新聞休刊日前夜の動画アップ…ジャニーズ事務所のあざと過ぎる「謝罪」

報道メディアへの“舐めプ”?(追記あり)
報道アナリスト/株式会社ソーシャルラボ代表取締役
  • ジャニー喜多川氏の性加害疑惑で、藤島ジュリー景子社長が謝罪動画
  • 新聞休刊日前夜遅くの動画アップなど、危機管理広報の観点からも疑問
  • 「知らなかった」の疑問。事実究明に後向きでメディアと社会を“舐めプ”

ジャニーズ事務所創業者のジャニー喜多川前社長(2019年に死去)による性加害疑惑で、事務所の現社長、藤島ジュリー景子氏が14日深夜、公式サイトに動画と声明文を掲載したが、一連の疑惑について自身が知らなかったと釈明するなどネットでは全く共感を得られていない。

筆者はかつて企業や政治家の危機管理や広報対応を助言する仕事をしたことがあるが、その経験を踏まえて言えばメディア側の「弱点」を突いているかのような「手口」のあざとさに驚き呆れるばかりだ。

謝罪動画をアップしたジャニーズ事務所の藤島ジュリー社長(ジャニーズ事務所公式サイトより)

朝方、新聞受けに行って空であることに気づいた。例年、5月の新聞休刊日は大型連休明けの月曜のはずが、今年は1週間遅れて今日だった。「まさか」とは思いたい。しかし万一、翌朝の新聞休刊日を「狙って」、その前夜に動画をアップしたのであれば、あまりにあざといとか言いようがない。

さすがに邪推だったとしても、結果として休刊日前夜はジャニーズ軍は「夜襲」で「不意打ち」を仕掛けたことになる。もちろん新聞社も社会部などの記者が休日出勤で事件事故災害などの有事に備えており、ネット速報体制も年々充実はしているが、それでも休刊日体制は若手を主体に人数は多くない。芸能担当の文化部などの記者は紙面制作がないため、休刊日前日の日曜はほぼ休暇を取っていよう。

1日置いて翌々日の朝刊までには他のニュースも入り、他に大きなニュースがあれば、扱いがそれだけ小さくなりやすい。社会面トップのはずが、準トップになり、あるいは大事件が起きてさらにそれより小さくなる…という具合に、ネットニュースをあまり見ない中高年などへの露悪効果は少しでも抑えられることになる。

「スポーツ紙のネットニュースが出るから小細工しても意味がない」という意見はもちろんあろう。スポーツ紙には休刊日がないし、SNSの反響まとめを含めたネット速報体制はこちらも強化されている。ただし、東スポを除く主要スポーツ紙はジャニーズ事務所の「コントロール下」に置かれていると言われるほど、一連の問題では報道が非常に抑制的だった。そのことを考えると、主要スポーツ紙のネット速報については事務所側も一般紙ほどには懸念はしておらず、一時的な炎上で済むと見越しているのではないか。

東京・六本木のジャニーズ事務所(編集部撮影)

いずれにせよ、切迫した緊急性がないにも関わらず、日曜深夜に動画と声明文をアップするという対応には企業広報の観点からも非常識にしか思えない。

近年、企業の危機対応については「下手に記者会見で絵づくりしてしまうとネットに後々残ってしまう」(PR会社幹部)という思惑が働くようになっており、オウンドメディアを“悪用”して一方的な発信に終始するケースが散見される。それならそれで社長が顔出しで動画をアップしたのは話題の素材を提供し、かといって記者との生での質疑を回避するというのは危機対応としても中途半端だとしか言えない。

何よりも故人による「犯行」を理由に事実究明に後ろ向きの姿勢をしたのでは、再発防止をするにもそもそもの前提が崩壊している。一連の性加害疑惑をジュリー氏が「知らなかった」というのも、2003年に文春訴訟の東京高裁判決で認定された経緯からすれば説得力がなさすぎる。ジュリー氏はそのことについて「任された役割以外の会社管理・運営に対する発言は、できない状況でした」「会社運営に関わるような重要な情報は、二人以外には知ることの出来ない状態が恒常化していました」などと異常なガバナンス体制を釈明しているが、被害者の面前で同じことを言えるのだろうか。

今回の稚拙な対応では、企業姿勢に対する根本的な社会の疑念を抱え込んだままにもなる。外部取締役やコンプライアンス体制の充実と、それらしき対応策を並べ立てたところで形ばかりの「謝罪」をしたと受け止められるだろう。その根幹の一つには、週刊文春などの一部メディアを除き、BBCの報道があるまで黙殺していた大半の国内大手メディアが今もなお舐められているからではないのか。少なくとも筆者は日本社会をも愚弄しているようにしか思えなかった。

【追記:17:30】スポニチによると、動画をアップするという対応は、被害者の元ジャニーズJr.、カウアン・オカモト氏からの提案を受けてだったようだ。オカモト氏はジュリー社長とも会談し、「記者会見すればって話もあるけど、リアルが届いた方がいいよね」と持ちかけたといい、今回のジャニーズ側の対応に影響を与えた可能性がある。

しかし、繰り返すが、結果的には記者との質疑なしに一方的な発信にして疑念を残した上に、記者会見の絵をつくらせないという広報対応をするのであれば中途半端に素材を残してしまった。もし絵をつくらせないなら、文書のみの発表にする一手はあった(個人的には賛同しないが)。オカモト氏の提案は 既存メディアなど眼中にないYouTube世代らしいが、ジャニーズ側が企業としてどれが最適な危機対応なのかを選ぶかは別問題だ。

 
報道アナリスト/株式会社ソーシャルラボ代表取締役

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