マイナンバーカード問題:河野デジタル相の踏ん張り時、騒ぎすぎのメディアに負けるな
読売の「保険証廃止反対」社説、左派も同調- マイナンバーカードの「公金受取口座」で家族名義の登録が13万件以上
- 河野氏が陳謝。マイナンバーカードを巡る問題が続出し報道も批判的に
- 読売はマイナ保険証一本化に反対の社説、左派が歓迎する異例の事態だが…
国の給付金を受け取り用にマイナンバーカードとひも付けて登録する「公金受取口座」について、河野デジタル相は7日のオンライン記者会見で、本人ではない家族名義の口座に登録されたケースが約13万件あることを明らかにした。別人の口座への誤登録も748件あった。
河野氏は「大変申し訳なく思っている」と頭を下げて陳謝したが、マイナンバーカードを巡っては、コンビニの住民票発行を利用した人に赤の他人のものが交付されるトラブルが続発。マイナ保険証についても他人の情報が7300件以上登録されていた問題も起きており、デジタル行政の最大の課題であるマイナンバーカードへの信頼が失墜している。

デジタル庁は再発防止策として、マイナンバーカードに登録した氏名のかなと公金受取口座の名義人を照合するシステムを開発し、2年後を目処に導入する方針だ。国、自治体の現場の苦難は筆舌に尽くしがたいものがあろうが、長らくデジタル化に遅れた環境に甘んじてきた国民の不安を払拭するには一つ一つやり抜いていくしかない。
「些事」を「大事」にするメディア
一方で大手メディアがここぞとばかりに読者や視聴者の不安をあおり、その結果としてこの国のデジタル化の歩みがまた遅くなるのではないかと危惧している。13万件というと一見膨大な数で、もちろんあってはならないことだが、5400万ある公金受取口座のうちの0.2%に過ぎない。誤登録の748件に至っては0.001%だ。「1億総マイナンバー」をめざす中にあっては「些事」に過ぎない。
各社の記事で指摘がなかったかもしれないが、子ども名義の口座に紐づけたくても少し厄介な問題もある。口座開設には親子両方の身分証を用意する程度の手間で済むが、贈与税の問題がある。ケースによっては0歳から17歳まで毎年、お年玉やお小遣いを毎年10万円ずつ貯めて、18歳になった子どもに通帳を渡し、初めて子どもが口座の存在を知った時、口座には180万円が入っているので贈与税の対象(1年に110万円以上)とみなされる可能性があるようだ。
要は背景を含め冷静に全体を俯瞰し、コロナで浮き彫りになったデジタル化の遅れを取り戻すという大義に向かってどう進めていくかが主眼のはずだ。だから今回の公金受取口座の問題も0.2%や0.001%のエラーをどう評価し、前を進めるかから論じた方が建設的なはずだ。
ところが報道関係者はプロジェクトを動かす実務経験がないので「トライ&エラー」という発想に乏しかったり、一つのリスクに対して過剰に反応したりする悪弊がある。
読売の「禁じ手」社説
読売新聞は同日朝刊の社説で、政府が紙の保険証を廃止してマイナ保険証に一本化すると決定に噛みつき、「マイナ保険証の見直しは、今からでも遅くはない。トラブルの原因を解明し、再発防止に努めるのが先決だ」と主張し、政府に対し、紙の保険証廃止に反対する論陣を張った。

読売新聞は憲法や安全保障、税制など根幹政策では歴代の自民党政権を支持しているが、デジタル化について総論賛成、各論反対という傾向が強い。コロナ禍で他の先進国よりもデジタル化が遅れたことの問題は指摘するものの、デジタル教科書普及に異を唱える特集を組んだり、賃金のデジタル払い導入には社説で反対するなど個別テーマの実装については批判的なスタンスを取ることが目立つ。
筆者にとっては報道の世界でゼロから育ててもらった古巣なので、あまり批判はしたくないのだが、DXに積極的な自民の政治家(大臣経験者含め)、官僚などは筆者の取材に対し、読売の“アンチDX”の論調に困惑や反発する思いを耳打ちされることもある。
もちろん「医療に関する手違いは、国民の健康や生命に重大な影響を及ぼす恐れがある」(読売社説)わけだから、全力でリスクをなくす努力をするのは当然だ。
他方、筆者が驚いてしまったのは社説の最後に、往年の「グリーンカード制度」廃止のケースを持ち出して「法律が成立したからといって、制度の見直しは不可能だ、と考えるのは早計だ」と河野氏や政府を“脅す”ようなくだりがあったことだ。“拙速”をいさめたつもりでも「禁じ手」のように思えてしまう。というのも、読売が当時批判していた野党勢力が騒いだことも同制度が撤回された要因の一つだったからだ。
「グリーンカード制度」は1980年、当時の大平政権が脱税逃れを防ぐために納税者番号を発行して着実な課税制度にしようと設計した。法律も成立していたが、金融機関や中小企業などが猛反発した。
同制度の是非はさておき、廃止したことで後年の情報化社会到来後のデータ基盤づくりが遅れた遠因になった側面はあろう。その頃はまだ元気だった左派も「国民総背番号制につながる」はては「徴兵制につながる」といった主張で反発。90年代に住基ネットが導入された後も首長が左翼の自治体は離脱するという有り様だった。
左派に社説が歓迎された不快
朝日新聞などの左派メディアは愛読者がそっちの人たちだから、おもねるような論調だったが、少なくとも読売は消費税の旗振り役だったこともあってグリーンカード制には理解を示している印象だ。

1987年、大型間接税(のちの消費税)を導入するかどうかの国会の議論で、野党が十分な対案を示せず迷走した際は、グリーンカード制導入を訴えた一部野党の政策にも触れつつ、「国民のための税制改革をめざすというなら、堂々と対案を示し、統一選の間でも国会で論戦を展開すべきであろう」と背中を押した(1987年3月27日社説「なぜ対案公表を避けるのか」)。
住基ネットについても全国で数少ない離脱をしていた東京都国立市に対しても極めて厳しい論調だ(2011年2月5日社説「住基ネット訴訟 参加を拒む国立市への警告だ」)。
そしてマイナンバー制度。ちょうど10年前、安倍政権初期に法案が成立して導入が決まった際には「公正な社会保障へ大きな一歩公正で効率的な課税や社会保障給付を行う重要な基盤が、ようやく整うことになった」と大歓迎。その用途についても東日本大震災で住民票情報やカルテが失われたことから、「診療情報などに利用範囲を広げれば、利便性はさらに高まる」と呼びかけていたのだ。
実際、マイナ保険証についても元々、読売は「丁寧な説明で普及を図りたい」(22年10月20日付の社説)と理解を示している。ただ見出しにあるような「丁寧な説明」はどれほどの時間をかけてやればいいのか。
紙の保険証の「廃止」時期が来秋かどうかは議論の余地があるにせよ、抜本改革は時に“荒療治”を選択肢に入れておいてもいいのではないか。決断するのは政治だ。
今回の読売社説はツイッターで反響を呼び、写真誌FLASHのネット版(Smart FLASH)で「まとめ」記事を掲載するほどの話題になった。FLASHの論調も読売に同調し、「政権寄りとされる読売新聞が『保険証廃止の見直し』を主張したことに、SNSでは賛同する声があがった」と強調。社説に同調した有名人としてジャーナリストの江川紹子氏、自民と統一教会の関係を追及してきた紀藤正樹弁護士などのツイートを取り上げた。
憲法や防衛問題などの基本政策で読売に敵対的な人たちに“歓迎”され、彼らの政権批判に利用されるのは見ていて実に不快だ。河野氏は今こそ踏ん張りどころだ。
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