維新の「出産費用無償化」、コスパは妥当なの?規制の事前評価で測ってみた

政策の行政コストを考える注目の評価法
歯学博士/医療行政アナリスト
  • 「規制の事前評価」は民間でも可能か?筆者が実際にやってみた
  • 維新の出産費用無償化を事例に、メリットとコストを比較すると…
  • 規制改革の専門家にも取材。「現場の実態に即して考える意義」

レジ袋規制・AV新法をはじめとし、規制の立法プロセスについて注目が集まっています。そういった中で総務省が策定した「規制の事前評価」は、共通のフォーマットで広く情報公開することによって様々な立場からの意見を集約する目的を持ちます。

FineGraphics /PhotoAC

民間でも事前評価はできる

規制改革先進国のイギリスでは、適正な手続きで事前評価が公表されない場合ニュースで大きく取り上げられ社会問題化すると言われ、まさに議論のたたき台の役割を果たしています。

今回は規制の事前評価が民間側で十分に作成可能であることを周知するために、代表戦で話題を博した日本維新の会が最重要マニュフェストとして掲げる「出産費用の無償化」について、総務省が公表する「規制評価シート」にあてはめ専門家の助言のもと筆者が独自に実践しました。

本稿では保険医療実務に携わる民間人の立場から規制の事前評価を作成した所感と意義について解説し、全文は文末より参照できる形とします。なお規制評価シートに関しては政策の論点整理を目的としており、賛否を表明するものではありません。

(参考)規制に係る政策評価の事務参考マニュアル 評価書様式等 ― 総務省行政評価局政策評価課

(関連)世界標準の規制改革を 若生幸也氏 ― 日本経済新聞

(図)出産費用の年次推移

日本維新の会サイトより

メリットとコスト比較

出産費用無償化政策を規制評価に当てはめるというとピンとこないかもしれませんが、維新案の保険適応による価格の固定化は医療機関目線で見ればまさに「経済的影響の大きな規制」の側面を持ちます。

それと同時に「出産育児一時金で支払われる正常分娩」と「医療保険適応となる異常分娩」という同一予算枠から支出される2つの制度を統合すれば「1増2減ルール」として行政コストを削減できる可能性がありました。

規制評価シートの中では、まず5年間現状のまま経過するとどのような問題が起こり(ベースライン)、そこに規制をかけることでどれだけのメリット(便益)を生むか算出。続いて規制を実行する行政と当事者の負担(行政コスト・遵守コスト)を明らかにして、便益と比較検証されます。

(関連)「2対1ルール」安倍政権もやってほしかったトランプ政権最強の政策 –  SAKISIRU(サキシル)

(図)出産費用保険適応による完全無償化案

日本維新の会サイトより

たとえば政府・与党案では、出産育児一時金3万円を増額すると252億円の予算がかかります。しかし出産費用は年間1.27%増加しているので、このまま5年後経過すると増額分は完全に相殺。再度の一時金増額も検討もありうるなら5年後までに252-504億円の出産世帯あるいは政府支出増となり、これがベースラインに該当します。

そこで【筆者独自の維新案解釈として】現状の出産関係予算を上図の保険適用とバウチャー部分の予算へ再配分したとすると、主な出産費用の価格は固定となり予防できた支出増分252-504億円をそのまま規制の便益とすることができます。このとき保険医療機関に関しては新たな行政コスト・遵守コストは発生しません

一方で保険医療機関ではない助産院や自宅出産を考慮すると現行の出産育児一時金制度を完全に廃止一本化することは難しく、1増2減ルールによる行政コストの大幅削減には繋がりそうにないとわかってきました。

全文版ではより詳細な分析をしていますが、これらはあくまで論点整理。事前評価シートはこのあと多くの人が批判を加えるなかでブラッシュアップされていくことに意味があります

日本政策総研 若生氏より提供

現場の実態に即して考える意義

今回規制の規制評価シートを自主作成していくなかで確信したのは、実務と現場を知っている人がもっとも作成しやすいということです。これを行政が作成しようとすると、現場実務やマネーフローのヒアリングに膨大な労力が必要になります。

結果的に現場感覚がなく具体的数値もわからない規制評価シートになってしまうのでは、作成する意味がほとんどなくなってしまいます。そういったものを土台にして議論するから規制による民間の負担は考慮されず、「お気持ち」と「既得権益」に偏重した規制が乱造されていくのではないでしょうか。

規制改革を専門とする日本政策総研の若生幸也副理事長・研究主幹 は「現場にいて既存制度運用の実務を経験している業界団体や市民団体が規制の事前評価を試行・提言することは、現場の実態に即した規制のあり方を考える意味でとても意義がある。各経済団体にもこういう動きを奨めたい」と話します。

規制改革は「民主党仕分け事業」や「アベノミクスの第三の矢」として取り組まれてきましたが、十分な成果が得られたとは言い難いです。政権与党のトップダウンだけではできないからこそ、民間側からのボトムアップによる政策形成は重要性を増しています。

(規制事前評価シート全文)[自主制作] 出産費用無償化政策 規制の事前評価シートによる行政コストの試算 ― (筆者note)自由人と社会保障

(参考)政策評価ポータルサイト ― 総務省

(参考)医療保険に関する基礎資料 ― 厚生労働省

 
歯学博士/医療行政アナリスト

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