『記者襲撃』を読んで感じた赤報隊事件と安倍氏銃撃の奇妙な類似点

“朝日新聞政治部的”陰謀論で考える令和の変
朝日新聞創業家
  • 本屋大賞にトンデモ本「朝日新聞政治部」がノミネートの衝撃
  • 対照的に事実を丹念に追う社会部出身、樋田氏の「記者襲撃」の読み応え
  • 赤報隊事件の統一教会犯行説から連想した安倍氏銃撃事件との類似点

大変なことになりました。「日銀なぞの円売り介入。世界初の中央銀行による自爆テロ」とか「プーチン氏最後の決断。全人類エリザベス女王の後追いへ」とかではありません。本屋大賞に、かのトンデモ本「朝日新聞政治部」ノミネートされたようです。

朝日の“伝統”に反するトンデモ本

福島第一原発の事故に関して、吉田調書の妄想的誤読をウリにしているとしか思えないこの本。ウェブ上にある吉田調書本体と並べて読んでいる人がどれぐらいいるのか……少なくとも両者の矛盾を批判している人が皆無なのが信じられません。東電関係者や原子力の専門家は、あまりにバカバカしくて相手にしていないのかもしれませんが、今も命がけで事故を処理している原発スタッフへの誹謗中傷を、継続しているのは許しがたい話です。

さて、この本の特徴のひとつに、朝日新聞の社会部記者を根拠不明のまま酷評していることがあります。先祖代々朝日とつきあってきた村山家の平均的見解は、「おかしな社員は政治部、まともな記者は社会部」でした。実は私自身、この夏、政治部出身の元社長A氏から、村山家の墓地の問題で喧嘩を売られました。当然、一戦交える気ですので、応援の方よろしくお願いします。

なぜ、社会部記者はまともな人が多いのか。私の考えでは、「事実を一つひとつ確認しながら積み重ねて真実に迫る」のが社会部流、「推定した仮説をもとに事実を収集し矛盾のないストリーができればそれを真実とする」のが政治部流だからと思います。もちろん、どちらがいいかは状況によりますが、常人の思考に近いのは明らかに社会部のほうです。

真偽不明の情報や実は無関係な事実が大量にある現場では社会部流では収集がつかなくなるます。一方、政治部流で動くときに最初の推定が悪かったり、収集した事実の矛盾を見逃したりしてしまうと、完全に狂ったストーリーができあがり、最悪の場合、それが一人歩きをし始めます。「朝日新聞政治部」の福島原発事故の章など後者の典型です。

3年前に予言されていた元統一教会問題

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それでは、まともな社会部記者の例をあげましょう。前回予告しました「記者襲撃」の著者、樋田毅氏です。

本書は、今から35年前におきた、朝日新聞阪神支局銃撃を中心とする「赤報隊」を名乗る一味による数件のテロ事件。散弾銃による至近距離からの射殺という大胆さやら、全国各地での連続犯行など、凶悪で大規模な事件でありながら時効を迎えたいわゆる「赤報隊事件」。敏腕社会部記者による、発生直後からの取材の集大成とも言える力作です。

内容は、とにかく事実・事実・事実……の社会部流。第2章の「犯行の経緯」にまとめて登場する以外、著者の推理や憶測は極力抑制されています。

統一教会(原文では仮名)犯行説は有力な仮説のひとつとして登場します。根拠は、

  1. 事件当時、朝日新聞社は霊感商法を批判するキャンペーンに力をいれていた。
  2. 統一教会には、戦闘を目的とすると思われる「特殊部隊」があった。
  3. 統一教会は全国に26の銃砲店を持ち、その多くは射撃場を併設していた。
  4. 朝日あての脅迫状(事件のと同じ散弾入り)が統一教会の犯行を示唆している。
  5. 事件の3年前、霊感商法を告発する論文を書いた教団元幹部が何者かに襲撃された。

当然、警察も統一教会を重要な捜査対象としました。けれども、容疑者の逮捕はもちろん事情聴取すらできませんでした。

最終的に樋田氏は、事件は統一教会関係者ではなく右翼民族派によるものと推定しています。根拠はネタバレになりますから黙っておきますが、知りたい人は、ぜひ原文を読んでみてください。

本書は、統一教会自体に焦点を当てたものではないので、当時の行状は断片的にしか出てきませんが、それでも、自民党タカ派の政治家たちに秘書団に送り込んで選挙運動を支えていたこと(本書p139、p176)や、教育関係の有力者にもシンパがいること(同p144)など、今回問題になったことがかなり報告されています。さらにまた、こともあろうに朝日新聞者幹部が統一教会と談合をしていたことまで指摘されています(同p169)。

統一教会(およびその変異株)の暗部、特に政界やマスコミとの関係について、これだけ調べ上げてまとめた書籍は他にはないかと思われます。ウィキペディアでも多数引用されています。元統一教会問題について、まともに議論するときの必読文献と言えます。

奇妙な類似点

さて、本書を読み直しているうちに、赤報隊事件と元総理暗殺事件との間の奇妙な類似点に気がつきました。どちらも、「腰だめ」で散弾を撃っていることです。「腰だめ」とは、スコープを使わず銃を腰に構えて撃つことで、狙いが不正確になる分、すばやく発射できるという接近戦用の射撃方法です。そのためスポーツとしての射撃はもちろん狩猟で使われることもほとんどありません。主な用途は市街戦か犯罪関係です。日本人でこの訓練をうけたひとは射撃関係者の中でも、かなり少ないはずです。

LawrenceSawyer /iStock

確かに、赤報隊のようにオフィスに乗り込んで来ていきなり発砲するには、最適な方法です。一方、安倍元総理銃撃のY氏が使用した手製の銃には照準スコープの類は一切なく、犯行の1年半前の銃器制作開始から、「腰だめ」を想定していたはずです。

でも、だとすると2021年秋に安倍元総理のビデオメッセージを見て襲撃を決意したという話と合わなくなります。具体的なターゲットが決まる前から、借金を背負い人生の全てをかけて銃や火薬の制作に打ち込むことなど、テロとしても効率が悪すぎませんか。これだけの手間をかけるなら、食い詰めたヤクザからチャカ(拳銃)を買ったほうが、よほど早いでしょう。

事件直前のY氏の行動も不思議です。以下ウィキペディアの記述ですが、

6月28日、安倍は奈良県入りし、近鉄大和西大寺駅南口と、近鉄生駒駅前の2か所で演説を行った[27][28]。男は自民党のウェブサイトによって安倍の遊説スケジュールを把握していたが、「このときはやるつもりはなかった」という趣旨の供述をしている。

7日は(1)15時30分、西宮市、末松信介の街頭演説会→(2)16時45分、神戸市、末松信介の街頭演説会→(3)19時、岡山市、小野田紀美の個人演説会、の順番で3会場を回ることが記されていた。7月6日、男はJR奈良駅の券売機で岡山駅行き新幹線の片道切符を購入した

6月28日の大和西大寺駅南口、生駒駅前、また7月7日の西宮市、神戸市と、比較的自宅から近い街頭演説には目もくれずに、Y氏はいきなり岡山の個人演説会に向かっています。武器の射程の短さを考えれば、演台の近くまで寄れる街頭ではなく岡山市民会館に向かったのもあり得ない話です。

しかも、岡山までの新幹線切符を買ったのは前日の6日。西宮か神戸に寄ってみることは考えなかったのでしょうか。関西育ちのY氏が、奈良から西宮や神戸には私鉄一本で行けることを知らなかったとは、とても思えません。

次は私が狙います

さて、ここからは私の推理に基づく創作です。

たとえば、元総理に近いが内心は敵意を持っている人物X氏がいたとします。数年前X氏は例のY氏と偶然知り合い、意気投合し師弟のような関係になりました。Y氏は、T教会(いまさらの仮名ですが、ここはフィクションですから)と元総理との濃厚な関係を教え、同時に銃の作り方や「腰だめ」を、自身が所有する射撃場で指導しながら「チャンスを待つように」と言って聞かせていました。

いまだに謎が多い銃撃事件(AP Photo/Eugene Hoshiko)

2022年7月参院選。元総理の遊説に同行していたX氏は、Y氏を岡山に呼び出しました。「近々、獲物が大和八木に来る。あそこは警備がスカスカだぞ」と言いながら、「手製の銃で撃っても十分な殺傷能力の出る弾丸」を数発手渡しました。

Y氏は会場近くのコンビニから「犯行声明」を投函しました。確かに会場に行った痕跡を残すためです。捕まったあと、なぜ岡山に行ったか追求されてもX氏の名前が出ないようにする配慮です。奈良へ返る途中Y氏は、X氏の言っていた「近々」が翌日になったことを知りました。「よしやるぞ」。

銃撃事件翌朝。下駄のような活字が躍る新聞を見ながらX氏はつぶやきました。
「『腰だめ』か。わしの若いときとそっくりだな。それにしてもあれから35年かぁ。」

….と、ここであのお方からツッコミが。

先輩女史「村山クン、ちょっと待ちなさいよ。」

筆者「これはこれは先輩女史さん。お久しぶりです」

先輩女史「どうして元統一教会の元ヒットマンが元総理を狙うの。もともと話が逆じゃない?」

筆者「内紛や分派活動はカルトには付きものですから」

先輩女史「カルトって便利ね。それにどうしてX氏は大和八木で演説があるって分かったの?Y氏を岡山に呼び寄せたのは、長野からの演説会場変更前日の7月6日でしょ」

筆者「遊説先なんて、いくつか補欠をきめておくもので、翌日になったのはタマタマです」

先輩女史「よくそれだけ都合良く考えられるわね。今の村山クンは典型的な政治部型朝日脳よ」

筆者「ええ、来年は本屋大賞を狙うつもりです」

安倍晋三元総理、赤報隊事件で亡くなった小尻知博記者に心より哀悼の意を表すとともに、真相解明が進むことを願ってやみません。

 
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