そもそも「夢」に過ぎなかった“大阪ディズニーリゾート”公約、投資に「アテ」はあったのか?
逆ギレする政治家たちに虚しさ- “大阪ディズニーリゾート”論争で置き去りになった投資の現実味は?
- TDSの拡張ですでに3200億円投資、「上海方式」なら巨額の税金投入
- 問われる公約のあり方、逆ギレする政治家たちの言動に虚しさ
自民党大阪府連(大阪自民)の一部が、統一地方選の公約に掲げたディズニーリゾート誘致を巡って、一連の政治的な議論で置き去りにされているのが建設費などの経営的な論点だ。批判的に報じてきた弊社を逆ギレで訴えようとする不愉快さはさておき、経済ジャーナリスティックに少し冷静に見ていきたい。

TDS拡張にすでに3200億円投資
言うまでもなくディズニーリゾート進出を決めるのは米ウォルト・ディズニー(本社・カリフォルニア)だ。ニューヨーク証券取引所に上場しており、投資家などに向け年次財務報告を毎年公表している。その2022年度版を見ると、「Japan」に言及しているのが6か所あるが、東京ディズニーリゾート(TDR)に関するくだり(17ページ)では次のように東京ディズニーシー(TDS)の大規模拡張工事に言及している。
OLC is expanding Tokyo DisneySea to include an eighth themed port, Fantasy Springs expected to open in spring 2024.
(筆者訳:オリエンタルランドは東京ディズニーシーを拡張中であり、2024年春に8 番目のテーマポート、ファンタジースプリングスを開業する予定だ)
ディズニーファンにとってはわざわざ米本社の年次財務報告を引かなくてもおなじみの話だが、オリエンタルランドは、ファンタジースプリングスの開設に向けて、「既存施設への追加投資として過去最高となる約2,500億円」をかけており(公式リリース)、昨年10月の開示資料によれば、「工期の延長に加え、資材費・人件費の高騰、デザイン・計画・工法の詳細化、円安の進行等により、 投資額は約 3,200 億円となる見込み」とコストの上方修正をしている。
3200億円という金額を見るだけでも日本市場に巨額の投資が行われていることがわかるが、この規模感を比較するのに2016年に開業した上海ディズニーリゾートの投資額を挙げたい。フォーブスによると、投資額は55億ドル。現在の為替に換算すると約7,224億円だから、つまりTDR(TDS)の拡張事業は新規施設の半額もの規模にもなる。これだけを見てもディズニーおよびオリエンタルランドは、日本市場での投資の回収に専念せざるを得ないことが伺える。
もちろん、ディズニーやオリエンタルランドが新たに巨額の資金調達をして、向こう数年以内に大阪など日本国内にディズニーのテーマパークの計画に乗り出すことは理論上あり得ないわけではないが、少なく見積もっても5000億円規模はかかる。大阪自民の一部が熱心に掲げている公約には具体的な財源のイメージがうかがえないが、まさか中国が上海ディズニーを誘致した時のように官民の合弁会社方式にしようとでも言うのだろうか。
「上海方式」なら巨額の税金投入
2009年当時の海外メディアによれば、出資比率はディズニーが43%、上海市が57%。建設費は35億9000万ドルだった。現在の日本円に換算すると4744億円。仮に大阪市や大阪府で51%の出資するとなれば、二千数百億円もの税金を投入することになる。これは大阪市の歳入額の8分の1程度の規模になる。

当然のこと、これは日本と経済体制の異なる中国のケースだから、これほどの規模で大阪市や大阪府が公費を投入することはあり得ないが、民間資本のみ、つまりディズニーやオリエンタルランド側が集めたお金だけで“大阪ディズニーリゾート”を計画するというのであれば、政治や行政が特定企業の経営方針にどこまで口を出す筋合いがあるのだろうか。
最後に政治記事モードに引き戻そう。今回の大阪市長選、市議選、府知事選、府議選は万博も控えてどのように5年後、10年後の持続可能な成長戦略を作り出し、少子高齢化にどう立ち向かっていくかの建設的な論戦をすることが望まれていたのではないのか。
有権者やメディアの注目を集めようという選挙戦術は理解するが、大阪自民は腐っても国政政党の大阪地方組織だ。自民は責任政党を自負しているはずだが、この選挙戦後半、堅実な問題よりも「夢の国」の話題が先行しがちだった状況を大阪市の有権者はどのように見ていたのだろうか。ましてや公約づくりの関与の度合いについての見解の相違から、政治家が批判的な報道に逆ギレし、しかも名誉毀損訴訟を起こして、その目的が情報源を洗い出そうとすることには唖然とするばかりだ。
筆者は読売新聞記者時代から20年余り報道の仕事をしてきたが、名誉毀損訴訟を正式に提起されるのであれば初めてだ。選挙戦最後の日に際し、これほど虚しい政治取材の経験はなかった。
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