演習そっちのけで行事に…自衛隊にもあった!頭の痛い「宗教問題」

【前編】オウム事件の数年後に起きた任務拒否事件
元航空自衛隊情報幹部
  • 統一教会で注目の「宗教問題」は自衛隊にもあった
  • 20年ほど前、航空自衛隊で幹部を含む隊員が、年1回の総合演習参加拒否
  • オウム事件の記憶が生々しい時期、内部調査の結果判明した驚愕の実態

安倍元総理の殺害事件以降、この事件の端緒となった世界平和統一家庭連合(旧統一教会)に関わる宗教と政治の問題が連日各メディアで報じられ、自民党の多くの有力議員がこの旧統一教会との関連を指摘されたことなどから、これが内閣改造後も岸田政権の支持率を低下させる要因となっている。

今回のような、政治と宗教に関わる問題とは少し異なるが、組織に影響を及ぼすような「特定の宗教団体の問題」という面においては、筆者が所属していた自衛隊でも頭の痛い問題を抱えていた。これについて、筆者の現役時代の事例などを上げて問題を提起したいと思う。

(※8/30 12:00 本稿訂正あり)

viper-zero /iStock

任務より信教を優先

問題が発覚したのは、今から20年ほど前にさかのぼる。当時、航空自衛隊において、数名の幹部自衛官を含む隊員が、年1回実施される航空自衛隊の総合演習において同演習の参加を拒否(年次休暇を申請)した。この(休暇申請の)理由は、総合演習のさ中に自らが入信する宗教団体の「重要な総会が行われるから」というものであった。

これらの幹部自衛官らは、同一の宗教団体「冨士大石寺顕正会(宗教法人:顕正会)」に所属しており、この隊員の中には同団体における幹部という立場の者もいた。

自衛隊法では、同施行規則(第47条)により年次休暇の取得が認められているが、「その時期につき、所属長の承認を受けなければならない。この場合において、所属長は、隊務の運営に支障がある場合を除き、これを承認しなければならない(同第7項)」とされている。

自衛隊において演習というのは日々の訓練の集大成であり、年1回の総合演習ともなればこれは1年の総仕上げのようなものである。ましてや曹・士(下士官・兵)らの指揮を執らなければならない幹部自衛官(士官)であればなおさら、彼らの演習への不参加が隊務の運営に支障をもたらすことは明白である。

もちろん上司らは、その旨を隊員らに告げて翻意を促したが、彼らはまったく聞く耳を持たない。「休暇の承認がもらえないなら退職も辞さない」という。彼らの所属する部隊長は頭を抱えた。

「そうか、じゃあ好きなようにしろ」というのはたやすいが、後々になってこの宗教団体から、「自衛隊は信教の自由を認めないのか」「彼らは上司に退職を強要された」「宗教弾圧だ」などと宣伝されて裁判でも起こされたら面倒なことになる。指揮官らは、人事を通じて中央の上層部まで指示を仰いだ。結局、その時に限っては休暇申請した隊員の数も少なかったため、代替の隊員を何とか割り当てて年次休暇を承認するという方針が採られた。

※画像はイメージです(stockstudioX /iStock)

調査で判明した根深い問題

しかし、これは問題の一部に過ぎなかった。色々調べているうちに判明したのは、以下のような内容であった。

  1. 問題となった複数の幹部自衛官は、防衛大学校の学生時代からこの「顕正会」に入信した者たちであり、かれらは同じ文化系のクラブに所属していた。
  2. ほかにも、彼らの後輩で学生時代に同じクラブに所属していた幹部自衛官に信者がいることが判明し、これらの幹部自衛官が中核となって、陸・海・空の各自衛隊における布教活動(他の自衛官の勧誘活動など)を実施していた。
  3. 彼らの布教活動などによって、各自衛隊の曹・士隊員にも信者が拡大し始めている。
  4. これら信者の布教活動(勧誘など)があまりに執拗であり、複数の部隊内でトラブルが発生している。

時あたかも、オウム真理教事件の後で新興宗教については自衛隊の上層部は神経を尖らせていた矢先である。この「顕正会」は、伝統宗教である日蓮宗(仏教)の分派である日蓮正宗からさらに枝分かれした宗教団体であり、完全に決別(対立)していることから、新興宗教の分類に入ると見られた。

しかも、この団体は日蓮正宗から枝分かれする過程で、同じく日蓮宗の分派である創価学会との間で暴力事件を起こすなど過激な部分があり、2000年以降は布教活動(主に勧誘、脱会阻止)などでさまざまなトラブルを引き起こしていた。(※訂正)

中でも、自衛隊が同団体を特に警戒していたのは、この組織が自衛官や警察官などの信者獲得に固執している様子が窺われ、自衛官や警察官の信者は比較的この組織内での地位が高くなる傾向が見られたからである。一体何を目的にこの団体は、国家の実力組織や権力組織で信者を増やそうとしたのだろうか。

陸自Facebookより

自衛隊は、武力を保有する実力組織であるから、法や規則を順守するのは言うに及ばず、思想は健全でなければならない。前述の自衛隊施行規則には「一般の服務の宣誓(第39条)」という条項があり、一般の隊員は以下のように宣誓することを義務づけられている。

私は、我が国の平和と独立を守る自衛隊の使命を自覚し、日本国憲法及び法令を遵守し、一致団結、厳正な規律を保持し、常に徳操を養い、人格を尊重し、心身を鍛え、技能を磨き、政治的活動に関与せず強い責任感をもつて専心職務の遂行に当たり、事に臨んでは危険を顧みず、身をもつて責務の完遂に務め、もつて国民の負託にこたえることを誓います。

特に、この中で、「政治的活動に関与せず」と謳われているのは、思想を健全に保ち国民に不安を与えないよう「政治的活動はしてはならない」ということである。一方で、ここには宗教活動に関して何も触れられてはいない。したがって、自衛隊において信教の自由はもちろん、宗教活動自体にも制限はない。

ただし、ここで宣誓している「強い責任感を持って専心職務の遂行に当たり」という部分に照らし合わせてみれば、自衛隊の重要行事である「演習」よりも自らが信じる宗教団体の「総会」を優先させれば、それはやはり間違っていると言わざるを得ない。これでは「国民の負託にこたえている」とは、とても言えまい。そうではないかも知れないが、もし、何よりも優先して会合への出席を促すことがこの宗教団体の方針によるものならば、それほどまでに強い帰属を求めるこの団体の健全性こそが疑われよう。

そして「顕正会」を巡り、とうとう警察が動く事態が起きた。

後編に続く

【訂正】本記事中、顕正会の歴史において「創価学会から枝分かれ」などの記述がありましたが、正しくは「日蓮正宗」からでした。関係者と読者の皆様に慎んでお詫びの上、訂正します。

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