【特報】文春もひろゆきも言わない岸田翔太郎の真実 〜 首相公邸「寝そべり写真」なぜ流出したのか?

虚実内混ぜ、膨らんだ“ドラ息子”イメージ
報道アナリスト/株式会社ソーシャルラボ代表取締役
  • 岸田首相の長男、翔太郎氏が1日付で首相秘書官離任へ。事実上の更迭
  • 情報流出の経緯と波紋を呼んだ1日付辞職の理由を独自取材
  • 翔太郎氏を呑み込んだ「ノイズ」とは?翔太郎氏の今後は?

岸田首相の長男、翔太郎氏が1日付で政務担当の首相秘書官を離任する。昨年10月の就任以来、数度のスキャンダル騒ぎが重なった末、首相公邸で親族が忘年会を行い、痴態をさらけ出した写真の存在が週刊文春の報道で発覚。同席していた翔太郎氏には「致命傷」となり、事実上の更迭となった。

一方で翔太郎氏を巡っては、世襲批判も相まって感情的な非難も目立つ。かくいう筆者もツイッターで「廃嫡もの」と厳しく論じてきた側だが、官邸サイドが批判が増えるのを恐れてか、ファクトを十分出していないために誤解が広がり、過剰に叩かれてしまったようにも感じている。この半年あまり、筆者が取材で得ていた話を明らかにするとともに論評を書き置きたい。

岸田翔太郎氏の更迭は新聞各紙の1面に(5/29読売新聞朝刊より:編集部撮影)

「違法」ではないが…

公邸に外国首脳などの賓客を招くなどの公的スペースもあるが、首相が居住する私的なスペースがある。今回「寝そべり」騒動の舞台になった階段は、公的なスペースだ。

公邸に親族や親しい民間人を招いて宴席を開くことは問題ではない。安倍元首相も5年前、在任中にTOKIOを接待しているし、民主党政権も鳩山首相和田アキ子さんら芸能人を招いている(当時の報道)。寝そべったのが翔太郎氏だと一部で誤解されているが、文春によれば痴態を見せたのは首相の甥(翔太郎氏のいとこ)とされる。寝転んで撮影すること自体は違法ではない。

とはいえ、小学生ならまだしも一国の首相と血縁関係にある親族が、今の公邸が官邸時代に組閣の記念撮影などで使われた階段で悪ふざけをしていたとなれば、社会常識やモラルが問われるのは当然だ。翔太郎氏がその場で注意・静止したのかは明らかではないが、結果的に現場の監督責任が問われるのは仕方がない。

情報流出の経緯と6/1付辞職の理由

公邸の正面玄関。奥の階段が「寝そべり写真」の現場(官邸サイト)

他方、政権の批判報道に反発する保守系のネット民などからは「危機管理が甘い」と別の意味で厳しい目を向けられている。とはいえ中国かロシアのスパイが関与していたわけではあるまい。文春の記事も情報源秘匿の観点から流出経路は言及されていなかった。

文春にとってLINEのスクショは、「センテンススプリング」(女性タレント)「けつあな確定」(有名野球選手)など数々の伝説的なスクープを放ってきたネタの宝庫だ。そういう経緯もあり、筆者は親族の誰かが「LINEででも流出させたのでは」と思いながら取材を進めたところ、案の定だった。

官邸も当然流出経路を調べており、「SNSで公開しないように注意をしていたが、親族の1人がつい自慢のつもりで友人に転送してしまい、それが巡り巡って文春にタレコミが行った可能性」(関係者)が有力になっている。これが事実として確定すれば、翔太郎氏としては(首相にとっても)誤算だった形だ。もちろんスマホやLINEはこうした問題があるわけだから写真撮影は翔太郎氏だけが行うなど徹底しても良かった。

辞職が5月31日ではなく、6月1日と1日だけ月またぎし、ボーナスの起算算定日に入ったことも批判を呼んだ。ボーナスについては本人が辞退の意向を示しており、その点だけは鎮火しそうだが、これは翔太郎氏の担当業務による都合が理由だった。

翔太郎氏が首相のSNSを担当し、大災害や北朝鮮のミサイル発射など有事の発信にも備えていたことはこれまでも報道されているが、岸田首相の「政務担当」秘書として地元からの陳情や連絡調整の対応も担務だったことはあまり知られていない。そして父・文雄首相の一世一代の晴れ舞台、G7広島サミットの成功に向け、広島県・広島市が地元で立ち上げた「サミット県民会議」との連絡もまた翔太郎氏の責務だった。

関係者は「県民会議が5月31日夕方に御礼表敬に来る。翔太郎氏のサミット関連業務はそれをもって一段落するのを待ち、辞職を翌日付にした」と説明する。「さっさと辞めるべき」という人もいるだろうが、少なくとも寝そべりは本人の“犯行”ではない。それでいて、上京する広島県知事や広島市長らの接遇に、担当者だった首相秘書官が不在というのは逆に非礼に当たるかもしれない。

騒動でG7サミットの追い風も半減…(官邸サイト)

翔太郎氏を呑み込んだノイズ

政治学者の中北浩爾氏の言葉を借りると、政治の世界は「体験したことは黙して語らず、墓場まで持っていくことこそが美徳」とされがちだ。記者会見も国会質問もセレモニーのようなもので、水面下の調整や交渉が実務的に重要なのに実態が見えにくく一般に評価されないのが宿命だ。秘書は黒子だからなおさらだが、このあたり小泉政権で首相秘書官を経験した飯島勲氏がプレジデントの連載(23年3月17日号)で擁護している内容が興味深い。

翔太郎氏が外遊先で土産を買ったことが批判された際、飯島氏は独自調査をもとに土産代が公費からではなく「間違いなくポケットマネーから出ている」と断言。永田町や霞が関でお土産を買わないことが許されない慣習があることや、ギリギリの外遊日程の中で高級デパートで一括して土産を効率的に買い物をすることは自身の経験でもあったことを述べ、翔太郎氏に対し「ノイズに惑わされるな」と叱咤していた。

しかし現場の実情は、ワイドショーや週刊誌ではほとんど報じられることはない。それだけに翔太郎氏に対する世間のイメージは「ドラ息子」として増幅された。加えて今の時代は、SNSで舌鋒鋭い著名人からの標的にもなりやすかった。

特にひろゆき氏(西村博之)は翔太郎氏に辛辣だった。今回も6月1日付の辞職について「6/1まで在職にしてボーナスを貰ってから即辞職する模様」と、結果的には事実と異なるツイートをしていた。待遇についても「岸田首相の長男は首相秘書官になって年収1300万円超」と揶揄していたが、翔太郎氏は前職の公設第2秘書時代の給与を元に算出される。

第2秘書は、3人いる国会議員の公設の中で最も安く400万円台〜600万円台。勤務していた大手商社(三井物産)は入社5年で1000万円には到達するそうだから、秘書になってからの待遇は半額程度だったのではないか。政治記者たちは秘書待遇の実情をよく知っているはずだが、翔太郎氏のケースではなぜか誰も指摘していなかった。それだけ「首相の息子」に厳しい目が注がれていたのだろう。

首相周辺には「首相と寝食をともにする重圧は半端ではなかった。地震や北のミサイル発射でのSNS対応では言い回しに気を遣っていたのが印象的だった。批判は甘んじて受ける部分はあっても、本人なりに奮闘していた点まで全く評価されないのは不憫でならない」と残念がる声があった。一緒の仕事をした人の中には性格も良いと評価する向きもある。

21年衆院選では父に代わり地元選挙区で演説も(岸田氏Instagram)

一番の責任は首相、翔太郎氏の今後は?

もちろん「いい人」が政治の世界でいい仕事をするとは限らない。「経験を積ませよう」とした首相の親心も突き詰めれば、自らの地盤を将来継がせようとする際の世襲政治家の「エゴ」にすぎない。

たしかに現職首相が子息を秘書官にしたのは福田康夫首相が2007年、長男の達夫氏(現衆院議員、前自民総務会長)を起用したケースがあるが、翔太郎氏と同じ大手商社(ライバルの三菱商事)出身から公設秘書を経てというキャリアパスが似ているとはいえ、達夫氏は当時すでに40歳と、秘書官就任時の翔太郎氏とは10歳近くも年期が違っていた。

もちろん20代で市長になる人間はいるし、能力と年齢は必ずしも比例しない。あとは選任する側が、本人の適性とその「時々の」能力があるのかポジションに合っているのか見極めることが求められる。

その点、岸田首相は“地位が人を作る”ことに期待したのかもしれないが、抜てき人事は位討ちのリスクと背中合わせだ。選任する側の「私心」が頭をもたげると有権者はもちろん党内にも見透かされる。その結果、よく思わない人たちがメディアに有ること無いことを吹き込むリスクが大きくなる。

セルフ「廃嫡」が再生の道

さて、これからのことだ。翔太郎氏は特別職の公務員であるとはいえ、議員バッジをつけているわけではない32歳の青年が、自らの不祥事で新聞各紙の“1面デビュー”を飾るというのは、大快挙か大犯罪でもしない限りはそう体験することではない。将来、翔太郎氏に代替わりして広島1区から出馬する際、誰もが今回の事態を想起するのは間違いない。

翔太郎氏が政治的に再起したいのであれば、まずは「親離れ」をすることだ。幸か不幸か知名度は全国区になった。それを逆手に取るくらいしたたかにたくましくなれるのか。いっそのこと広島以外の選挙区から公募経由で出馬し、ゼロから新しい地盤を作ってみるのはどうだろう。自ら「廃嫡」してしまうのだ。

それは世襲批判を封じるためだけではない。それくらいやれば、本当に国会議員になってこの国の将来を背負う覚悟があるのか伝わるし、むしろ応援する人も出てこよう。その頃には、他県でゼロからやり直す息子に元首相になった父が応援に行くくらいの世話焼きは許されるのではないだろうか。

 
報道アナリスト/株式会社ソーシャルラボ代表取締役

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