日本電産・永守会長が「高齢でも活躍」と引き合いにするダイキン・井上会長「晩節」のリアル

社内や関西財界の関係者が指摘する「名経営者」の実情
ジャーナリスト
  • 後継社長が退社した日本電産・永守会長がなぜ批判されるのか?
  • 永守氏が「高齢でも活躍」と引き合いにするダイキン井上会長はどうなのか
  • 世界的なエアコンメーカーに育てた一方で、漏れ聞こえる近年の実態とは

「外部は老害だ、老害だと言うが、ダイキン工業の井上礼之会長や信越化学工業の金川千尋会長のように高齢で活躍している人もいる。年齢のことをとやかく言われる筋合いはない」

こうまくし立てたのは、日本電産の創業者で会長を務める永守重信氏(78)。9月2日、関潤社長(61)の退任と、後任の社長に小部博志副会長(73)を起用する人事を発表した時のことだ。

日本電産・永守重信会長(写真:ロイター/アフロ)

なぜ永守氏が「老害」と批判されるのか

小部氏は、1973年の創業時から残る唯一の部下で、永守氏は「子分」と呼ぶ。永守氏の発言には、経営者が若返っている時代に、新社長の年齢が一回りも年を取った人物が就くことへの批判をかわす狙いもあったと見られる。

ただ、メディアや一部の投資家が「老害ではないか」と永守氏のことを批判するのは、単に年齢の問題ではなく、後継候補を次から次に採用しても、時代は変わったのに、自分の成功体験を押し付け、じっくり育てようともせず、短期間で経営人材をポイ捨てするからだ。

永守氏が指摘したダイキン工業の井上氏は87歳で、信越化学工業の金川氏は何と96歳で現役の会長を務める。年齢的には永守氏よりも上だが、果たして本当に「老害」と言われないような経営をしているのだろうか。

そこで日本を代表するエアコンメーカーであり、同じく関西のものづくり企業として好業績を上げ続けているダイキン工業の内部でいまどのようなことが起きているのかを探ってみた。

“世界のダイキン”に育てた井上流経営

ダイキン井上礼之会長(日本冷凍空調工業会サイトより)

まず、ダイキンの歴史を遡ると、1924年に山田晁(あきら)氏が創業。その長男で社長を務めていた山田稔氏からバトンを渡される形で、井上氏は94年に社長に就いて以来、30年近く経営トップの座にある。

稔氏はサントリー会長だった佐治敬三氏と親しかったため、一人息子をサントリーに入れ、ダイキンには入社させなかった。井上氏は創業家とは血縁関係はないサラリーマン出身である。

井上氏は稔氏から社長業を受け継ぐと、不採算事業を整理し、経営リソースをエアコンと化学事業に集中させ、ダイキンを収益力のある世界的なエアコンメーカーに育てた。経営手腕が優れた経営者と言える。9月9日現在における日本企業の株式時価総額ランキングでは13位(7兆2618億円)に位置し、このところ株価が不調な日本電産(25位、時価総額5兆5478億円)を引き離している。

井上氏の経営の特長の一つが、人事部門の経験が長いことから、人物に対する慧眼と人心掌握術に長けていることだ。

この井上氏の人心掌握術に関してはこんなエピソードが社内の一部で語り継がれている。

ダイキンには現在、相談役執行役員という奇妙な肩書の山田靖氏が「安全」を担当している。表向きには「安全担当」だが、この靖氏がエアコン事業を掌握し、「懇話会」と称して世界を巡り、現場に目を光らせている。礼之氏に次いで実質ナンバー2の座にあるという。姓は山田だが、創業家とは関係ない。

靖氏は中途入社であるため、入社年次は礼之氏の1年下の58年だが、年齢は礼之氏よりも上だ。靖氏はエアコン事業の品質管理の経験が長く、主力生産拠点、金岡工場で台頭したが、礼之氏のライバルだった元専務の樋口一郎氏と対立したために左遷されて冷や飯を食わされた。しかし、井上氏が権力を掌握するとすぐにカムバックさせ、エアコン事業を任せて靖氏を副社長に昇進させて以来、今でも重宝しているといった具合だ。

こんな老人たちが経営をけん引していても22年3月期決算で、ダイキンは売上高が初めて3兆円を超え、営業利益も過去最高を更新した。

まあ経営は結果がすべての面があるので、永守氏と同様に井上氏は関西を代表する名経営者の一人であることに異を唱える者はほとんどいないだろう。

会社の私物化と派閥の暗躍

しかし、最近の井上氏については、「業績がいいことに、会社を私物化する傾向が出ている」と言うダイキンや関西財界の関係者は多い。「神様」のような存在になってしまい、社内外の誰もが意見を言えない状況にあるそうだ。

井上氏が私物化しているのではないかと言われる象徴的な事例が、創業家でもないのに息子の隆之氏を中途入社させ、役員に抜擢したことだ。隆之氏は商社に勤めていたが、12年にダイキンが買収した米国のエアコン会社に入社させてすぐに役員にし、16年には本社の専任役員を兼任。19年に常務専任役員に昇格させ、現在は米ヒューストンに駐在している。専任役員とは専門性の高い経営人材のことで、同社独特の制度だ。

ヒューストンにあるダイキンのオフィス(Brett_Hondow /iStock)

そして隆之氏の「守役」と言われるのが、アメリカ駐在のある1人の専任役員だ。

礼之氏は中高から大学まで同志社なので、「同志社閥」がダイキン社内にはある。この専任役員も同志社大出身だ。加えて「突如、奥さんと離婚してすぐに礼之氏と親しい知人女性と再婚してから出世のスピードが速くなった」と言うダイキン関係者もいるほどだ。

ダイキンには「同志社閥」に加えてもう一つ「ベルギー閥」が存在している。井上氏は妻とアルプス旅行をするのが好きと言われており、その前に必ずベルギーにあるダイキンヨーロッパに立ち寄るため、そこで接待、案内役の経験者が顔を覚えられて出世するのだという。

この「ベルギー閥」が、三中政次・取締役副社長(ダイキンヨーロッパ会長)、澤井克行常務執行役員(CSR、渉外担当)、森田重樹執行役員(空調生産本部長)、冨田次郎副社長専任役員(ヒューストン在勤)らだと言われる。冨田氏は現在、隆之氏の上司でもある。

こうした役員人事を見ていると、権力は腐るというが、礼之氏のような「名経営者」でも、長く経営トップにいると自制心が効かなくなるのだろうか。

ダイキンの業績は良いものの、組織の内実は少し腐りかけている。その原因の一つは、礼之氏が長期にわたって君臨し続け、会社を私物化していることにあるのに、それを「高齢でも活躍している経営者がいる」と持ち上げる永守氏はいよいよ眼が曇ってきているのだろうか。

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