“2026年に中国が台湾侵攻” 米国で話題の「ウォーゲーム」、なぜ日本もやるべきなのか

3つの問題点もあるが、それでも有益に思う3つの理由
地政学・戦略学者/国際地政学研究所上席研究員
  • 台湾情勢が緊迫、日米で有事のシミュレーションが注目される
  • 米国はCSISのウォーゲームが話題に。3つの大きな利点とは?
  • 問題点もあるが「総じて有益」と奥山氏。日本の政治家が参加に消極的な理由は

日米で「台湾有事シミュレーション」開催

8月初頭のペロシ訪台で、日本でも一時的に台湾有事の発生の可能性がニュースで大きく取り上げられた。

それと前後して、日本ではシンクタンク「日本戦略研究フォーラム」の主催で、自衛隊元幹部のOBや現役の国会議員らが参加する机上演習が行われた。2027年に台湾有事が発生したという想定で、邦人輸送などの面でいくつかの教訓が得られたと報じられた(参考:朝日新聞「台湾有事、その時政府は… 元防衛相らがシミュレーション」)。

それと同時期に海外メディアで話題になったのは、アメリカの大手シンクタンクである戦略国際問題研究所(CSIS)が8月上旬に行ったウォーゲームの結果の内容だった。

今回CSISが行ったと報じられたウォーゲームは「2026年に中国が台湾侵攻をして戦闘が発生した」という想定で米中間の軍事衝突をリアルに再現し、いわば訓練や教育目的で、元軍人や専門家らを交え、7時間ほどかけて戦況をシミュレートしたものであった。

シナリオの設定などは毎回変えるようだが、基本的に「核兵器は使われない」という基本の想定で何回か実践した結果、「双方が大きな代償を払いつつも、米国と台湾は中国の台湾侵攻を防御できる」となったようだ。

古典的だが効果的な「机上演習」

筆者は、このようなウォーゲームを日本でも政・官・学・民が一体となって、もっと頻繁に行うべきであると考えている。

「ウォーゲーム」(Wargame)とは、一般的に「2人以上のプレイヤーが、敵対する軍隊を指揮しつつ武力衝突をリアルに再現した戦略ゲーム」と定義されることが多い(Martin van Creveld, Wargames: From Gladiators to Gigabytes, pp.4-5.)。基本的に、相対する陣営が互いに直接害を与え合うような構成になっている。

とくに今回アメリカのCSISで行われたものは、味方役の「ブルー・チーム」と敵役の「レッド・チーム」にわかれて、中国の人民解放軍が台湾への軍事侵攻と上陸作戦を行い、それを米軍と台湾軍が阻止するという想定の、かなり軍事的性格の強い「戦略ゲーム」だ。

やり方は意外に古典的で、台湾島などを模したボード上に実際に存在する部隊や兵器をコマとして配置し、双方がそれぞれのターンで動かしていくものだ(PCゲームの『大戦略』に近い)。

ランダム性を確保するために、サイコロも普通に使われる点では一般的なボードゲームとほとんど変わりはないのだが、これを国防関係者や専門家、さらにはメディアの人々などを巻き込んで行っていく。

台湾有事に備え、重要性を増すシミュレーション(Tanaonte /iStock)

当事者意識を持てる…ウォーゲーム3つの利点とは

筆者はウォーゲームの教育的な効果として、以下の3つが大きな利点であると考えている

第一に、現実に則した演習を行うことによって、現実の安全保障環境に潜む教訓をあぶり出すことができる点だ。

たとえば上記のCSISの場合は、アメリカと台湾側には、①潜水艦と爆撃機からの長距離ミサイルの増強、②台湾における対艦ミサイル増強、③台湾軍兵士らの質の向上、そして④グアムや日本での戦闘機を保護するシェルター(掩体壕)の建設、などの具体的な教訓が出されている。これらを有効活用すれば、実際の今後の防衛政策などに反映することも可能だ。

第二に、相手側の事情も理解できるという点だ。

ゲームにおいてプレイヤーが自軍の「ブルー・チーム」ではなく、あえて「レッド・チーム」をプレイすると、相手の強みと弱みを理解できるようになるという点で、これ以上ない教育ツールとなる。つまり「相手の身になって考える」ことで、戦略のメカニズムの核心を把握することにもつながるのだ。

今回のウォーゲームでも、「レッド・チーム」をプレイした参加者の一人は、もし本当に自分が中国側の司令官として人民解放軍を指揮するのであれば台湾の首脳部に対して「斬首攻撃」(decapitation strike)を行うべきかもしれない、と実に参考になる(恐ろしい)発言をしている。これなどはまさに相手の立場を理解できた教育効果だといえる(参考:War Game Finds U.S., Taiwan Can Defend Against a Chinese Invasion)。

また、イギリスで大学などを中心にウォーゲーミングを行っているフィリップ・セイビン教授などは、プレイをする参加者だけでなく、ゲームを設計する側にも、リアルさを追求する上で非常に多くの学びがあることを指摘している( Philip Sabin, Simulatin War, ch.3.)。

第三に、参加プレイヤーたちに「リーダー」としての当事者意識を植え付けることだ。

実戦で部隊を動かす経験というのは、本物の軍や自衛隊の指揮官にもなかなかできないが、ゲーム上であればいくらでも、自由に動かせる。

ただし戦争は、たとえそれがゲーム上のものであったとしても、自分に害を加えようとする敵の存在だけでなく、味方の意思疎通や通信、部隊数の制限やアクシデントなど、さまざまな面で計画通りにいかない「摩擦」が発生しやすい。指揮官としては決断、それも即決を迫られる場面が多くある。日本の場合はとりわけ政治家と(防衛省以外の)官僚に積極的に勧めたい。

そうなるとゲームを楽しみながらも、リーダーとしての当事者意識が必然的に身につくことになる。

戦争の興奮と楽しさも?3つの問題点とは

このように、ウォーゲームというのは総じて有益ではあるが、それでもいくつかの点で問題があることが指摘されている。

第1に、ゲームそのものが現実とは離れた設定になりがちだということだ。

冒頭のCSISのウォーゲームの場合も、実際には4週間かかると想定される事態をたった7時間に短縮して行うため、どうしても設定に無理が出てくる。リアリティのないものだという指摘は受け入れざるを得なくなる。

この分野の歴史に詳しい戦史家のマーティン・ファン・クレフェルトによれば、ゲームを意味するラテン語の言葉(ludus)が「幻想」(illusion)という言葉の語源になっていることから、そもそも現実から離れやすい側面を持っている点を指摘する(Martin van Creveld, Wargames: From Gladiators to Gigabytes, p.4)。

また、これはシナリオの設定にもよるのだが、とりわけCSISのようなものになるとバトル重視のものになりがちで、クラウゼヴィッツの言を待つまでもなく、戦争における政治的な要素が軽視されがちになる。

第2に、倫理的に問題があると批判されやすい点だ。

たしかにプレイヤーは上記のようなバトルを繰り返すことで、現実に動かしている現場の兵士や住民などから出る犠牲者などを考慮しなくなるという懸念はありそうだ。

同様に、かなり無理がある指摘ではあるが、たとえばリーダーたちがこのゲームに慣れると軍を動かすまでの閾値が下がり、さらには「参加した者をタカ派にさせる」というものもある。

gio_banfi /iStock

ただし一番の問題は、クレフェルトらも指摘しているように、たとえそれが「仮想上の戦争」であっても、そこにゲーム性を認識して「楽しい!」と感じてしまうことなのかもしれない。

不都合なことに、戦争とゲームというのは人類の長い歴史にわたって実な密接な関係性を持っており、前述したクレフェルトなどは「究極のゲームとしての戦争」という説明を行っているほどだ(マーティン・ファン・クレフェルト『戦争文化論』上巻、p.114.)。

端的にいえば、ウォーゲームでもプレイする人間にとってはエキサイティングなものなのだ。そして最大の「功罪」は、プレイヤーたちに戦争の興奮と楽しさを感じさせしまうことなのかもしれない。

第3は、それがプロパガンダのツールとして使われる可能性もある、ということだ。

厳密にいえば上記のような「ウォーゲーム」と呼ばれるのかは微妙だが、たとえばアメリカ陸軍がリクルート用にAmerica’s Army というコンピューターゲーム(ファースト・パーソン・シューティングゲーム)を無料で公開していた(現在は閉鎖)。ここには「ゲームが軍の宣伝に使われる」という倫理的な問題も孕む。

また冒頭のCSISのようなシンクタンクが来年度の防衛予算編成が決まる9月を前にこのようなニュースをメディアに公開するのは、危機を演出し、いわば軍需産業を有利にするためだと批判されることもある。

ただしその逆に、このような米国・台湾側に有利な成果を公表することによって、中国側を抑止するためのメッセージにも使える面もある。

政治家の実力も露呈?

それでもウォーゲームは有益なものだ。日本では防災訓練や避難訓練などは自治体や企業によって行われることが多いのだが、ウォーゲームは戦争に対する忌避感が多いためか、まだ「盛んにおこなわれている」とは言い難い状況にある。

また噂で聞いた話によれば、日本の政治家はいざウォーゲームに参加しても、自分の代わりに秘書などにやらせたりすることが多いという。ゲーム中の様子から、政治家としての本当の実力や決断力が推測されるのを嫌がるからだ、というが本当だろうか。

いずれにせよ日本周辺の安全保障環境は悪化しており、台湾有事のような事案が発生する可能性は高まっている。CSISほどの軍事レベルのものではなくとも、政・官・学・民が一体となってウォーゲームを活用する時代が来ているのではないか。

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地政学・戦略学者/国際地政学研究所上席研究員

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