虐待はあったのか?児相の一時保護、司法の判断を 

10年以上会えないケースも。初の集団国賠訴訟へ
2021年06月08日 06:00
ジャーナリスト
  • 虐待を疑われ児童相談所に一時保護された子どもや親が「不当保護」を訴える例も
  • 10年も会えないケースも。不当保護を訴える親たちが国を相手に全国初集団訴訟へ
  • 児相保護は、刑事事件の逮捕手続きのような司法介入なし。国連から是正勧告も

児童虐待事件の報道は連日後を絶たず、児童相談所の人員増員や機能強化の必要性が叫ばれる。一方で、虐待を疑われ児童相談所に一時保護された子どもやその親が「不当に保護された」と訴えるケースも多い。昨年10月に広島県で、児相に一時保護された子どもが「母親に会いたい」と何度も訴えていたが半年以上会えず、施設内で死亡したというニュースも記憶に新しい。

そんな中、児相に子どもの一時保護のあり方の制度見直しと、保護されている子どもと親の面会を認めるよう訴える集団訴訟の国賠プロジェクトが立ち上がった。個別のケースで訴訟に及ぶケースはこれまでにあったが、制度見直しを求めた集団訴訟は全国で初めてだ。

tatyana_tomsickova/iStock

「不当保護」で国を訴え

原告は現在約10名ほど。子どもが学校のスクールカウンセラーにいじめについて悩みを相談したところ、児相に連絡が行き、そのまま一時保護され、2年間一度も子どもに会えていないケースや、病院側から「処置中に肋骨を折ってしまったかもしれない」と言われたのにもかかわらず、警察から虐待を疑われ、施設入所になり、以来一度も会えていないケースなどだ。

プロジェクトを取りまとめるのは、これまでに児相の「不当保護」を訴える100人以上の当事者から相談を受けてきたという人権保護協議会ジャスティス日本代表の恒松啓昌さん。恒松さんは、「相談に来る人の中には、実際に虐待やネグレクトのあった人も紛れ込んでいる。そうした人を支援するわけにはいかないので、原告の精査はしっかりと行い、児相側や弁護士に聞き取りを行って、あきらかにおかしいというケースに絞りました」という。

一時保護は、子どもの安全を確保するため、児相が原則2か月以内で親元から引き離す児童福祉法に基づく措置。児相の権限で実施できるが、欧米では一時保護の際に司法が審査する仕組みがあり、日本は2019年に国連の子どもの権利委員会から「親から分離する時は司法審査を受けるべきだ」と指摘されていた。

厚労省の指針では、一時保護の際、本来は親権者の承諾が必要だが、緊急性を要する場合は承諾を得なくてよいとされている。刑事事件では緊急逮捕の場合、裁判所に逮捕状を請求することが必要だが、児相の一時保護はそうした司法介入の手続きがないのだ

その上、刑事事件では逮捕されると20日間の拘留と決められているが、児相では無条件で2か月間一時保護できることになっており、ほとんどの家庭が面会できない。一時保護されたまま10年以上会えていない親子もいる。

児相に一時保護された子どもから届いた手紙

保育園に連れて行ったまま一時保護となり、突然会えなくなったある当事者は、子どもから「ママだいすき」「じそうさんへ おうちにかえりたい」「えらいひとへ じそうがはなしをきいてくれません。おうちにかえして」といった手紙が届くといい、「この状況をなんとかしたい」とプロジェクトに加わった。

司法介入なき制度欠陥

訴訟では、国を被告として「一時保護について、司法判断を求める手続きが法律で保障されていないこと」が、憲法32条が保障する「裁判を受ける権利の侵害」であること、また、一時保護後に「面会交流を行う手続きが法律上保障されていないこと」が、憲法13条が保障する「親と子の養育についての人格的利益」などを侵害していると主張する。

恒松さんは、「一時保護について、司法的判断を求める手続きが法律上保障されていないのが一番の問題」と話す。「厚労省の指針は虐待ありきで出されているので、虐待がなかった場合の対応ができない。この指針に『虐待の疑いで保護し、虐待やネグレクトが無かった場合、速やかに解除する』という条文が入れば、それに従わざるを得なくなるのでは」とし、この集団訴訟で一時保護の問題を多くの人に知ってもらい「安心して親子が家族が生活していける法律や制度への改正につながれば」と話している。

今回の訴訟の原告は、10人中9人がいわゆるシングルマザーで、「弁護士費用がないために裁判を起こせないのはおかしな話だ」と、クラウドファンディングでプロジェクトの弁護士費用を募ることにした。

プロジェクトのサイトはこちら

児相の一時保護をめぐっては、今年4月に厚労省の有識者検討会が、一時保護の開始の判断が適切かどうかについて、司法機関が審査する制度の導入を提言した報告書をまとめており、これを受け、厚労省と法務省は制度の内容の検討に入った。虐待の被害に遭う子どもを適切に保護し、親子が不当に引き離されない制度にするために、必要な改正を迅速に行う前向きな議論を期待したい。

 

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