創刊SP対談 猪瀬直樹さん #3 メディアは当事者性を持て

我が体験的ソルーション・ジャーナリズム
2021年04月28日 06:00
  • 猪瀬さん対談#3は、これからのメディアのあるべき姿勢について
  • 「やってみないとわからない。当事者性を持て」と猪瀬さん
  • 自分ならどう解決?道路公団民営化もユーザー体験が原点

猪瀬直樹さん(作家、元東京都知事)に新田編集長がとことん聴く創刊スペシャル対談 第1弾も最終回です。ここまでコロナ禍と国家の衰退に直面する私たち個人の生き残りに向けたマインドセットはどうあるべきかを追求してきましたが、#3 では、いよいよ新メディアを走らせるにあたって必要な「発想」について、猪瀬さんに伺います。

創刊SP対談 猪瀬直樹さん#3 メディアは当事者性を持て

#1「コロナで“止まった時間”を生かそう」はこちら

#2「テスラを買えばわかる」はこちら

ファクトには右、左ではなく解がある

【新田】SAKISIRUが歩み出すにあたって、これからのメディアのあり方について話したいと思います。昨今のメディアは、政治と同じで左、右に分かれちゃって問題解決が機能不全に陥っている感が強い。

選択的夫婦別姓の問題一つにしても、政治家が左も右もポジションありきのいがみ合いをして、朝日はリベラル側、産経が保守側の主張に乗っかるばかりで、当事者が置き去りにされてしまっています。今の法制度プラスアルファでどこまで何ができるかとか問題を解決しようという「リアリスト」な感覚に乏しい。これからのメディアに必要なことって何だと思いますか。

猪瀬直樹(いのせなおき)作家、元東京都知事。 1946年、長野県生まれ。1987年『ミカドの肖像』で第18回大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。『日本国の研究』で1996年度文藝春秋読者賞受賞。2002年6月末、小泉首相より道路関係四公団民営化推進委員会委員に任命される。2006年、東京工業大学特任教授、2007年、東京都副知事を経て、2012年〜2013年東京都知事。2015年12月、大阪府・市特別顧問就任。主な著書に『天皇の影法師』『昭和16年夏の敗戦』『ペルソナ 三島由紀夫伝』など。近著に『公〈おおやけ〉 日本国・意思決定のマネジメントを問う』、『救出 3.11気仙沼公民館に取り残された446人』。

【猪瀬】やっぱり当事者性を持つことでしょうね。僕自身もそういうことやってきたのです。

【新田】たしかに。昨年のご著書『』は自叙伝的に政治からジャーナリズムも語られていました。

【猪瀬】やっぱり何事もやってみないと分からないでしょう。全共闘の時、セクトの中がケンカしてばかりで不毛だとすぐ分かりました。解決策が出てこないし、前へ進めない。だから、全共闘の反省に立って作家になっていった。右とか左っていうの、意味がない。ファクトファインディングであるべき。ファクトには右、左はなくて、そこに解がある。ファクトとロジックをつないでいけば、答えが出るんだという思いでやってきました。

【新田】僕もメディアの業界に、新卒から20年いて、当事者意識や問題解決思考がなかなか足りないというのは常々感じてきました。文春砲の破壊力は目覚ましいですが、人の叩き合いに陥った側面も。当事者性に欠けてしまうのは教育の問題なんでしょうかね。

【猪瀬】いまの気候変動の問題で言えば、要するに、朝日の記者も読売の記者も「何人テスラを買いましたか?」ってことじゃないですか?

【新田】結局テスラに行くんですか(笑)

ユーザー体験が原点、道路公団民営化

【猪瀬】日産のリーフでもいいんですよ。気候変動でこんな大騒ぎしているけど、リーフとテスラに乗っている人がそのメディアの中にそれぞれ何人かいれば、お互いにどこが違うのか?という話になりますよね。

実際に、僕が、道路公団の民営化をやったのは、元々、自分がユーザーとして高速道路に対する不満があったから。当初は誤解されましたが、実は高速道路を造るのは反対じゃないのです。むしろ早く作ってほしかったのです。冬に子どもを連れてスキーに行くのに、途中で高速道路が終わってしまう、なんでこんなに造るのが遅いんだろうって。

taka4332/iStock

それで調べたら、非効率に作っていて、しかも金をかけ過ぎという「経営」の問題が見えてきました。卑近な例で言えば、休憩所の売店のカレーライスは高くてまずい、ラーメンもおいしくない。トイレもシャビー(古めかしい)だし。

つまりユーザーとしての不満がまずあったのですね。サービスエリアがシャビーだったのは、ファミリー企業だけで運営していて、競争がないと思ったからです。だから、これを民営化して効率をよくすれば解決できるはず…と具体的に考えていったわけですね。

あとは、民営化の時のメディアでもうひとつ駄目だと思ったのは自動車評論家です。

【新田】といいますと?あれだけたくさんの評論家がいて自動車に詳しいのにですか?

【猪瀬】自動車評論家の人たちは「この車体はいい」とか、カーオブザイヤーがどうだとか、F1がどうだとか、そんなことばっかり。僕から言わせれば「あなたたちが一番高速道路を使っているのだから、もっと改革に向けて問題点を提起してくださいよ」と。しかし、100人中99人の自動車評論家は道路公団改革に一言もありませんでした

ただし、清水草一君だけは反応してくれて「猪瀬さん、高速道路は、夜間はもっと安くしたほうがいいですよね」とか言ってきてくれました。彼だけは自分で走って事実に基づいて書いてくれました。

画一VS革新 〜 日米のメディア

【新田】僕はメディアも「失われた30年」の戦犯の1つだと思っているのですが、昔ながらの冷戦時代のフレームワークというのでしょうか。「権力VS反権力」の図式に落とし込む流れへと悪い形で回帰しているように感じます。

【猪瀬】アメリカはニュージャーナリズムや調査報道がどんどん出てきました。そして、今は提案型のソリューション・ジャーナリズム。新しい作品や新しい方法論が出てくるのは、やっぱりすごい。ジャーナリズムの世界にも既得権益がそれなりにあるのですが、アメリカが面白いのは産業のシリコンバレーのように地方から革新が始まるんですよ。

撮影:武藤裕也

【新田】猪瀬さんの『公』にも書いてありましたが、向こうは、ニューヨーク・タイムズなどの中央のメディアに行く人は、地方のメディアで実績を積んでから入社しますよね。ある意味、自分の実力だけでのし上がっている。もう半分フリーランスですよね。

【猪瀬】そうですね。あとは“白髪記者”も日本にはいない存在。日本は記者が歳をとると、デスクや管理職になって、若手だけが現場を回りがちですが、白髪のベテランが専門記者として存在感を発揮しているのです。日本の新聞社の、大所高所で書く編集委員や論説委員ともまた違う存在です。

【新田】ホワイトハウスの記者会見には、まさに“白髪記者”がいますが、日本の首相番記者は政治部の1年生ですからね。

【猪瀬】そう。僕の経験でいえば都庁の記者クラブも、30歳くらいの若手が多かったですね。せっかくいろいろ教えてあげて、覚えたなと思ったら、また転勤してしまう。だから都政や地方行政に対する専門性が深まっていかない。

【新田】都政は一国なみの予算がある割に、きちんとウオッチされてないですよね。都議会も同じで、だから議員も聞くに耐えない野次を飛ばし放題(苦笑)

自分だったらどう解決するのか

【猪瀬】結局、朝日新聞や読売新聞に入る「上品」な若者って、ある意味、大手銀行や大手商社、あるいは官僚組織と同じようなキャリアを歩んでいくようなもの。画一的という点で同じではないでしょうか。

【新田】その画一さを生んでるのは、良くも悪くも「日本型雇用」の構造ですよね。フリーランスが全てとは言いませんけど、あまりにも硬直化し過ぎていて、発想が貧困になってしまう原因でしょうか。もう少し流動性がないと、日本型雇用の負の側面がいろんな停滞を生んでいる元凶になってしまうように感じます。

【猪瀬】会社の入口で一斉に就職する新卒一括採用は日本だけではないでしょうか。

【新田】メディア側も一部ですが、現状を打破しようと試行錯誤している動きはあります。最近も西日本新聞が独自の調査報道で、愛知県知事のリコール署名で、佐賀にあった署名偽造拠点の存在を暴きました。東京新聞特報部も、ちょっと左派的すぎる部分は微妙ですが、記者クラブの枠にとらわれない闊達さはあります。でも、会社全体としては新しいことをやる舵になかなか切れませんね。

撮影:武藤裕也

【猪瀬】構造改革がありませんよね。どうやって自分だったら解決するのかという当事者の視点でやるべきでしょうね。しっかりやってくださいね。

【新田】激励いただき、恐縮です。今回はオープニングに相応しい充実したお話、ありがとうございました。

(完)

 

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