米政府が制裁:ユニクロ柳井氏が「ノーコメント」を避けるべきだった国際情勢

人権問題、日本企業は受け身が許されない時代
危機管理/広報コンサルタント
  • 企業の「人権尊重」が企業統治指針改定に入る。6月から説明責任がさらに要求
  • 日本ではウイグル問題で注目も、欧米や国連では長年ビジネスと人権の取り組み
  • ユニクロの柳井氏「ノーコメント」でも米に制裁。曖昧な態度は許されない時代

企業は「人権尊重」についての説明責任がこの6月からより一層求められるようになります。金融庁と東京証券取引所は、6月のコーポレート・ガバナンスコード(企業統治指針)改定で、「人権の尊重」規定を盛り込むからです。国際的には既にユニクロ商品が、ウイグル人強制労働による生産の疑いにより米国で輸入差し止めになるなど「疑いを晴らす説明」がなければビジネスができない状況が生じてきています。米国バイデン政権はウイグル問題を人権外交として展開する様相であり、国際的企業にとっては放置できないリスクとなります。当然、株主総会でも今後、質問が増えると予想できます。企業はこの問題にどう向き合って説明責任を果たしていけばよいのでしょうか。

欧州各地で展開されるウイグルデモ(撮影2015年仏 AdrianHancu/iStock)

受け身の日本企業

筆者が関心をもったきっかけは、オーストラリア戦略研究所(Australian Strategic Policy Institute、以下、略称ASPI)が出した調査報告書で人権侵害リスクを指摘された日本企業14社のコメント。例えば、「サプライチェーンに強制労働がないよう求めており、これまで強制労働があったという報告は受けたことがない」「そのような行為を行っていないとの報告を受けている」など、受け身の回答。企業広報としては積極的に調査する姿勢を見せるのが望ましいといえますが、どうしてこのような後ろ向きの回答になったのか、純粋に疑問が湧きました。おそらく法務だけで回答したのか、突然起きた問題で企業が対応に困っているのだろうと考え、時系列で整理しました。

ところが調べてみると、ウイグル問題があるから「ビジネスと人権」が叫ばれるようになったのかというとそうではありませんでした。国連が「ビジネスと人権に関する指導原則」を策定したのは2011年になるので、ウイグル問題がクローズアップされる前からだといえます。従って、企業は十分準備する時間はあったのです。

ただ、欧米各国が2012年から次々にマグニツキー法という人権侵害を行った個人や組織に対して資産凍結やビザ発給制限などの経済制裁の法律を制定する中、日本は進みませんでした。しかし、「だから、日本企業は強く危機意識を持てなかった」と言ってしまってよいのでしょうか。日本ウイグル協会の記者会見でも「日本政府の対応が先ではないか」といった報道陣の質問が繰り返しなされましたが、ここは大いなる疑問です。何事においても企業の方が時代の先端を走っているというのが実感値だからです。

例えば、筆者が専門とする危機管理広報。倒産リスクを抱える企業が最先端、地域崩壊リスクのある自治体が次、倒産リスクのない霞が関が一番遅れています。あるいは、案外日本人は人権意識が低いのかもしれない、と別の危機感を持ちました。女性の社会進出の遅れ、手薄な児童養護施設体制といった弱者への目線が抜け落ちていることを考えると人権意識の遅れには、やけに納得もしてしまいます。

ユニクロ「ノーコメント」でも制裁

では、企業としてこれからどうしたらいいのでしょうか。日本が未制定であっても、今回のユニクロ商品が米国で輸入差し止めになることを考えれば、企業は国内法だけを基準にしていてはビジネスができない状況は差し迫っています。広報としては、受け身の回答は逃げているようにしか見えません。事業活動の中には直接の取引だけではなく、仕入先の児童労働や強制労働による生産といった人権侵害リスクも把握して、予防や軽減策を講じることも含まれる「人権デューデリジェンス(人権DD)」はこれから企業の評判において重要なチェック項目になる予感がします。この言葉が認知されるようになれば、企業は財務面だけではなく、人権面にも説明を求められ、株主総会は投資家だけではなく一般生活者の厳しい目線にもさらされることになるでしょう。

たとえば、ファーストリテイリングの柳井正氏が4月の決算説明会でウイグル問題について「政治的には中立な立場。ノーコメント」の発言が注目され、ロイターなど海外メディアも含めて多数報道されました。この「ノーコメント」は曖昧で肯定の意味でとらえられることがあるので、避けるべきでした。特に報道関係者は「ノーコメント」には敏感です。せっかくの「取引先の工場で強制労働などの問題があれば即座に取引を停止している」が吹き飛んでしまいましたから、コメントとしては失敗しているといえます。

また、米税関・国境警備局がユニクロ製品をウイグル強制労働に関与している工場と取引があるとして今年1月に輸入差し止めにしていたことを、4か月も経った5月10日に公表したことを考えると、4月8日の柳井氏の発言「政治的には中立な立場」に対する社会的制裁のようにも見えます。一方、中国も黙ってはいません。6月1日、新疆ウイグル自治区から綿花を輸入しないと発言したナイキ、H&M、ZARAの商品は子供の健康に害を与えている可能性があるとして中国税関当局が輸入を停止しました。

売上か人権か、答えは明確です。人権を犠牲にした商品、企業は評判を落とし、持続しないでしょう。ウイグル問題が注目を集めてしまったからには、あいまいな態度でビジネスを優先することはできない状態となりました。今後、企業は人権への態度を明確にしてメッセージを発信する必要があるといえますが、その際、表現に工夫を加えることが広報の腕の見せ所ではないでしょうか。

<参考サイト>
日本ウイグル協会サイトの日本企業14社の回答一覧「日本企業のウイグル人強制労働問題に対する取組みに関するフォローアップ調査についてのご報告」

 
危機管理/広報コンサルタント

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