沖縄県知事選を総括する 〜「辺野古反対」で県民の幸福は得られない

玉城知事は「大勝」したのか?
批評ドットコム主宰/経済学博士
  • 沖縄知事選はデニー氏が再選するも、地元二紙は手放しで喜んでいない
  • 票数を見ると、「辺野古反対派大勝」とした各社報道も怪しい理由
  • 「辺野古が最大の争点」と考えた県民はどのくらい存在したのか?

参院選、県知事選が「オール沖縄」の勝利、自公敗北で終わり、今年の沖縄の重要選挙は、残すところ10月23日投開票の那覇市長選のみとなった。中央メディアの多くは、「辺野古反対派(オール沖縄)の大勝」と報じたが、地元二紙は手放しで喜んではいない。

地元紙に「大勝」ムードなし

琉球新報は、オール沖縄系県議の「知事選はデニー氏がよかったというより佐喜真氏が弱かった。知事の求心力はなかったも同然で、内部はぼろぼろの状態だ」というコメントを引用しながら、オール沖縄内に深刻な亀裂があることを伝えており(9月15日付)、沖縄タイムスも、知事選と同時に行われた県議補選のゴタゴタを紹介しながら「知事のリーダーシップが問われる」とオール沖縄の求心力の低下を嘆いて見せた(9月16日付記事)。

当確直後、笑みを見せる玉城氏(写真:UPI/アフロ)

実は「辺野古反対派大勝」とした各社報道も怪しい。知事選の確定票を見ると、玉城デニー339,767票、佐喜真淳274,844票と約6万5千票の差があるが、下地幹郎53,677票を保守票と見なせば、保守票合計あるいはデニー批判票は328,521票となり、その差は約1万1千票に縮まる。玉城知事の得票率は約51%、反玉城勢力の合計得票率は約49%だ。つまり、現状は「保革伯仲」といっていい状態である(先の参院選での保革伯仲については、827日付拙稿「地元メディアが報じない沖縄県知事選のリアル」を参照)。

さらに「争点は辺野古」という報道が多数を占めたが、玉城知事は、選挙戦序盤、人間的な魅力を前面に出して保守中道層を切り崩す選挙戦を展開し、スピーチで辺野古に触れる機会を減らした。公表された公約の優先順位も、トップは「県経済と県民生活の再生」、2番目は「子ども・若者・女性支援施策のさらなる充実」となっており、「辺野古新基地建設反対・米軍基地問題」は3番目の公約に格下げされていた。

こうした戦い方だと経済再生を前面に出した佐喜真氏と正面からぶつかることになるが、「誰一人取り残さない未来へ」という玉城知事のキャッチフレーズは生きてくる。ところが、オール沖縄陣営にはこれが不評で、「辺野古に触れないなら意味がない」という批判が渦巻いたという。これを知って、玉城選対は選挙戦終盤に辺野古にシフトした戦術に転換している。

玉城知事は、選挙直後の記者会見で、辺野古をめぐる政府との法廷闘争に全力を尽くし、渡米して議会関係者やメディアに「辺野古に反対する沖縄の立場を理解してもらう」と力説したが、これもまた、辺野古に反対する姿勢を弱めた選挙戦序盤の失点をカバーするためのある種のリップ・サービスだろう。

辺野古建設予定地(2018年9月撮影:新田哲史)

「争点は辺野古」だったのか?

が、「辺野古が最大の争点」と考えた県民はどのくらい存在したのだろうか。選挙戦中盤の9月3日、4日に行われた沖縄タイムスなどの世論調査では、何を一番重視して投票するかという四択の問いに対して、「経済活性化」48%、「基地問題」32%、「人柄や経歴」11%だった。2018年の知事選時の同様の調査では、「基地問題」42%、「経済活性化」35%だったというから、すっかり逆転したことになる。

選挙終盤に行われた琉球新報の世論調査の場合は、「最も重視する政策は何か」という問いに対して、「基地問題」37.9%、「経済・景気・雇用」36.4%、「教育・子育て」7.5%、「医療・福祉」6.9%という結果が得られている。回答者の6割以上が、基地問題を最重要とは考えていない。知事選が、基地問題というワン・イシューで民意を問う機会になっているとはとてもいえないのが現状だ。

にもかかわらず、オール沖縄やメディアのあいだでは、「知事選最大の争点は辺野古」とする見方が大勢を占め、「知事選によって沖縄の民意はいまも辺野古反対であることが確認された」といった主張が罷り通っている。県民のほんとうの関心は、「経済と暮らし」に向けられているのに、その事実がすっかりないがしろにされ、「知事の仕事の7割は基地問題」(玉城知事の発言)という異常事態に陥っている。行政は「辺野古を中心」に廻っているのだ。

未来から見放されないために

踏みこんでいえば、沖縄の貧困も、教育の失敗も、経済・産業の非効率も、すべて辺野古を中心に据えた行政の責に帰せられるべきものだ。その責任を心のどこかで感知しているはずなのに、玉城知事は法廷闘争に全力を注ぎ、渡米して沖縄の不幸を訴えると言い放っている。

基地問題は、「政府が勝つか沖縄県が勝つか」という勝ち負けをめぐる問題ではないし、そうであってはならない。本質的に地方自治の問題でもなければ、沖縄に対する差別の問題でもない。この国と国民の安全と繁栄(国益)をどのように維持していくかという問題意識から出発しなければならず、高度に怜悧かつ合理的な計算と判断を求められる問題である。おまけに他国の国益と激しく衝突することもある。一知事あるいは一自治体が、このプロセスに深く介入することに、どれほどの意義や正当性があるのだろうか。

再選された玉城知事には、県民が直面する経済と暮らしの問題に注力し、「誰一人取り残さない未来」を築いてもらいたい。知事の仕事の7割が基地問題にとられるような現状を放置すれば、沖縄は未来から見放されてしまうだろう。

 
批評ドットコム主宰/経済学博士

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