクリエイトに参画。一貫して新規事業、広報、採用に従事。同社にて東証マザーズ上場を経験。 2014年1月、(株)スペースマーケットを創業。19年11月東証マザーズに上場した。2016年1月、一般社団法人シェアリングエコノミー協会を設立し、代表理事に就任(22年3月に退任し、現在は理事)

それから、スタートアップやベンチャーというとスピード重視の印象が強いと思いますが、先ほどのノーベル賞の研究の話のようにじっくり考えることも実は大事です。

もちろんお客様への対応や組織としての意思決定で迅速にすべき時はするものの、昨今はテレワークが増えてきたので、あえて知らない土地に行って普段会わない人と話をして知見を磨いてきたり、思いもよらなかったアイデアを仕入れてきたりするようなこと、そして考える時間を持つように推奨しています。効率を求めながらも、じっくり考え抜いていくことでビジネスは革新的なアイデアが生まれてくるものですから。

【鈴木】いまの小中高生の勉強の教え方の課題にも通じるところがありますね。早さと正答率が比例するかのように思われがちですが、ゆっくり時間をかければできる子はいっぱいいるんです。ところが教員の方も「問題を解くのが速い子イコールできる子」と思い込んでいる。間違いなく早く解け、というのはAIの得意領域です。

だから、これからは人間として大事なのは、ある程度の時間をかけてでもじっくり考えて考えて考え抜くという姿勢にあると思いますし、学び方、教え方もその視点で見直していかねばならないとも思っています。その意味では、今年度から高校の学習指導要領に「探究学習」が入り、正解のない時代の学びへ大きな一歩を踏み出せたと思います。

【重松】探究は大きいですよね。一昨年、長野県で開校した「軽井沢風越学園」に注目しているのですが、まさにあの学校も「探究の学び」を掲げて、子どもたちが勉強だけでなく、自然のふれあいや遊びを通じて「もっと知りたい」テーマを追求しているようですね。そうした学校が出てきたのは非常にいいことだと思います。

PDCA思考から抜けよう

【重松】先日、社員会で話したのですが、「色々頭の中でシミュレーションすることも大事だけど、もっと大事なのはとりあえずスモールスタートでいいし、間違ってもいいからとにかく数多く打ち手を出して、失敗したら修正して、どんどん前に進めていこう」と。日本の社会って考えてばかりで行動に移すのが遅いというのも課題なのかと感じていた次第です。

【鈴木】その点では、OECDが「PDCA」に変わる新しい概念を打ち出しています。2030年に向けた教育のあり方を提唱する中で、「AAR」という学びのサイクルをメッセージに出しました。

【重松】「AAR」初めて聞きます。興味深いですね!

【鈴木】「PDCA」は1950年代にアメリカで提唱されたマネジメント手法で、Plan(計画)→Do(実行)→Check(評価)→Action(改善)という4つのサイクルで事業を回すものでした。

これに対し、「AAR」はAnticipation(予測)→Action(実行)→Reflection(振り返り)の3つのサイクルをいいます。何かを学ぶにあたって、未来を予測しながら学習しつつ、さまざまな体験と結びつけながら振り返りをすることで継続的に自分の思考を改善するプロセスです。

PDCAは工業化時代のマネジメント概念ですが、21世紀はVUCA(※編集部注 「Volatility(変動性)」「Uncertainty(不確実性)」「Complexity(複雑性)」「Ambiguity(曖昧性)」)という言葉が出てきたように、予測不可能な問題が増え、多様な価値観を常に取り入れてアップデートしていかなければなりません。まさに重松さんが仰る、スモールスタートでどんどん仕掛けていくというワークスタイルと通じますね。

【重松】「AAR」、いい話を聞きました。早速会社で取り入れたいと思います(笑)

【鈴木】ぜひ使ってください。

【編集部】学校もスタートアップ企業も人づくりをどんどんアップデートしていかねばなりませんね。お二人とも本日は貴重なお話ありがとうございました。

(おわり)

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