金価格大波乱時代の幕開けか?「6月末以降爆騰」説の背景
「バーゼルIII」がもたらす大きな影響- 金が「6月末以降爆騰する」説が取り沙汰。新ルール「バーゼルIII」が背景
- 金取引の実態解説。取引される金は帳簿上のものが多いが、実物の裏付けが希少
- 裏付けが弱く、新ルールでバックアップ要求。金価格は波乱の時代は確実
(編集部より)昔から「金は不況に強い」と言われ、近年は高騰を続けている金価格に異変の予兆が…。株式市場とは違う金市場の仕組みや今後について、財務省OBの有地浩さんが解説します。

最近、世界でインフレ懸念が高まっておりインフレに強い金に関心が集まるとともに、金に投資する人も多くなっている。金は昨年8月に1オンス=2000ドルを超える高値を付けた後、調整局面入りしているが、中長期的には依然として高値圏にある。
その金が「この6月末以降爆騰する」と、海外の多くの金の専門家がブログやユーチューブで言っている。彼らの主張の根拠は、銀行の健全性確保のための国際ルールである「バーゼルIII」が、6月末から欧州の銀行に、さらに来年初めからはイギリスの銀行に適用されることだ。
ブリオンバンク(Bullion Banks、金を取り扱う銀行)が、バーゼルIIIが適用されて金の取引コストが上昇することを嫌って市場から次々に撤退するため、世界最大の金市場であるロンドン地金市場(London Bullion Market)の需給のバランスが金の買いの側に大きく傾くと彼らは言うのだ。
ではなぜバーゼルIIIが銀行の金取引のコストを上昇させるのか、また、なぜブリオンバンクが市場から手を引くと金価格が爆騰するのだろうか?その理由を知るには、まずロンドン地金市場での金取引の実態を見てみる必要がある。
そもそも金取引はどうなっている?
ロンドン地金市場と聞くと、いかにも世界から大量の金の延べ棒が集まって、それらが銀行間で活発に動き回っているようなイメージを抱きがちだが、実際には実物の金地金の取引は一部だけで、ほとんどはブリオンバンクの帳簿上で取引されている。一説には市場の95%以上の取引が帳簿上の金(非特定保管金、unallocated goldと呼ばれるが、通称はペーパー・ゴールドなので以下では「ペーパー・ゴールド」と呼ぶ)だと言われている。
それは金地金の輸送や保管にコストがかかることも理由の一つだが、もっと大きな理由は、ブリオンバンクにとってペーパー・ゴールドで取引する方が大変都合がよいからだ。
このことは銀行の預金業務の類推で考えると分かりやすい。
預金の部分準備制度の下では、銀行は受け入れた預金のうち中央銀行に準備預金として積むもの以外は、融資や債権購入などの運用に回している。これと同様に金も金取引口座の持主から返還請求があった場合にこれに応じるための一部を残して、残りは他の銀行との取引や運用に使えるのだ。
預金の場合、銀行間で預金がやり取りされると最初に銀行が受け入れた預金の何倍もの預金が銀行システム内で作り出されるが、これと同様に金でも、銀行の金取引口座間でペーパー・ゴールドがやり取りされると最初に受け入れた金額の何倍もの金が金市場の中で創造される。これは見方を変えれば、市場に存在するペーパー・ゴールドは、そのごく一部しか実物の金の裏付けがないということだ。
さらに、銀行は融資を行うことによって無から預金を作り出しているが、金でも同様のことが行われている。例えば銀行の手元に実物の金が全くなくても、銀行の帳簿にA社への金貸付100オンスと計上する一方、銀行にあるA社名義の金取引口座に金100オンスと記入することによって、無からペーパー・ゴールドを生むことができる。その後もしA社が実物の金を口座から引き出したいと言って来たら、銀行はどこかから実物の金を調達してA社に渡せばよいが、普通はA社もぺーパーゴールドのまま保有したり売却したりする。
こうして世界に存在する実物の金の量を大きく超えてペーパー・ゴールドが作り出され市場に供給されることにより、現在のように金に対する需要が増加しても、十分な供給があるために金価格はあまり上がらないままでいるのだ。

バーゼルIIIで何が変わるのか
しかし、この裏付けの薄弱なペーパー・ゴールドは、銀行にとって便利な反面、ひとたび大規模な金融危機が来て金口座の持主が金の引出を一斉に要求したら、銀行はそれに応じることが大変困難になり経営危機に立たされることは容易に想像がつく。そしてそれが金融システム危機まで及ぶこともあながち心配のし過ぎとは言えない。なぜならロンドン地金市場協会(LBMA, London Bullion Market Association)の資料によれば、週間金取引高(3月28日時点の12週移動平均、)は3130億ドル(約34兆2000億円)に上っているからだ。
バーゼル銀行監督委員会が金市場にも規制の網をかけるようになったのは、ある意味当然と言えよう。
バーゼルIIIでは、それまでの自己資本比率規制などに加えて、新たにネット安定的資金調達比率(NSFR, Net Stable Funding Ratio)というルールを採用した。これは、リーマンショックの時のように市場から資金が消え去ってしまった時でも銀行が資金ショートしないように、すぐに現金化できない流動性の低い運用資産は、安定的な資金でバックアップする必要があるという考え方のルールで、これまでバックアップが要求されていなかったペーパー・ゴールドは、その85%について新たに安定的な資金を調達してバックアップしなければならなくなったのだ。
さて、それでは規制が導入されてブリオンバンクが多数市場から撤退したら、一部の専門家が言うように金は爆騰するかどうかという問題だが、私はそれは分からないとしか言えない。なぜならブリオンバンクは規制が導入された場合に備えてあらかじめポジションの整理を進めている可能性があり、バーゼルIIIの適用後すぐにペーパー・ゴールドの急減ということにはならないかもしれないからだ。また、ブリオンバンクが抜けて流動性が低下した市場は、些細な要因で価格が大きく変動するようになると思われるため、何らかの事件やニュースで爆騰ではなく逆に暴落することもあり得る。
ただ確かに言えることは、金価格は波乱の時代を迎えるということだろう。その時が来るまで、残された時間はあとわずかだ。
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