日中国交回復50周年記念日に「国葬」をぶつけた岸田政権の“賢さ”

世界に打ち出した「真逆のメッセージ」とは
国際政治アナリスト、早稲田大学公共政策研究所招聘研究員
  • マスコミ・左派系に反対論・懐疑論が多い安倍元首相の国葬の意義とは
  • 安倍氏を評価しないことが多かった筆者が「国葬」はやるべきと思う理由
  • 国葬儀のスケジュール設定にみる、岸田政権の外交上の妙手とは
銃撃事件の直後、増上寺や党本部には多くの人が献花に訪れた(写真:ロイター/アフロ)

安倍晋三元首相の国葬儀について、マスコミ・左派系の人々を中心に反対論・懐疑論が多い。安倍元首相の業績に関して賛否があり、曰く国民的なコンセンサスがないというものだ。

安倍氏を評価しないが「国葬」はやるべきと思う理由

筆者も安倍元首相の業績について必ずしも全面的に肯定するものではない。2度の消費税増税に踏み切り、規制改革は不十分な形で終わり、領土問題を事実上棚上げしたことは評価できない。

しかし、安倍元首相のインド太平洋戦略を始めとした外交安保ビジョンは高く評価する。また、日本の生命線である自由貿易体制を恒久化するためのTPP、日欧EPA、日米貿易協定などを推進した手腕には目を見張るものがあった。

上記のように、筆者の中でもマスコミ・左派系の人々とは評価基準が明確に異なるものの、安倍首相は賛否両論ある存在だ。

それでも外交政策のコストパフォーマンスに鑑み、安倍元首相の「国葬」は実行するべきだと断言する。

国葬儀は私的な葬儀とは異なる国家としての公式なイベントだ。特に、世界中からVIPを招くことから、世界中のメディアも注目する一大メディアイベントである。そして、海外でのメディア報道が行われる際、安倍元首相の業績に必然的に触れることになり、グローバルな世論の中で、上述の故人の外交安全保障上の業績を思い起こす機会を提供する。

特に9月27日の国葬儀の日程は日本政府の深謀遠慮を感じさせるスケジュールだ。元々同時期の外交スケジュールとしては、日中国交正常化50周年記念日が9月29日に控えていた

そのため、仮に安倍元首相の国葬儀が行われなかった場合、権威主義国に対する風当たりが強まる国際環境の中で、日中友好を大々的に打ち出す一大イベントが大きくメディアに取り上げられる可能性があった。これは日本の外交安全保障上のメッセージとしてリスクがあるものだった。

官邸サイト

岸田首相が打ち出した「真逆のメッセージ」

しかし、岸田首相は、国葬儀という大規模国際イベントを梃として世界に対して全く真逆のメッセージを打ち出す選択肢を得ることができた。そして、中国側も安倍首相の外交安全保障上の業績が事実上再確認されるイベントに要人を送り出さざるを得ない。したがって、このタイミングでの国葬儀は外交政策上の妙手と言えるだろう。岸田政権の外交政策上の賢明さを感じざるを得ない。

このように考えると、日中国交正常化50周年記念日に注目を集めたかったリベラルなマスコミや左派系の人々が是が非でも「国葬儀」を中止させたかった意図は良く理解できる。

彼らにとってバイデン政権が進める反権威主義国のネットワーク化に穴を開ける同記念日のイベントの扱いが小さくなる「国葬儀」は邪魔な存在だろう。したがって、これほど必死になるのも分からなくもない。(結局、同記念日はせいぜいオンラインでの日中首脳会談程度のことしかできないだろう。)

政治的な話題は「表面上の大義名分」だけでなく、「語られることがない政治的背景」を考慮しないと物事の本当の意図を掴み取ることは難しい。今回の場合、国葬儀が同スケジュールに設定されなかったなら、どのようなイベントに注目が集まったのかを想定することが大事だ。

国葬儀をしっかりと外交政策の一つとして認識することで、岸田政権が何をやっているのかを正しく認識することができる。

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