動物愛護法改正「8週齢規制」の真実 #1
今回も"完全なる規制"は実現せず- 改正前から「生後56日以内は販売禁止」だったのに”附則”で骨抜きにされる
- 法改正の直前に業界団体から“寝耳に水”の「例外規定」をねじこまれる
- 生後8週齢に満たない子犬や子猫の販売禁止は、多くの先進国では当たり前
(編集部より)2019年に動物愛護法が改正され、昨年6月の施行から1年が過ぎた。法の改正のプロセスに深く関わったのが、公共財団法人動物環境・福祉協会Eva代表理事で女優の杉本彩氏である。動物虐待の厳罰化を実現するため、超党派議員連盟のプロジェクトチームでアドバイザーをつとめた。杉本氏によると、法改正までには様々な壁が存在したという。”ペット業界ありき”の発想で、いくつも骨抜きにされて、法改正を実現した今もなお完全なる規制は実現してはいない。
※本記事は:著書『動物たちの悲鳴が聞こえる 続・それでも命を買いますか?』(ワニブックス)から、杉本さんの訴えを再構成させていただきました。
動物愛護法 改正後(※施行は2021年6月)
生後56日(8週齢)未満の犬猫の販売禁止
《例外規定あり》天然記念物に指定されている日本犬 (柴犬、秋田犬、紀州犬、甲斐犬、北海道犬、四国犬)を専門に繁殖する業者が直接一般飼い主に販売する場合は、生後49日(7週)を超えればよい
施行された動物愛護法改正で「生後56日(8週齢)を経過しない犬猫の販売が禁止」になりました。これがメディアでも話題に上っていた「8週齢規制」です。
8週齢規制 こうして骨抜きに
ただし、この規制は今回初めて議論されたことではありません。改正前の動物愛護法にも、
「大猫等販売業者(販売の用に供する犬又は猫の繁殖を行う者に限る。)は、その繁殖を行った犬又は猫であって出生後五十六日を経過しないものについて、販売のため又は販売の用に供するために引渡し又は展示をしてはならない。」(第二十二条の五)
とあったように、すでに生後56日以内の販売は法律で禁止されていたのです。しかし、その条文はあるトリックによって“骨抜き”にされました。なぜなら、
なお、「56日」について、施行後3年間は「45日」と、その後別に法律で定める日までの間は「49日」と読み替える(附則第七条)
という訳のわからない「附則」が存在したからです。
そのため、せっかく56日と明文化しながら、最初の3年間は45日以降なら販売0K。さらに「その後別に法律で定めるまで=次の法改正まで」と解釈すれば、4年目からはずっと49日を超えれば販売0Kということになります。これでは、条文の「56日」などまったく意味を持ちません。
「56日を「45日」「49日」に”読み替える”という強引な手法で、8週齢規制化されてしまったのです。
なぜそんなことが起きたのか。理由は簡単。犬も猫も、少しでも幼くて体が小さいほうが人気もあって高く売れるからに他なりません。
しかし、犬は3〜12週、猫は2〜7週が、社会化にとってもっとも大事な時期だと言われています。そのため、生まれて間もない感受性の非常に強い時期に強制的に母親から引き離されると、子犬子猫は不安やストレスによって問題行動を起こしやすくなったり、免疫力が下がって感染症のリスクが高まったりと、後の性格形成や健康面に甚大なマイナス影響を受けてしまいます。
だからこそ販売目的とはいえ、少なくとも生後8週齢までは母犬(猫)と一緒の生活をさせるべき――これは動物を人間と同じ“命ある生き物”と考えれば至極当然の発想でしょう。実際、生後8週齢に満たない子犬や子猫の販売禁止は、多くの先進国では当たり前の基準となっています。
ペット業界の利権優先
しかし、日本は違います。ベット業界の「利益」を最優先するために、そこから生まれるであろう利権を確保するために、せっかくの法律に強引で理解不能な附則をつけてまで、できる限り小さいうちに子犬子猫を市場に引き出して売ってしまおうと考える。
それがこの国のペットビジネスの現実なのです。
そうした背景があったため、私たちは前回の法改正時からずっと、附則によるカラクリをなくして条文にある「56日以内は禁止」という規制を、例外なく確実に実効化させるべく取り組んできました。
そして今回の法改正では7年越しでようやくその「附則」が削除され、晴れて「生後56日以内は販売禁止」となったのです。――そうなったはずでした。
ところが、今回の8週齢規制にもまた正当な理由なき「附則」が盛り込まれてしまいました。以下がその附則にあたる条文です。
専ら文化財保護法の規定により天然記念物として指定された犬の繁殖を行う犬猫等販売業者が、犬猫等販売業者以外の者にその犬を販売する場合について、出生後五十六日を経過しない犬の販売等の制限の特例を設けること。(附則第二項関係)
ここでいう「天然記念物に指定されている犬」とは日本犬6種(柴犬、秋田犬、紀州犬、甲斐犬、北海道犬、四国犬)のこと。つまり、天然記念物に指定されている日本犬を専門に繁殖している業者が一般飼い主に直接販売する場合は、これまで通り49日を超えればよい、ということになります。今回も”完全なる8週齢規制”は実現できず、またもや例外が設けられてしまったのです。 (#2に続く)
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