森英恵さんの死去、読売新聞が特報…訃報スクープが抱える意義とリスク
ネット時代も変わらない「死を報じる難しさ」世界的ファッションデザイナーの森英恵さんが今月11日に亡くなっていたことが18日、わかった。96歳。読売新聞がこの日の朝刊で森さんの訃報をスクープし、追随した他社も早朝から相次いで報じている。

大ベテラン記者が報道
森さんは1926年、島根県生まれ。小学生の頃に東京に拠点を移し、東京女子大学で学んだ。1948年の卒業後まもなく森賢氏と結婚。洋裁技術を学び、1951年に東京・新宿で洋裁店を開業した。当時は日本映画の全盛期で、石原裕次郎氏のデビュー作として知られる「太陽の季節」や小津安二郎監督の遺作「秋刀魚の味」など数多くの作品で衣装デザインを手がけた。
1965年にニューヨークでコレクションを発表して海外デビュー。70年代半ばには、モナコのグレース公妃の招待で同国でショーを開催し、77年にはパリに店舗を進出。シャネルやディオールも加盟していた業界団体オートクチュール組合に東洋出身者として初めて加盟するなど、国際的なデザイナーとして活躍した。ただバブル崩壊後は、日本経済の低迷を背景に自らのブランド「ハナエ・モリ」が経営難に陥り、2002年、負債総額が100億円余りとなり倒産。その後は引退していた。

読売新聞によると、森さんは老衰で亡くなり、葬儀はすでに近親者で済ませたという。同紙朝刊(東京本社発行版)の1面中央でスクープとなった訃報の本記を掲載、社会面では準トップ扱いで、一時代を築いた森さんの偉業を詳細に紹介。さらに森さんを約30年取材してきたという編集委員の宮智泉記者による評伝で、エピソードとともに生前の人物像に迫るなど他メディアを大きく上回る報道ぶりだ。
宮智記者は1985年に読売新聞に入社。長年ファッション業界を取材し、生活部長、編集局次長も歴任した大ベテラン。戦後日本を代表するデザイナーだった森さんの訃報を逃さず、真骨頂を発揮した形だ。
死を報じる難しさ
公式発表されなかった著名人の訃報を巡っては、過去にも故人と親しかった記者らによる特報で初めて明らかになるケースも少なくない。ただ、記者が弔問などで現認できている場合は別として、遺族や周辺への裏付け取材を慎重に重ねた上で報じるのが鉄則だ。万一の誤報を出した場合の責任は社会的影響力が大きいだけに、通例よりも重く認識されている。
近年では2018年、大手通信社が、実際には翌日に亡くなった文化功労者の“訃報”を配信してしまう誤報を出し、4人の記者が懲戒処分を受けた。
そもそも人の死をいち早く日常のスクープ競争と同じ感覚で報じることに批判もつきまとう。深夜未明に取材を受けた関係者から「静かに故人を偲びたかったのに…」などの苦情が出ることも珍しくない。最近では、銃撃された安倍元首相が奈良県内の病院で集中治療を受けてる間に、近しいジャーナリストがネット上で「訃報」を伝えて炎上。謝罪に追い込まれた。

こうした「死を報じる難しさ」について、元読売新聞大阪本社記者の石塚直人氏は2008年、ウェブ上に載せたコラムで、訃報報道への批判について、当時亡くなった女性児童文学者の例を挙げ、故人の思いとは別に
この国の文化に対する貢献度からして、彼女の死は大きなニュースだ。各社とも、万一の事態に備えて主な経歴などをまとめた予定稿は準備している。それを紙面に組み込むためには、誰かから「間違いありません」のコメントを取るしかない。
との見方を示した。その上で、死を報じることについて「人には固有の歴史と価値があり、死に際しても『個』として敬意を払われねばならない」と綴っている。
このコラムから14年、当時と異なり、今はSNSが普及して誰もが発信できる時代に。報じる側も既存メディアだけでなく、ユーチューバーが独自情報をニュースとして伝える機会が段違いに増えた。生前、社会的な業績があった人の「死」をどう伝えるか。その意義と難しさをどう両立するか、ネット時代も変わらない課題と言えそうだ。
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