元ZOZOのCOOが起業した電気運搬船ベンチャー「パワーエックス」が睨む商機とは
総額50億円超調達、これからのエネルギー事業に必要な視点とは- 世界初の電気運搬船を開発、ベンチャー企業のパワーエックスの狙いは?
- 大手商社や銀行などから50億円超調達、再エネ普及の課題に見出した商機
- 伊藤ハム創業家出身の社長などユニークな経営陣、転職者もさまざま
2021年3月に設立されたベンチャー企業のパワーエックス(本社 東京・赤坂)が、洋上風力発電などで発電した電力を船で運ぶ電気運搬船事業に挑戦している。世界初と言われる電気運搬船の1号艇を25年に完成させ、計3艇を保有する計画だ。
海底ケーブルより“割安”
同社は8月3日、伊藤忠商事、電源開発、森トラストなどと計9.2億円の資金調達の契約を結んだと発表。すでに今年5月23日には日本郵船、三井物産、三菱UFJ銀行などに対して第三者割当増資を行う契約を締結して41.5億円の資金を調達しており、今回の増資で総資金調達額は50億円を超えた。
出資者でもある今治造船が建造する1号艇は、船長約100メートル、船幅約22メートルで、近距離航行では電気、遠距離ではバイオディーゼルを動力源にするハイブリッド型となる。1回の充電による電気運搬量は約22.2万KWh。4人世帯が1日に使う電力量を13KWh程度と仮定すると、約17,000世帯の1日の電力使用量を運搬できる計算になる。
パワーエックスによると、海底ケーブルなど送電設備を新設するよりもコストが低いという。さらに日本は地震が多い国なので、海底ケーブルを敷設しやすい環境ではない。シンクタンクの調査では海底ケーブルは一度送電が止まると復旧までに82日かかるといったデータもある。
今後国内では、秋田沖、千葉沖、北海道沖、九州沖などで洋上風力発電の事業が進む方向だ。40年までに30~40GWhの洋上風力での発電能力を持つことが官民協議会で目標設定されている。
見出したビッグチャンスとは
しかし、いくら再生可能エネルギーを発電しても、既存の送電網に空きがないなどと言われる。また、送電網を保有する電力会社が自然エネルギーに開放しないことも課題だ。こうした現状の下、電力が余っていても需要がひっ迫している地域に簡単に送ることができない。また洋上風力や太陽光などの発電は気象条件に影響されるため、電力が必要な時でも天候が悪いと発電できない。
このため、再生可能エネルギーを本格的に普及させようと思えば、電力を「貯める」、すなわち蓄電能力を強化しておく必要があるが、これまで国としてその施策展開が弱く、蓄電能力が全く足りない。パワーエックスはそこにビジネスチャンスがあると見た。
今後は国内だけではなく、フィリピンやインドネシアなどの離島が多い国向けに輸出を想定している。7000近い島で構成されるフィリピンは、送電網を全土に張り巡らせることが難しく、島嶼エリアへの送電網整備が課題になっている。インドネシアも同様だ。
電気運搬船と並ぶもう一つの柱が蓄電池事業だ。工場や住宅向けなどの定置型蓄電池を製造販売する。定置型のEV向け急速充電用電池も製造販売する。その生産工場を岡山県玉野市に建設し、24年から稼働させる計画だ。リン酸鉄を使った蓄電池でセルは海外から輸入して組み立てる。生産能力は年間500万KWhで、火力発電2、3基分に相当する規模だ。
話題性抜群の経営陣
パワーエックスの経営陣がユニークだ。伊藤正裕社長は名門、
会長には、医者でバイオベンチャー「ヘリオス」を起業した鍵本忠尚氏が就いた。社外取締役は5人。欧州の電池大手、ノースボルト出身でテスラに移ったパオロ・セルッテイ氏、元グーグルのシーザー・セングプタ氏、ゴールドマンサックス証券元役員のマーク・ターセク氏、元東京地検特捜部長で弁護士の佐久間達哉氏らだ。
現場にもいろいろな企業から転職者が集まっている。製品開発の責任者は、日産自動車で25年近く勤務した技術者、生産の責任者は日立マクセル出身。この他にも東京電力、安川電機、IHI、村田製作所などから人材が集まったという。
エネルギー市場の活路はどこに?
国内では今後、この蓄電池を含めた「ピークカット」
パワーエックス以外にも、まだ「頭の体操」だが、
もちろん定置型の蓄電池は発火対策などの安全管理も重要になるので、電力を単に余った地域から足りない地域に配るという発想だけではビジネスは成り立たたず、保守・点検などのサービス強化も不可欠だろう。
ただ、原発再稼働問題やウクライナ危機を契機に高騰するLNG価格など日本はエネルギーに関して多くの課題を抱えていることは間違いない。国民生活が不安にさらされる電力不足を理由に単に旧態依然とした政策やビジネスが幅を利かせるのではなく、課題解決と新たなビジネスの創出を組み合わせていくことが、新たな雇用を生み、社会を活性化していくといった視点も重要なのではないだろうか。
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