日銀総裁人事 “誤報”、「日経テレ東大学」閉鎖…日経は大丈夫なのか?

近年のゴタゴタ表面化の流れで...
報道アナリスト/株式会社ソーシャルラボ代表取締役
  • 日銀総裁が植田氏に内定、雨宮副総裁打診を書いた日経の是非は?
  • 植田氏の記事の中で雨宮氏辞退の経緯をシレッと書いているが…
  • 同じタイミングで「日経テレ東大学」終了の文春報道も

日本銀行の黒田東彦総裁の後任に、元日銀審議委員で、経済学者の植田和男氏が事実上、内定したことが10日、明らかになった。

筆者の周囲の経済学者の間でも「サプライズ人事」と受け止める向きが多かったが、ある新聞をこよなく読み込んでいる読者にとっても、これ以上ない“仰天もの”だろう。日本経済新聞は6日の朝刊一面トップで、雨宮正佳副総裁に総裁職を打診したことがわかったと、大々的にスクープ記事として掲載していたのだ。

日銀次期総裁、雨宮副総裁に打診 政府・与党が最終調整

gyro/iStock

当たるも八卦当たらぬも八卦?

ところが結果は植田氏に固まり、雨宮氏の話は外れた。しかし日経はあくまで突っ張る気のようだ。「植田総裁後任」を報じる記事でシレッとこんなくだりが記載されている。

歴代最長となった黒田東彦総裁の後任選びは難航した。政府が本命視していた雨宮正佳副総裁が、今後の金融政策には新しい視点が必要だと就任を固辞したためだ

(出典:日銀異次元緩和、出口へ重責 総裁候補に理論派・植田氏太字筆者

要は日経としては雨宮氏に打診をしていたのは事実だから、誤報でなかったと言わんばかりの補足だ。しかし、雨宮氏打診の報道直後、政府は磯崎官房副長官が記者会見で「そのような事実はない」と全否定している。

政府が言っていることが正しいとは限らないが、それでもいわゆる「飛ばし記事」を出し、結果が違ったことについて取材過程の「釈明記事」を全く出さないのであれば、違和感が拭えない。見出しに「最終調整」もつけていてからには基本線として本決まりに入ってからのことを言うものだ。これは筆者だけではなく、経済ニュースに何年も関わってきた他社のベテランの記者たちの間でも同様の意見が広がっている。

日経の「飛ばし記事」への批判はSNSでもばしば目にするが、今回ばかりは一国の中央銀行のトップ人事だ。しかも今回は黒田体制下で進められてきた金融緩和策からの転換があるのかも含め、通例の総裁交代人事より、世界的にも注目度が高い。今回、マーケットへの影響はたまたま限定的で済んだが、日本国の中央銀行のトップ人事が「当たるも八卦当たらぬも八卦」程度のニュースでいいのだろうか。

「日経テレ東大学」閉鎖報道も

登録者100万人を達成したばかりの「日経テレ東大学」(YouTube)

さらに日経を巡っては、内部からこんなサプライズが文春砲で炙り出された。YouTubeで登録者100万人に到達したばかりの「日経テレ東大学」がお取りつぶしになるのだという。文春オンラインが10日夕、速報した。

ひろゆき、成田悠輔で話題 登録者数100万人のYouTubeチャンネル「日経テレ東大学」が終了へ

記事では「こんなに上手くいっているYouTubeチャンネルを潰すなんて、理不尽です」というテレ東関係者の怒りの声も載せている。おそらくネタ元で、怒りの余り文春に告発したのだろうが、生みの親だった高橋弘樹プロデューサーは今年1月、エンタメメディア「TOKION」の取材に対し、「こんなに急激に成長する産業があるんだと思ったし、そういう場に身を置くべきだなと思いました」などと番組への意気込みを語っていた。

人気YouTube番組『日経テレ東大学』の仕掛け人・高橋弘樹が語る「YouTube」と「テレビ」

興味深いのはこのインタビューで、高橋氏自身が「テレビ東京の常務を目指してますから(笑)」などとフリー転身を否定していたにも関わらず、高橋氏の退社が相次いで報じられている。わずか1か月余りでの急展開に何があったのか。

東京・大手町の日経新聞本社(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

それにしてもテレビ離れが進む若年層を中心に100万人もの登録者を集めていたチャンネルを本当に閉鎖するのであれば、あまりにも勿体無い。もし筆者がテレ東の株主であれば、未来のモデルづくりを模索する「実験場」を閉鎖する理由について問いただすような話だ。大株主である日経の判断は大丈夫なのだろうか。

幕末に勝海舟が幕府公認の下、前衛的な若者たちを集めて「神戸海軍操練所」を開設したが、勝の失脚により、1年も経たずに閉鎖された。今回の事態とダブって見える人も少なくあるまい。なお、神戸海軍操練所から巣立っていた若者が土佐出身の坂本龍馬であり、さらに明治になって日清戦争の黄海海戦で、初代連合艦隊司令長官として、清国海軍を撃破したのが薩摩出身の伊東祐亨だった。

高橋氏がテレ東を去るのが事実であれば、龍馬や伊東ばりに新天地での活躍を期待したい。と同時に近年、後藤達也記者の退社の際にもゴタゴタが表面化した日経にやるせない思いがしてしまうのだが…。

 
報道アナリスト/株式会社ソーシャルラボ代表取締役

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