岸前防衛相の偽ツイート騒動、中国・ロシアの「影響工作」脅威が見える化

経済安全保障と統一教会報道で考えるべき論点
SAKISIRU編集長
  • 岸前防衛相の偽ツイートが問題に。中華系アカウントが主体的に発信
  • 駐英ロシア大使館のアカウントが一時リツイート、“中ロ連携”工作の指摘も
  • 今回の騒動から考えるべき経済安全保障と統一教会報道の対応について
岸信夫氏(防衛相時代、防衛省サイト)

すでに大手メディアで報道されているように、前防衛相で、岸田改造内閣では防衛担当の首相補佐官に回った岸信夫衆院議員の偽ツイートがここ数日騒動となった。駐英ロシア大使館のアカウントが拡散に一時寄与するなど外交的な小競り合いにも発展した。

岸氏本人が16日朝に「フェイクです」と否定したことで、ファクトチェックがお家芸のバズフィードだけでなく、SNSの騒動に日頃は冷ややかな対応しかしない読売新聞も同日夕になって記事化するなど「大事」になった。

荒唐無稽の偽ツイート

偽ツイートの手口は、岸氏の偽アカウントを作るのではなく、公式認証や日本の政府関係者などの記載がされた岸氏のアカウントの画像を組み合わせて捏造、それを実在するかのように拡散していた。偽ツイートの内容は、

世界は核災害の危機に瀕しています!ウクライナのミサイルは、ザボリージャ原子力発電所の上空で爆発するべきではありません。アメリカの犯罪を繰り返すな

などとウクライナ側がザボリージャ原発をミサイル攻撃し、アメリカが後押ししているかのように事実無根の内容となっている。

偽ツイートの発信に関与している疑いがあるのが、「首席研究员」(@HEFANG3)を名乗るアカウント。名前にはロシア国旗が入り、「員」の文字が北京語「员」になるなどツイート使用言語から、親ロシア派の中華系アカウントとみられる。

岸氏のフェイク指摘に対し、@HEFANGは、中国語でツイート。「岸信夫大臣が原子力発電所への爆撃をやめ、核拡散を止めると言ったかどうかに関係なく、プーチン大統領はそれをうまく処理できると思います」(Google翻訳)と開き直るなど、明らかに反日的な姿勢だ。

ただ、先述したザボリージャ原発の偽ツイートは内容も荒唐無稽ながら、「爆発するべきではありません」という直訳でも明らかなように、日本語として不自然な内容になっている。

中ロ連携の影響工作?

これについて安全保障や中国問題に詳しいジャーナリストの峯村健司氏はツイッターで「中国語から日本語への翻訳が稚拙で総理大臣と肩書を間違えてもいます。ロシアの政府やメディアを拡散しているようです」と指摘した上で、「ウクライナ戦争後に強まっているプロパガンダにおける中露連携の一端と言えそうです」と踏み込んだ。今回の偽ツイートは、峯村氏がここ最近、キヤノングローバル戦略研究所の動画番組で取り上げてきた、いわゆる「インフルエンスオペレーション」で一環で行われた疑いが濃い。

インフルエンスオペレーションは、日本での通称はまだ固まっていないが、「認知領域作戦」や「影響工作」と言った形で紹介されている。最も有名な事例としては2016年のアメリカ大統領選で、ロシアがSNSで偽情報を拡散し、選挙結果に影響を与えようとしていた実態が挙げられており、事態を重くみた日本の公安調査庁も「サイバー空間における脅威の概況2022」で、その拡大について警鐘を鳴らしている。

SAKISIRUでも5月末から、サイバー安全保障を研究している笹川平和財団安全保障研究グループ研究員の長迫智子氏に3回シリーズのインタビューを掲載したのでぜひお読みいただきたいが(初回はこちら)、「不自然な日本語で虚偽情報を流している」といった指摘は近年、ネット上で散見され、特に中華系アカウントの暗躍ぶりには日本の保守派のネット民などから注意が呼びかけられていた。

疑惑のアカウント@HEFANG3は、2016年2月に開設されたログがあり、すでに相当な期間活動していた可能性がある。日本の大阪市中央区を拠点だと綴っているが、実態は不明だ。ただ日本との馴染みがあることで日本に一定の関心があることだけは伺える。

vchal /iStock

経済安保、新たな課題に

今回の事案から浮き彫りになった課題を筆者なりに2点指摘したい。

まずはインフルエンスオペレーション対策は官民を挙げて真剣に取り組まなければならない段階に入ったということだ。

この問題は専門家の間では、数年前から指摘されていた。例えば、技術安全保障協会は、2020年3月の時点で経済安全保障法整備を提言した中で「インフルエンス・オペレーションへの対応力強化」の項目を挙げている。具体的には

健全な自由民主主義を維持するために、外国政府の悪意を持った経済活動、 汚職、教育などを通じた政策への直接的、間接的な影響力の発揮を阻止する ために、情報収集活動を強化することは同盟国、友好国との連携において重要性が高まっている。特に、これを実現する手段として多用され始めているディープフェイクに関する情報の報告制度についても検討すべきである。

と訴えている。

当時は安倍政権の終盤だったが、その後、菅政権を経て、岸田政権は経済安保に本腰を入れ、小林鷹之氏を初代担当相に任命し、経済安全保障推進法を制定。サプライチェーンの強化、基幹インフラの安全確保、先端技術開発、特許非公開の4つの柱が据えられたが、インフルエンス・オペレーションにどう対応するかは今後の課題だ。

ただ、厄介なのは、製造業が主に関係する4分野と異なり、この問題はネットや報道にも関わるため、ステークホルダーが多岐に渡り、公的規制の前に民間での自主的な取り組むを優先するのかなど調整事項が多いことが想定される。それだけに官民の対応が早期に求められる。

統一教会報道は中国の“思う壺”

もう一つのポイントは、今回、岸氏がターゲットになったことで改めて中国側が、岸氏の実兄である安倍元首相の存在をいまなお強く意識していることだ。

自民党本部前に設けられた安倍元首相への献花と記帳コーナー(7月13日、東京・永田町)

「自由で開かれたインド太平洋」構想の推進を始め、中国の軍事的膨張に対する外交的抑止力の強化に安倍外交が大きな功績があったことは、“安倍親衛隊”の保守論客ならずとも認めざるを得ない功績だが、安倍氏が急死した今、岸氏をはじめ清和会(安倍派)系の政治的な影響力をできるだけ早期に弱体化させるかが、中国(またはロシアの)情報工作上の命題になっている疑いをますます強く持たせる。

ここにきて週刊新潮やTBSが、統一教会問題での矛先を、安倍氏の側近だった萩生田政調会長に集中的に向け始めているが、清和会など自民党内の保守勢力が統一教会問題にこのままクレバーな対処ができずに政治的影響力を弱めていく展開が続くのであれば、中国側にとっては影響工作としては(実際の影響度合いは別に)結果的には大成功ということになる。

念のために付言すると、報道側が、自民党に統一教会との関係清算を迫るのは大いに結構だ。突き上げなければ政治家も腰をあげない。

その一方で、統一教会の被害者支援に活動してきた弁護団などの当事者はともかく、政権バッシング一辺倒になっている大手メディアは、この問題で結果的に中国と“利害一致”、踊らされている結果に終わることも考え始める時期ではないのだろうか。

反政権の人たちの中には、統一教会に関わり合いの深い議員を「壺」「ど壺」などと揶揄する向きもあるようだが、このままでは「中国の思う壺」になりかねまい。

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