たばこは「有害」だから増税してよいか?加熱式たばこの増税に反対する署名請願!始めたワケ
蔵研也『リバタリアン経済教室』#3- 年々進むたばこ増税。本体価格比の税率は62%に。加熱式たばこにも増税
- 筆者が加熱式たばこの増税に反対し、署名を呼びかける理由とは
- たばこだけを狙い撃ちするのは合理的か?「たばこは医療費を増加」は本当か?
1985年のたばこ税は1本1円あまり、1箱(20本)に22円だった。健康被害がはっきりしてきたこともあって、その後は日本の財政難に埋め合わせるための急速な税率の引き上げが続き、2021年には1本15円、1箱358円、本体価格比の税率は62%にもなっている。
同じように、数年前から紙巻きたばこの代替商品として生まれた加熱式たばこについても、昨年2022年には同額の税が課されるようになってしまった。しかも、ロシアのウクライナ侵攻もあって、防衛費の捻出のために来年2024年には1本あたり3円の増税まで予定されている。
そこで私は加熱式たばこへの増税に反対する請願を出すべくチェンジオルグで署名集めを開始した。すでに13,000を超える方々に賛同いただいている。そんなことを聞くと「なぜ?」「たばこは害だから増税も仕方ない」という人が多いだろう。それでも私が「加熱式たばこへの増税」になぜ敢えて反対するのか、以下に述べてみたい。
なぜ、たばこだけを狙い撃ち?
そもそも論になるが、近代社会の人権思想の基礎は、個人の「自由」な活動の保障にある。ある個人が楽しみとしている活動は、他人に直接的な迷惑をかけない限り、最大限度に許されなければならない。たばこは「有害」だから税負担を重くしてもかまわないというなら、それは喫煙者と喫煙行為に対する差別であり、我々はそうした主張や論理について猛省しなくてはならない。
例えば、冬山登山にはかなりの危険性が伴うが、我々はそれを禁止することはないし、もちろん重税を課すべきだとも考えない。同じように、バイクに乗ることは、かなり危険だが、それでも我々はバイクに重税を課すべきだとは考えない。なぜ、たばこだけを狙い撃ちすることが許されるのだろうか。
また実際的の世界各国の調査を見ても、喫煙率は、低所得者層のほうが高い。なぜ低所得者層からより多くの税を集めようとするのかも、批判的に考え直す必要があるだろう。
たばこは医療費を引き上げていない
おそらく多くの人が最初に思いつくたばこに対する反対理由は、「たばこは本人に有害である」から、その健康被害を減らすためには、税負担を重くすることが許されるというものだ。つまり喫煙のコストを上げることで、医療費が減ると想定しているのである。例えば、日本医師会などの推計からは、たばこは年間1兆5000億円にもなる健康被害を生み出していると喧伝されている。
たしかに一見して煙草によって引き起こされる肺ガンなどによって、全体としての医療費は増加しているようにも見える。そして世間的には、禁煙活動に都合が良いように「たばこは医療費を増加させている」と広く信じられている。
しかし、これは事実の誤認である。なぜなら「もし喫煙者が肺ガンになっていなかった」としても、その個人は何か他の病気になって最終的に死亡する。煙草によって個人の生涯的な医療費が増加しているか、あるいは減少しているのかは、たばこが引き起こす病気が他の病気に比べてより多くの医療費を必要とするかどうかで判断されなければならない。
そして世間ではまったく知られていないが、実際に例えば学術研究(※1)を見ると、喫煙者のほうが生涯を通しての医療費は少ないのである(これは主として、喫煙者は非喫煙者よりも平均寿命が数年短いため)。

加熱式たばこは「減税」が合理的
もし喫煙というのはニコチンへの依存症であり、その害を取り除くべきだと真面目に主張するのであれば、たばこ税を引き上げるというのはあまり効果的ではない。たばこは価格が引き上げられても、それほど需要は減らないからだ(価格弾力性が低い)。
むしろ紙巻きたばこを加熱式たばこによって代替させるために、加熱式たばこの税を引き下げるべきである。実際に、紙巻きたばこの煙にはニコチン以外の多くの有害成分が含まれるが、加熱式たばこではそうした物質はかなり少ないことが欧米から報告されつつある。もちろん、結論づけるには長期的な調査結果を待つ必要があるが注目すべきであろう。
また、加熱式たばこは紙巻きたばこに比べると火事を引き起こす可能性も低い。こうした点を考えるなら、紙巻きたばこに代えて、加熱式たばこを嗜好するように誘導するほうが、はるかに有益だろう。こうした考えはハームリダクション(害の低減)と呼ばれ、世界的に薬物などの使用に広く実践されつつある。

「私は吸わないから、たばこ税は関係がない」?
1930年代のドイツでナチスが政権を取ると、まず共産党員、ついで社会民主党員、さらに労働組合員への迫害へと、急速にその独裁の規模と程度を広げていった。この状況を振り返って、ルター派の牧師マルティン・ニーメラーは、次のような良く知られた詩を残している。
ナチスが共産主義者を連れさったとき、私は声をあげなかった。私は共産主義者ではなかったから。彼らが社会民主主義者を牢獄に入れたとき、私は声をあげなかった。社会民主主義者ではなかったから。彼らが労働組合員らを連れさったとき、私は声をあげなかった。労働組合員ではなかったから。彼らが私を連れさったとき、私のために声をあげる者は誰一人残っていなかった。
現在の日本の喫煙率は、男性27%、女性7%でしかない。自分はたばこを吸わないからたばこ増税は関係がない、あるいは望ましいとさえ考える人は多いだろう。しかし、そうした考えは、次はアルコール、さらに欧米のように砂糖飲料(糖尿病の原因となるため)、そして食塩(高血圧)にさえ及ぶかもしれない。こうして増税は、政府が「望ましくない」と考えるものすべてに広がる。
今後の日本は高齢化が進み、ますます財政難に陥り、政府はご都合主義による際限のない増税を企てるだろう。それらを拒否するために、今ここでたばこ増税に反対の声をあげなければならない。
■
「加熱式たばこの増税に反対する署名請願!」はこちらのページへ
(※1)「喫煙者と非喫煙者の障害医療費」(林田、村上、高橋、辻、今中:2012年)
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