地元メディアが報じない沖縄県知事選のリアル 〜 「なにをいまさら」な旧統一教会騒動

【選挙戦展望:後編】保守・中間層の新たな熱気の理由
批評ドットコム主宰/経済学博士
  • 沖縄知事選の展望後編。選挙戦直前に振って沸いた旧統一教会騒動
  • 「なにをいまさら」な地元メディアの報道。沖縄と新宗教の実態とは
  • 下地氏どこまで健闘?煽りを喰らう佐喜眞陣営で奏功?しつつある新戦術

沖縄県知事選の直前、現職の玉城デニー氏の公約実現率をめぐって県議会が紛糾した経緯は前回述べたとおりだ。

だが、現在までのところ「知事のウソ」は争点になりそうもない。「デニー人気」は依然として高いままで、佐喜眞氏の劣勢は直ちに改善されそうもない。それどころか、佐喜眞氏が旧統一教会の支援を受けていたことが明るみに出て、佐喜眞氏への向かい風はいっそう強くなっているようにも見える。地元メディアは連日のように、「旧統一教会と関係の深い佐喜眞」といった印象を強めるような報道を続けている。

那覇市内にある世界平和統一家庭連合 那覇家庭教会(Googleストリートビューより)

旧統一教会疑惑の影響

しかしながら、筆者に言わせれば「なにをいまさら」である。率直にいうと、沖縄は「新宗教の草刈場」である。旧統一教会だけでなく、沖縄ではありとあらゆる新宗教が布教活動を熱心に行っている。そのなかには幸福の科学、サイエントロジー、ラエリアン・ムーブメント、韓国系キリスト教会、台湾系新宗教など比較的新しい教団も含まれるが、モルモン教、エホバの証人、キリスト教福音派などの拠点もある。なにより創価学会の強い地域としても知られている。多くの政治家が、これらの教団と何らかの関わりがあり、有形無形の支援を受けている。

2020年1月、那覇市を代表して、首里城再建募金の目録を統一教会側から受け取るオール沖縄の城間幹子市長。選挙直前にこの問題がクローズアップ(那覇市Facebookより)

現状では、「カルトとは何か」「反社会性とはなにか」を十分定義することがないまま、そして安倍晋三元首相殺害犯である山上徹也容疑者の「罪」を棚上げしたまま、「自民党と旧統一教会のズブズブの関係」だけに集中するかのような報道が繰り返されているが、「政治と宗教の関係」を本気で問いたいのなら、「いかなる宗教も最初はカルトと見なされていた」あるいは「多くの宗教が政治との関係を深めるために注力してきた」というれっきとした事実を振り返らずして、前に進む議論はできないと思う。その意味で、現在行われている報道は健全とはいいにくい。

筆者は、新宗教に寛容な沖縄社会は、「佐喜眞=旧統一教会系」といった印象操作にはあまり左右されないと考えている。教団・教派を問わず、信仰の内側にある人々にとって「特定教団を排除しようとする社会的風潮」は、多かれ少なかれ「次の矛先は自分たちではないか」という疑念を生じさせ、佐喜眞氏と旧統一教会の関係を問うことに、積極的な意義は見いだせないはずだ。

もっといえば、内ゲバなどで敵対組織のメンバーをさんざん殺してきた中核派、革マル派などの左翼過激派が現在も党派として生き残り、一部の自治体選挙に積極的に取り組んで、自分たちの党派が「同志」と見なす議員を誕生させてきたという事実を、我々は無視してよいのだろうか。こうした反社会的な組織を排除することこそ、民主主義国家におけるメディアの役割ではないのか。

ちなみに、今回の沖縄県知事選に際して、中核派も革マル派も「反佐喜眞」を掲げている。つまり、彼らは玉城氏を支援しているのである。この事実はもっと重視されてよい。

「辺野古反対」主張する下地氏

下地氏はオンラインでの演説第一声も辺野古から配信した(公式YouTube

玉城氏が「辺野古移設反対」を唱えて、政府・自民党と激しく対立していることは広く知られているが、今回の知事選では、保守系の下地氏も「辺野古埋め立て中止」を新たな公約として掲げている。玉城氏が移設そのものを阻止するという主張なのに対して、下地氏は「埋め立てを中止し、すでに埋め立てられた部分は基地として期限付きで利用する。その後は沖縄県で活用する」と提案している。

下地氏のこうした提案は一見すると現実的に見えるが、政府の移設計画そのものに根本的な変更を加えるという意味で、政府・自民党の合意は得られにくい。はっきりいって玉城氏の票田を切り崩すための選挙戦術にすぎないと思うが、「佐喜眞氏の票を奪う保守分裂選挙」にならぬよう下地氏が配慮した結果だともいえる。この主張が浸透するかどうかはまったくの未知数だが、筆者は、玉城氏から下地氏に乗り替える有権者も少なからず出てくると予想している。

これまでにない保守層・中間層の熱気

現状のままで推移すると、玉城氏が47%前後、佐喜眞氏が44%前後、下地氏が9%前後という得票率分布になると筆者は考えている。前回拙稿より、佐喜眞氏が追い上げていることになるが、その最大の理由は、最初低調な動きだった佐喜眞陣営による「知事と副知事候補」をセットで遊説させるという新たな戦術が成功を収めつつあるからだ。

副知事候補に指名されたのは、7月10日の参院選で善戦した古謝玄太氏である。古謝氏は、参院選終了後休むまもなく佐喜眞氏の応援に立ち、全県を精力的に歩いている。これが思いのほか好評で、堅実な保守政治家という印象の強い佐喜眞氏を若くフレッシュな古謝氏がサポートするかたちでの「県政刷新」に希望を見いだす県民が増えているという。

副知事候補に指名した古謝氏とのコンビ結成でイメージを変えつつあった佐喜眞氏(公式YouTube

このセット戦術は、統一教会問題で揺れる自公陣営を引き締めるのにも役立っており、8月22日に沖縄セルラースタジアムで開催された「佐喜真アツシ総決起集会」には、1万人を超える支援者が参加したという。「オール沖縄」側の集会に1万人が集まったというニュースは珍しくないが、自公陣営のこうした大規模集会は初めてのことで、取材したジャーナリストは、「これまで感じたことのない保守層・中間層の熱気」が感じられたと興奮していた。

ただ、肝心の選挙戦初日に古謝氏が新型コロナ陽性判明で選挙戦中盤まで離脱することが確定的になった。佐喜眞陣営にとっては手痛いのは間違いないが、この「熱気」がホンモノであるとすれば、9月11日の選挙で佐喜眞氏が玉城氏を逆転する可能性はないとはいえない。

組織票が主体の期日前投票では、おそらく玉城氏が佐喜眞氏を上回る得票を得ることになるだろうが、日本維新の会、参政党、NHK党など保守系政党を応援する傾向が強いといわれる「自公でもない、オール沖縄でもない」若い世代が、選挙当日投票所に足を運ぶかどうかに当落はかかっているというのが、筆者の最終的な判断である。

批評ドットコム主宰/経済学博士

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