岸田首相お膝元に火種…公明・斉藤氏と選挙区争う自民・石橋氏、後援会顧問の詐欺疑惑は捜査中

【独自取材】東京の自民・公明対立の余波は?
  • 自民・公明の亀裂が岸田首相の地元広島にも影響?
  • 斉藤国交相の広島3区奪還を狙う自民広島県連だが…実情は?
  • 3区拠点の石橋林太郎氏の処遇は?後援会顧問は警察が捜査中

次期衆院選に向けた自民党内の選挙区調整が最終局面を迎えている。「もっとも難しい調整」(自民関係者)と目されていた、林外相の旧山口3区と安倍晋三元首相の後継、吉田真次氏の旧山口4区の一本化については、重要閣僚を歴任した林氏が新山口3区の候補予定者になる見通しだが、4月の補選で、安倍昭恵夫人の後ろ盾で初当選した吉田氏は無所属での出馬強行も取り沙汰され、火種を残している。

しかし、山口県と同じ中国ブロックに入る岸田首相の地元、広島県でも火種を抱えていることは全国的にあまり知られていない。

地元でのサミットは大成功だった岸田首相だが…(官邸サイト)

「10増10減」中国ブロックの異変

中国ブロックを巡っては「10増10減」の煽りで選挙区が3つも減少。当然、比例組も含めた現職議員の処遇に党本部も各県連も頭を悩ませてきた。加えて前回衆院選から公明に広島の選挙区を1つ割譲したことで、ここ最近の自民・公明の亀裂が微妙に影を落としているのだ。

広島はこれまで7つ選挙区があったが、「10増10減」で6つに減少し、明暗が分かれた。岸田首相の旧広島1区や元法務副大臣の平口洋氏の旧広島2区はそのまま新1区、新2区に移行。自民きってのIT通で知られる小林史明・前デジタル副大臣の旧広島7区(福山市)もエリアはそのまま名称だけ新広島6区に変わった。

一方、選挙区再編に泣いたのが旧広島4区の新谷正義前総務副大臣と、旧広島5区の寺田稔前総務相。どちらを新広島4区に擁立するか地元では決め切れず、自民党本部は寺田氏を新広島4区に据え、新谷氏を比例上位で優遇する方向になった。

しかしこれで全てが収まったわけではない。旧広島3区はそのまま新3区に移行するものの、前回の衆院選から中国ブロックで唯一の公明選挙区に。しかもその現職は国交相の斉藤鉄夫氏だ。

首相のお膝元で自公激突!?

「自民王国」の広島にあってここだけ公明に割譲された理由は、河井克行元衆院議員と妻の案里元参院議員による大型買収事件の影響だ。広島3区はかつて河井氏の地盤だったが、事件で夫妻ともども失脚した。空白区になった3区へ、自民広島県連はもちろん候補者を擁立しようとしたが、当時は菅政権の時代だ。菅氏は言わずもがな公明とのパイプが強い。一方、総裁選で菅氏に敗れた岸田氏は、党内でも無役で冷遇されている時期とあって、斉藤氏のお国入りが決まった。

岸田政権で国交相を務める斉藤氏(国交省サイト)

ただし県連として「楔」は残している。ギリギリまで3区で擁立を図ったのが石橋林太郎氏だった。3区のある広島市北部を拠点に親子二代で県議を務めており、前回の衆院選では3区は斉藤氏に譲った一方で、自身は比例ブロック1位で優遇され、難なく初当選した。

県連関係者は以前から取材に対し「かつての東京12区のように公明が長く居座ることだけは避けたい」と本音を漏らしていた。それでも不協和音が表面化することはなかったが、先月になって東京での自公の協力関係が破たんしてムードが一変。同月28日に広島を訪れた茂木幹事長に対し、県連幹部は石橋氏を3区で公認するように要求したが、あっさり拒絶された。

諦められない県連は中本隆志会長代理(県議長)が6日、湯崎英彦知事らと上京して官邸に岸田首相を訪れた際、改めて石橋氏の公認を陳情した。しかし関係者によると、その場で首相から色良い返事はもらえなかった。

気の早い写真週刊誌は「首相のお膝元で自公激突へ」などと煽り立てているが、実際はどうなのか。

石橋氏の処遇を難しくする事情

県連の関係者は「中本先生が総理に申し入れたのは地元を納得させるための形式的なポーズ」と漏らす。では県連や石橋氏が出馬を強行して斉藤氏との“与党分裂選挙”に持ち込むかといえば、「連立政権の亀裂を大きくするような度胸が中本先生にも石橋氏にもあるわけがない。そもそもウチは河井事件の“負い目”がある」と指摘する。

現職の国交相でもある斉藤氏個人の人柄や力量も大きいという。自民の地方議員の1人は「初めて地元入りした直後に向こうから挨拶に来た時に驚かされた」と振り返る。さらには「はっきりと因果関係はわからないが」と断った上で、「何十年と進まなかった渋滞緩和の懸案があったのが、関連する複数のインフラ整備が一気に進むことが決まった。選挙時などに渋滞解消を力説していたことからすれば、地元では“大臣パワー”を認めざるを得ない」との心境を吐露。もはや地元では「斉藤氏一代限りなら3区を譲らざる得ないのでは」(県連関係者)と諦めモードの様子だ。

予算委分科会で質問する石橋氏(衆院ネット中継)

では、このまま広島3区は斉藤氏が続投し、石橋氏は比例に回る形で落ち着くのか。前出の県連関係者は「山口の情勢次第だが、吉田氏が比例に回って優遇されると調整は一層難航する。岡山からも平沼正二郎氏、阿部俊子氏が比例に回ることが決まっているし、比例単独組の高階恵美子氏、杉田水脈氏らの処遇もある。広島の都合だけで石橋氏を前回の比例1位のような優遇は難しい」と指摘する。

後援会顧問のトラブルは捜査中

加えてSAKISIRUが4月に報じた、石橋氏の後援会顧問の“詐欺”トラブルの影響も、地元の政治関係者や報道関係者が密かに注視している。このトラブルは、後援会顧問の男性が、経産省から電柱などの非破壊検査業務を委託されたと偽って工事を発注したとして今年3月、広島県福山市の管工事会社から約3500万円の損害賠償を求める訴訟を起こされた。

経産省は同省と関わり合いのない団体が、国の事業として架空の工事を発注しているとして、20年9月と21年2月に公式サイト上で警鐘を鳴らしている。顧問の男性は団体の「中国四国統括本部」本部長理事を名乗り、広島市内の自社オフィスで委託事業の説明を頻繁に行うなど積極的な関与をしていたと訴状で指摘されている。

石橋氏の事務所はSASISIRUのこれまでの取材に対し、後援会顧問のトラブルについて「全く存じ上げません」と述べているが、県連内部では「本当に大丈夫なのか」(関係者)と危惧する声が出始めている。

さらに政治関係者や報道関係者が特に関心を示すのは捜査当局の動きだ。被告の男性側は訴訟で請求棄却を求め、6月下旬のオンライン審問でさらに詳しい反論を出す予定というが、原告側は民事と並行し、地元警察署に刑事告訴すべく昨年から度々相談してきた。

署では当初目立った動きがなかったものの、今春から捜査を本格化させている模様だ。県警幹部は政治関係者に「SAKISIRUに詳細に書かれたことで後に引けなくなった」と漏らしていたという。サミットが終わり、衆院解散が噂される中で捜査が進展するのか注目される。

 

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