フェンシング協会の大改革を後押し、副業・兼業人材の大活躍
連載『ビジネスで社会を変える共感力』#2- フェンシング協会の躍進を支えた副業・兼業人材のエピソード
- 財源によりフルタイム雇用が厳しい中、太田会長が副業・兼業人材公募を即決
- PRやマーケティングのプロが貢献。斬新な取り組みを実現していく
(編集部より)北京五輪銀メダリストの太田雄貴氏が会長に就任してからのフェンシング協会の躍進はめざましく、斬新な取り組みが報道されたのを見かけた人も多いでしょう。あらたなチャレンジに踏み切った協会に、副業や兼業というかたちで後押ししたプロフェショナルの存在がいました。当時、ビズリーチの広報として、両者のマッチングに立ち会ったVisionalの田澤玲子さんが振り返ります。

太田雄貴会長率いる日本フェンシング協会(FJE)は、自らを「ベンチャースポーツ」と銘打ち、スポーツ業界初の取り組みは数えきれません。その中心となるのが、全日本選手権のエンターテインメント化。2018年にはジャニーズの劇場として知られる東京グローブ座、2019年には、LINE CUBE SHIBUYA(旧・渋谷公会堂)が舞台となりました。
それ以前は入場無料が当たり前だった大会を、最高3万円(2019年)でチケットを販売。そして、2020年、コロナ禍の影響で無観客開催を強いられるなか、LEDを駆使した迫力ある映像を「AbemaTV」でライブ中継。剣先の動きをAIによってグラフィックスで可視化する映像も配信するなど、斬新な取り組みをいくつも打ち出し、大会収支の黒字化に成功しました。
太田会長は、全日本選手権のエンタメ化を起点にフェンシングの魅力を伝え、人々を魅了し、協会財政の健全化、選手の強化へとつなげ、オリンピック・パラリンピックに頼らない、自ら稼げる自立した協会を目指しています。その素晴らしい日本フェンシング協会(FJE)の改革を多くの人たちが支えていますが、そのひとつがスポーツ界初、副業・兼業限定のビジネスプロフェッショナルの公募でした。2018年10月に、即戦力人材と企業をつなぐ転職サイト「ビズリーチ」を通じて募集したところ、4人の採用枠に1,127人もの応募があり、採用された方々が現在も活躍していらっしゃいます。

若き会長の即断即決
ここで、2018年当時を振り返ってみます。2017年に31歳という異例の若さでFJE会長に就任してから1年。太田会長は新たなビジョン「フェンシングの先を、感動の先を生む。」とともにいくつかの目標を掲げました。その目標の一つである「財政基盤の安定」のために、収益事業を増やしていくことが大きな課題で、大会のエンタメ化などを推進していました。次々とアイデアがあふれ出す太田会長でしたが、人手不足に悩んでいました。しかし、財源が限られるなか、ビジネスプロフェッショナルをフルタイムで採用するのは難しい状況でした。

当時、太田会長のその課題を伺った弊社は、解決策として、「福山モデル」を提案。「福山モデル」は、前回ご紹介した広島県福山市が自治体初、民間プロフェッショナルを副業・兼業限定で「ビズリーチ」で公募、約400名から応募、当初1名枠だったところ、5名も採用されたという成功事例です。すると、太田会長は「やりましょう」と即答し、2カ月もたたないうちに、公募を開始。当時、私もPRのお手伝いをさせていただいたのですが、立ち上げ間もないスタートアップ並みの太田会長のスピード感のある決断力と行動力に脱帽したことをよく覚えています。
そして、太田会長は、当初から「スポーツ界の副業・兼業モデルとしては、いわばファーストペンギンとして僕たちは飛び込むことになりました。でも、いいものは独占せず、みんなで共有したいです。スポーツ界をよりよくしていくために、うまくいけば、どんどんシェアしたいです」と何度も話されていました。
「スポーツ界全体をよくしたい」という想いに、メディアの方々が共感し、テレビや新聞、ビジネスメディアなど100を超えるメディアで紹介していただきました。私自身も、太田会長の熱い想いに突き動かされ、弊社の担当者とともに、公募説明会の準備から採用決定時の就任式記者発表会まで、怒涛の半年をご一緒させていただきました。
そして、1,127名から応募があり、各界の第一線で活躍する4名の戦略プロデューサーが採用されました。そこから共感の輪はさらに広がり、「福山モデル」をスポーツ界で実施したスポーツ界の副業・兼業モデル「太田モデル」は、4カ月後には日本ハンドボール協会、日本車いすラグビー連盟での副業・兼業公募につながり、その後も、数々のスポーツ団体に広がっていきました。
スキルでフェンシング愛を形にする
ここでは、日本フェンシング協会の戦略プロデューサーの活躍ぶりをご紹介します。1人目は、PRプロデューサーの鳥山聡子氏です。鳥山氏は、株式会社ブリヂストンのオリンピック・パラリンピック推進部の渉外・支援課長して、協賛権利を活用したアクティベーションの企画・実行や渉外を担当されています。
鳥山氏のFJEでのミッションは、年間のコミュニケーション設計やPRプランの立案でした。しかし、当時協会内にPR選任の方がおらず、大会や公開練習、記者会見の企画設計やアレンジ、メディアリレーション、当日の運営やプレスリリースの発信、SNSの運営まで、PR活動のあらゆる活動を担当することに。鳥山氏が就任したことで、FJEのメディア掲載実績は飛躍的に増加し、また、SNSのフォロワー数も2倍以上になりました。

非常に多忙な毎日を送られている鳥山氏に、やりがいや学びについて聞いてみました。
「これまでの経験を成長著しいスポーツの世界で活かしながら、経験やスキルの幅を拡げることができます。FJEは外部から仲間入りした私にもいろいろな業務を任せてくれ、また会長である太田さんはトライ&エラーを許容しつつも責任はとってくれるというスタンスなので、思い切りチャレンジできる環境です。フェンシングはもちろん、スポーツ界は愛が強い方々がとても多いように思うので、自分のスキルでその愛を形にし、発信していけることに大きな醍醐味を感じます。
私自身についても、以前は完璧主義なところがありましたが、今はできない言い訳を探すよりどうやったらできるようになるか?と考えたり、ここはできている!とポジティブな方に目を向けるようになったりとマインドが変わってきました。両方とも全力で取り組んでいるので、『副業』ではなく『複業』です」
もう一人、FJEのマーケティング戦略プロデューサーを務める朝倉裕貴氏は、外資系IT企業でマーケティングマネージャーとして、マーケティング・ブランド戦略などの立案などを担当しています。FJEでは、全日本選手権をはじめとした各企画において、ストーリーやマーケティングの施策づくりなど、企画立案を担当。

朝倉氏に応募の動機とやりがいについて聞いてみたところ、次のようにおっしゃいました。
「0→1でいろいろなことに挑戦できる場だと感じました。参画当時私が携わっていた業界は、既に成熟産業になりつつある段階で、シェア1、2%をいかに高めるかを日々考えていました。やりがいは感じていましたが、自分自身で生み出したいと強く思ったのです。フェンシングならではの価値を見出し、浸透させることにやりがいを感じます。ビジュアライズドフェンシングをはじめ、デジタル×スポーツとしてその競技を楽しめるというのは、フェンシングならではの価値です。最新テクノロジーを掛け合わせることでさらに進化していけるスポーツで、そのためのアイデアを考えることに楽しさを覚えています」
「太田モデル」成功の秘訣とは?
太田会長は、鳥山氏と朝倉氏の活躍について、「今ではフェンシング界の改革に必要不可欠な存在」と話しています。

「太田モデル」は、これまでスポーツ界出身の方を中心にした運営が多かったスポーツ団体に、「副業・兼業公募」でオープンに募集し、新たな風を吹き込みました。しかし、採用したから成功したとは言えません。採用はスタートラインであり、採用された方が活躍できる環境を整えられるように、トップがコミットすることが重要です。
太田会長は、初めから「スポーツ界がよりよくなるために、必ず成功させてロールモデルになる」と宣言していました。そして、戦略プロデューサーや協会の方々と密にコミュニケーションをとり続け、まさにコミットされていました。それが、「太田モデル」の成功の秘訣なのではないでしょうか。
お二人をはじめ多くの方々が活躍する副業・兼業公募モデル。共感の輪は加速度的に広がり、太田会長の予言どおり、さまざまなところに活躍の場が広がっています。
(本連載は、毎月第3土曜日に掲載します:次回は7月17日予定)
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