岸田内閣の「その場しのぎ」な物価対策では国民の不満は高まるばかり
いよいよ発動すべき「抜本的な対策」とは- 国民に不評な岸田内閣の物価対策。なぜ「期待外れ」なのか
- 小麦価格据え置きも、食用油脂は補助なし…目立つアンバランス
- 「その場しのぎ」な物価対策をとるよりは…
岸田内閣の物価対策は国民に不評だ。8月20~21日に実施された産経新聞とFNNの合同世論調査では、政府の物価高への対応を評価しないと答えた人が74.2%にも上っている。
8月15日、お盆休みの際中にもかかわらず岸田首相は「物価・賃金・生活総合対策本部」を開き、物価や賃金問題への積極的な取り組み姿勢を示そうとしたが、そこで決められた措置はその場しのぎ的で、期待外れと言わざるを得ない。
アンバランスな物価対策
この会議で岸田首相は、小麦の政府売渡価格を10月以降も据え置くことを検討するよう農水省に指示した。約9割を輸入に頼る小麦は、安定的確保のために政府が大口購入者となって輸入し、その後で製粉会社等へ売り渡す制度になっている。この政府から製粉会社等への売渡価格は毎年4月と10月に改訂されるが、今年10月の政府売渡価格はウクライナ侵攻の影響が本格化したこと、円安が進行したことなどから、今回の岸田首相の指示がなければ約20%引き上げられるはずだった。
しかし今値上がりしているのは小麦だけではない。電気・ガス代、タイヤ、紙おむつ、ティッシュ、ハンバーガー、玩具、回転すしなど、極めて幅広い商品が値上がりしている。また食品だけで見ても、小麦だけでなく大豆油、パーム油、菜種油などの食用油脂は国際価格の上昇や円安によって7月には前年に比べて40.3%も上昇している。食用油脂は家庭がサラダ油やてんぷら油などの形で購入する以外に、マヨネーズ、カップ麺、ポテトチップス、チョコレート、カレールウ、ラクトアイスなど様々な食品に使用されており、また、外食産業やスーパー、コンビニのから揚げ、とんかつ、てんぷらなどにも使われているため物価に与える影響は大きい。しかし食用油には小麦のような政府補助はない。
一方、エネルギー関係でも政府はガソリンの小売価格を1リットル168円程度に抑制することとし、そのために補助金を石油元売り会社に支払っている。
しかし、同じエネルギーであっても電気代やガス代は、国民生活に大きな影響を与えているにもかかわらず政府からの補助はない。電気・ガス代の7月の消費者物価(前年同月比総合で2.6%上昇)への寄与度は0.96にもなり、ガソリンが価格上昇を補助金で抑えられているとはいえ0.18なのと比べて非常にアンバランスだ。
弥縫策より「物価の番人」
しかも、こうした政府補助による価格抑制は一部商品のみに偏る不公平感の問題だけでなく、財政負担が大きいという問題もある。
ガソリンは当面今年9月末までの措置とされているが、岸田首相は今回の会議でそれ以降の方策について検討を指示しているから、補助金は当分続きそうだ。しかし補助金の交付が始まった今年1月から9月までだけで、約1兆6000億円という巨額の予算を使っている。また小麦はガソリンほどの金額ではないが、筆者が大まかに見積もったところでは政府の財政負担は半年で約360億円となる。しかもこうした財政負担額は今後の原油、小麦の国際価格や円安の動向次第でさらに大きくなる可能性もある。
現在の物価上昇は、ウクライナ情勢や世界的な異常気象など日本だけでは解決できない問題もあるが、現状のように対象品目を限定した政府補助金による物価対策では、国民の政府に対する不満は高まり続けるだろう。
岸田首相としては、その場しのぎ的に、ほころびにパッチを当てるような物価対策をとるよりは、まず真っ先に日銀が金利を引き上げて、円安による物価への悪影響を取り除くことが必要なのではないだろうか。
かつては日銀は物価の番人と言われていたが、日銀が2%の「物価安定目標」を言い出して以来、いつの間にか「物価の番人」というニックネームはどこかへ忘れさられてしまったようだ。
金融政策は日銀の専権事項ではあるが、政府の有形無形の影響力が及ばないわけではない。岸田首相はいつまでも物価に対してその場しのぎ的に、ほころびにパッチを当てるような対策をとるのではなく、今こそ物価の番人である日銀に働いてもらうように促すべきなのではなかろうか。
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