「自動運転」の未来図は描けているのだろうか

市場での成功と失敗を分ける分岐点とは?
ICPF理事長/東洋大学名誉教授
  • 自動運転技術の進展はめざましいが、日本の自動車会社も行政も課題が多い
  • 「レベル4」実現でも渋滞の問題は残るが、小型バス型で多人数を運べば回避
  • 乗用車型の開発か、スマートシティを含めたバス型か?未来図の相違がカギ

metamorworks/iStock

伝統的な自動車メーカーから新参のIT企業まで、完全自動運転の「レベル5」をめざす開発競争が繰り広げられており、自動運転技術は急速に進展している。日本では「手放し」が可能なレベル3の自動走行機能を搭載した新型車も発売された。ホンダ・レジェンドは、高速道路が渋滞して時速30キロ以下で走行している時に作動するシステムを搭載している。これによって、運転者の疲労やストレスを軽減して事故を低減するとホンダは謳う。

それでは、システムが作動中にコーヒーを飲んだり、スマートフォンをチェックできるのだろうか。

道路交通法第71条は、自動走行が許可された条件を外れた際には「直ちに、そのことを認知するとともに、当該自動運行装置以外の当該自動車の装置を確実に操作することができる状態にあること」を運転者に求めている。

というわけで、コーヒーを飲めない手はどこに置くのか。ハンドルに載せておけばよいが、それでは、今までの習慣でハンドルを回す運転者もいるだろう。このようにレベル3は中途半端で魅力は低い。

決められた条件下でシステムが全ての運転操作を実行するレベル4はどうか。しかし、レベル4には別の問題がある。それが交通渋滞である。

「小型バス」なら渋滞解消

首都高速道路では東名等との接続地点で朝晩渋滞が起きる。これは、道路の容量を超える自動車が集まってきたからで、レベル4の自動走行車にすべて置き換わったとしても改善されない。

渋滞を回避するには、一部の自動車をう回路に回すといったコントロールが必要になり、その機能を担うのがスマートシティである。例えば、茨城県つくば市のプロジェクトは中心部の交通渋滞防止をスマートシティ化で解決すべき課題の第一に掲げている。

つくばプロジェクトが取り上げる第二の課題は、持続可能な地域公共交通網の構築。実はこれが交通渋滞解消の鍵でもある。1人か2人しか乗らない自動走行車(乗用車型)を10人程度が乗る小型バス型に置き換えれば、交通量は1/5に減り、容量超過による渋滞は解消するからだ。

バス停で乗降し、決められたルートを往復するのが今までのバスサービスだが、スマートフォンで予約した乗客を自宅まで迎えに行き、行先まで届けるように変えればよい。近隣から集まる利用希望を調整して、AIでルートを決めるように柔軟性を持たせることもできる。「サービスとしてのモビリティ(MaaS)」を具体化すれば、つくばプロジェクトは「高齢者や障がい者など誰もが安心・安全・快適に移動できるまち」という目標を達成できるだろう。

バス停に止まる自動運転の小型バスを模したアメリカの想定図(Chesky_W/iStock)

乗用車型 or 小型バス型

小型バス型を多様な人が利用すると想定すると、安全対策に十分な配慮が必要になる。米国連邦政府に設置され、障害者政策の中枢を担う連邦アクセス委員会は、連邦運輸省と協力して、自動走行車が障害者等に利用されるための要件について議論する会合を公開で実施してきた。障害者の協力を得て実施した人間工学的な実験成果が多く発表されているが、それらは小型バス型の自動走行車の設計要件に反映できる。

歩道とバスの乗車口を結ぶ傾斜板の傾き、バス内での車いすの固定方法、縁石を避けて停車する技術、乗客に行先を告知する方法などが、連邦アクセス委員会の会合で取り上げられた話題である。

乗用車型を中心に自動走行車を開発していくか、スマートシティの中を走る小型バス型の新しい公共交通を開発していくか。未来図のこの相違が市場での成功と失敗を分けるかもしれない。

残念ながら、わが国政府が推進している戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)自動走行システムには、スマートシティとの連携といった発想が薄い。わが国自動車産業の競争力に影響が出なければよいのだが。

 
ICPF理事長/東洋大学名誉教授

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