和歌山にのぞき見た地方政治「底なし」の闇、日本人の99%が気づかない朝日新聞の「大スクープ」

なぜPDCAのツール「事業評価」を辞めたのか
報道アナリスト/株式会社ソーシャルラボ代表取締役
  • 連休中に朝日新聞が放った「知る人ぞ知る」大スクープとは?
  • 和歌山県で行政のPDCAが回らなくなっていた「原因」が発覚
  • なぜ前県政が辞めたのか?なぜ報道機関が見抜けなかったのか?

今年は珍しくゴールデンウイーク明けの月曜が新聞休刊日ではないが、連休中に筆者が仰天したのが朝日新聞の「大スクープ」だった。しかも日本中の99%がその価値に気付いてない。発信源は和歌山県だ。

和歌山のシンボル「和歌山城」(PhotoAC)

「絶対に必要」と和歌山県知事 外部監査受け、県の事業評価再開へ(朝日新聞デジタル 5/6)

和歌山県に公認会計士ら外部の専門家がこのほど提出した包括外部監査の報告書で「事務事業評価」の復活を勧告し(記事中は「事業評価」)、岸本周平知事が再開する意向を示したというのだ。

興味深いのはこの「スクープ」は記者が極秘に取ったインサイダー情報を書いたわけではないことだ。朝日新聞の伊藤秀樹記者が、他紙の記者とともに出席した知事の定例記者会見で聞き出したものだ。

この知事発言の重要性に「99%が気付いていない」と書いたが、99%は読者のことだけではない。この間、記事にしなかった他紙の県政担当記者も、いや10日余り経ってから掲載判断した朝日新聞のデスクすらも含まれていると思う。

ちなみに「気づいた」1%の人たちは近年各地で静かに広がる減税運動のメンバー(減税派)だ。それぞれ地元の市長や市議、その候補者などに対して事務事業評価を行うように迫り、機会があれば自分たちでも実践しており、今回の「スクープ」にも関心が寄せられている。

記者会見での「スクープ」

岸本周平和歌山県知事(岸本氏公式サイト)

さてそもそも事務事業評価とは何かを知らない人も多いだろう。スクープの価値を説明する意味でも(おそらく)伊藤記者が岸本知事に問いただした場面を4月25日の記者会見議事録から引っ張ってみたい。

朝日:この前、包括外部監査から意見があり、資料提供もありましたが、意見の内容を見ると、農業の補助事業に関しての事業評価をやって県民に対して説明責任を果たすべきだとか、事業評価の期間について、農業はなかなか成果がちょっと先になったりすることもある、などの意見が出ています。その意見を受けて、知事として、現時点での考えはいかがですか。

この日の記者会見の目玉は近隣の大阪万博で行う「空飛ぶクルマ」。事務事業評価のことは県の発表事項ではなく、最後の質疑応答で出てきた。(おそらく)伊藤記者に振られた岸本知事の回答(太字は筆者)。

知事:私が県庁に入らせていただいて半年近く経ちますが、最初に驚いたのは、県庁の仕事が、いわゆるPDCAサイクルが回っていない。チェックが全くないとこの場でも申し上げたと思いますが、監査の結果をいただいて初めて分かりました。事業評価をしていなかった。事業評価をしなかったら、PDCAサイクルが回らない。何で事業評価をやめたのか、私にはよく分かりません。従いまして、監査人のおっしゃるとおりで、事業評価を復活させたいと思っています。

知事の説明に補足すると、事業評価とは、行政が行った事業がどれだけの政策効果があったのかを検証・評価する制度。事業が不採算を積み重ねれば倒産につながる民間企業と違い、行政機関は黙っていても税収が自動的に入り運転資金は安泰だ。

しかしこれがコスパ意識を醸成しづらくし、「イカキング」に象徴される税金の無駄遣いにつながる。だから政策的に効果があったのか定期的に検証することは欠かせないが、そのツールとして開発されたのが事務事業評価だ。その復活を決めた岸本知事の判断は妥当だ。

日本で最初に事務事業評価を始めたのは1996年の三重県の事例とされる。当時、全国的に自治体職員がカラ出張などで裏金作りを行なっていたことが相次いで発覚し、北川正恭知事(当時)が県政改革の一環で導入した。北川氏といえばマニフェスト(政権公約)の提唱者としての方が有名だが、地方自治においてもPDCAサイクルを回すツールを実装した先駆者でもあった。

しかし検証作業は自治体にとって煩わしいのが本音だ。

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報道アナリスト/株式会社ソーシャルラボ代表取締役

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