憲法違反?沖縄県の二元外交、あまりにも危険な「成果」
玉城知事は自画自賛、国は黙認するが…- 沖縄県がワシントンD.C.に事務所を開設し、在米ロビー活動を展開する問題点
- 数字上は日本政府やJETROの活動より活発だが、「実態はお粗末」(自民県議)
- 憲法で「外交は内閣の専権事項」。違憲の疑いが強いなかで影響力を増す危険
沖縄県はワシントンに駐在事務所を持ち、米国政府・議会に対して「県民の民意は普天間基地の辺野古移設に反対」というロビー活動を展開している。だが、これは憲法と地方自治法に違反しており、日本の外交や安保を危機に陥れる行為だ。

沖縄県のロビー活動
沖縄県は米国の首都・ワシントンDCに事務所を設けている。正式には「知事公室基地対策課ワシントン駐在」といい、玉城デニー知事の前任者である故・翁長雄志氏が2015年に設置したものだ。「米軍基地問題の解決を米国政府や米国連邦議会などに直接訴える」ことを目的とした事務所と位置づけられ、そのための情報の収集と発信が業務となっているが、簡単にいえば、普天間基地の辺野古移設反対・大浦湾埋め立て反対という沖縄県の立場を米国の議会・政府関係者に訴えるためのロビー活動が任務である。年間の活動予算は、設置以来7,000万円前後で推移しているが、駐在する県職員の人件費3,000万円をこれに加えると約1億円に達する。
ワシントン事務所の予算をめぐっては、県政野党である自民党が反対の論陣を張り、同事務所経費を削除した予算案を代案として毎年議会に提出しているが、これまでのところ自民党案が認められたことはない。自民党は、「辺野古移設が着々と進められているところを見てもワシントン事務所の活動は成果をあげていない。事務所を廃止すべきだ」と主張している。
玉城知事の自画自賛
これに対して玉城デニー知事は、「米国政府や連邦議会に影響力のある調査研究機関や有識者等に精力的に接触し、個別面談している。面談等の人数は、2015年度の190名に対し、2019年度は約3倍の587名と大幅に増加している」「米国のシンクタンクCIPの調査報告によると、日本からの代理人として米国政府機関に登録されている全51機関が2019年に報告した活動総数3,209件のうち、沖縄県のワシントン駐在が1,192件、約37%と1位を占めており、2位以下を大きく引き離している」と自画自賛し、ワシントン事務所の活動は「大きな成果をあげている」と強調している。
だが、自民党の西銘啓史郎県議は、今年3月の県議会でワシントン事務所の一件を数度にわたって取り上げ、
- 実際にはワシントン・コア社(小林知代代表)という日系コンサルへの業務委託によって事務所が運営されており、委託費の内容に不透明な部分があること
- 活動件数は多いが、議会や政府に影響力を及ぼすような活動実績が乏しいこと
- 委託先のワシントン・コア社の評価によっても、事務所の発信する文書には誤解を招くような不適切な単語や表現が多いとされていること
などを指摘している。「知事は自画自賛するが、よくよく調べてみると実態はお粗末だ。ワシントン事務所は無駄遣いである」というのが西銘氏の主張だ。
お粗末な?実態
筆者も、玉城知事のワシントン事務所に対する高い評価はたんなる手前味噌にすぎないのではないかと疑い、知事が引き合いに出した、米国のシンクタンク・CIP(Center for International Policy)が公表する『アメリカにおける日本の影響力Japan’s Influence in America』(2020年11月)を確認してみた。
米国における外国機関のロビー活動については、外国代理人登録法(FARA ; Foreign Agents Registration Act)に基づき、代理人名を登録すると同時に活動実績を政府に届けなければならない。活動実績の中には、政治献金など金品を伴う行為はもちろん、面談や会合も含まれるが、議会関係者・政府関係者・有識者などに宛てたメールやファクスの送信も活動記録となる。
日本の機関または代理人のロビー活動の実績総計は2019年3,209件を数えるが、玉城知事が自画自賛したように、うち沖縄県の活動は1,192件、全体の37%を占め、日本の諸機関または代理人の合計51団体のなかで断トツの1位である。数字上は日本政府やJETROの活動より活発だ。
だが、CITの報告書によれば、米政府へのロビー活動の届け出は自発的なもので、多くの機関・代理人がすべての活動実績を正直に届け出ているわけではないという。3,209件という総計には含まれない届け出外の活動は数多い、とされている。また、沖縄県の活動実績には、シンポジウムの告知や知事のスピーチ原稿のたんなる英訳、日本政府の文書と沖縄県の文書を並列しただけの資料集等の送付も含まれており、西銘県議の指摘どおり、中身を見るとけっして充実しているとはいえない。
「日本政府vs沖縄県」という構図の浸透

とはいえ、約30ページのCIT報告書のうち、沖縄県のロビー活動に関する記述が約半分を占め、その記述は「巨大な日本政府に対抗する弱小・沖縄県の健気な努力」に対する同情に満ちている。同報告書は、「基地反対という民意が支える補助金依存型の沖縄の経済社会」という別の側面があることを無視しており、日米同盟を維持しながら沖縄の基地縮小を進めることの難しさに対する配慮も欠いている。にもかかわらず、「県民の基地反対という民意を無視して米軍基地を一段と強化する日本政府」というCITの見方は、わかりやすく共感を得やすい。したがって、「沖縄県のロビー活動に効果はない」とはとても断言できない。
このまま沖縄県が「物量作戦」ともいえる活動を継続すると、米議会や米政府に対する影響力はまちがいなく増大する。たしかにその芽はまだ小さいが、すでにニューヨークタイムズ、ワシントンポストはいうに及ばず、ウォールストリートジャーナルまで「日本政府に抑圧される沖縄県」という構図を好んで用いている。沖縄県のロビー活動、いや二元外交が「実を結ぶ日」は遠からずやってくるだろう。
沖縄県のロビー活動は違憲では
日本国憲法第73条には、「外交は内閣の専権事項」と定められており、地方自治法第1条にも、「国際社会における国家としての存立にかかわる事務」は「国の専権事項」と定められている。自治体が、外交や安保に関わる活動を展開することは国と地方の役割分担を逸脱する行為であり、明らかに国の専権を侵している。
沖縄県のロビー活動は憲法違反であり、地方自治法違反ではないのか。「米軍基地は住民福祉に反している」と沖縄県は言い訳するだろうが、実情として、米国におけるロビー活動は、国と地方の役割分担の否定どころか、民主主義の否定、国家の否定につながる危険な要素を孕んでいることに違いはない。
「沖縄県は国の方針に異議を唱えてはならない」といっているのではない。外国政府や外国議会に対する自治体の独自外交は認められない、というのが憲法や地方自治法の趣旨である。政府もこれを事実上黙認しているが、「千丈の堤も螻蟻の穴を以てついゆ」(頑丈な堤防も蟻の一穴から崩れる)の喩えもあるように、外交・安保に油断は禁物だ。沖縄県のロビー活動をこのまま放置すれば。県民の平和と安全どころか、日本国民全体の平和と安全が脅かされてしまう。
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