NTT株売却、防衛費財源で注目の「税外収入」、民主党政権の埋蔵金との違いとは?

内藤勇耶「税金に依存しない社会づくり」#1
元財務省研究官、前世田谷区長候補

【編集部より】人口減少でこれからの日本は経済成長や税収増加が厳しいばかり。さりとて苦しい国民生活に増税も困難なご時世です。この連載では財務省の研究官時代から、「税金に依存しない社会づくり」を研究してきた内藤勇耶さんが、稼ぐ行政への転換や公的資産の有効活用について論じます。

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「増税反対派、財務省出身」

日経新聞の論説委員長である藤井彰夫氏の執筆した記事の冒頭にこんな一節がある。

ことし4月の統一地方選で、一枚の候補者ポスターに目がとまった。

「増税反対派、財務省出身」。財務省出身と聞くと常に増税を画策しているとお思いかもしれませんが、そんなことはないので皆さんご安心を。この候補者はこんなメッセージを有権者に届けたかったのだろうと推測する。

この矛盾するように見える標語を掲げていたのは、何を隠そう、本連載の筆者である私、内藤勇耶(ゆうや)。今春の世田谷区長選に立候補したことでご存じになった方もいるかもしれない。

最近もサラリーマン増税という言葉がSNS「X(旧ツイッター)」を中心に流布したように、現政権や財務省に対して増税しか考えていないと思われる方も多いかもしれない。

しかし、そもそも財務省の指命は、通貨の信認を維持したり、市中金利の高騰で国民の生活が苦しくならないようにすることであって、増税ではないのだ。

たしかに、増税によって財政を安定させるべきだと考える人もいる。だが、一方で私のように国や自治体だって「税以外で“稼げば”いいではないか」と考える人だっているのだ。お給料も上がらず、国民の多くが苦しい時代。行政にも知恵や工夫が一層求められている。

連載では、世田谷区から日本全国へ私が提案したかった「税金に依存しない社会づくり」について時事ニュースにも触れながら書いていきたい。

全3回を予定するが、好評なら増回もあるかもしれない(?)

さて、第1回目である今回は、第2回・3回の本論に入る前に理解が必要な概念を説明したいと思う。

そもそも税金以外の国の収入は?

国の財政は稼ぎ(税収)が無ければ、貯金を切り崩すか、借金(国債発行)をするか、税金を上げる(増税)をすることになる。国債は増税を避けられるが、発行しすぎると通貨の信認維持が困難となり、市中金利の高騰を呼びかねず、財務省は国債の発行に及び腰だ。

だから税金を上げるという発想になりがちだが、本当にそれ以外に選択肢がないのだろうか。

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ここで家計に例えてみよう。最近、「副業」がキーワードとなっており、読者の中にも興味を持っている人や、既に副業をしている人もいるかもしれない。実は国にも本業の稼ぎである「税収」以外に「副業」がある。

例えば、国の持つ土地(国有財産)を貸した賃料や、競馬会からの納付金(馬券の売り上げの約1割が国に入る)、国が保有している株の配当金収入、(広義の)現業収入が挙げられる。

ちなみに、貯金の取崩しにも目を向けるなら、国の持つ土地(国有財産)を売却したときの売り払い収入や、国が保有している株の売却益も、税収以外の収入源になりそうだ。最近話題のNTT株の売却はまさにこれに当たる。

こういった、副業と貯金の取崩しの総称が「税外収入」と呼ばれている。

民主党政権「埋蔵金」との違いは?

民主党政権は事業仕分けなどで埋蔵金捻出を図るも頓挫(官邸サイト)

「税外収入」というと、民主党政権の「埋蔵金」を思い出す人も多いだろう。埋蔵金は言われていたほどはなく、民主党政権が財政的に窮地に陥ったことは読者の記憶にもあるだろう。

では今回のテーマ「稼ぐ行政への転換」は、埋蔵金とは一体何が違うのだろうか。

最初に、それぞれの特性を考えてみると、「埋蔵金」は既存の未使用の予算や資産といった、一度使ってしまうと二度と得られないものを用いた、一時的な収入源である。

反対に、「稼ぐ行政」では新たな収入源を創出し、継続的に収入を得ることを目指すものだ。

家計で言えば、貯金の切り崩しが「埋蔵金」であり、副業が「稼ぐ行政」に相当する。

そこからすると両者の違いは明確だ。「埋蔵金」はお金に困った人が家屋敷を売って一時しのぎにはなっても結局住まいに困るのと同じで、持続的ではない。

これに対し、「稼ぐ行政」は、家屋敷を貸して家賃収入を得るように、例えば国や自治体が持つ土地を民間の商業施設に貸して収入を得ることで、税金負担の軽減と持続可能にすることだ。

あまり知られていない制度として「産業投資」がある。これは、平たく言えば、お金のなる木を発掘して育てる国策事業である。国のお金で将来伸びる可能性がある産業に投資を行い(主として)非上場株式を保有し、産業の成長を促しながら、上場やM&Aなどによってその株に高い価値が着いたタイミングで売却する仕組みだ。中には上場後も株式を保有し続けていることもある。

この産業投資という仕組みは政府の一般会計では行われておらず、財政投融資特別会計で行われている。そのため、あまり一般的に知られていない。しかし、ここまでお読みいただいた読者であれば、この制度は「稼ぐ行政」の典型例としてお分かりいただけるのではないだろうか。

投資には「元手」がいる。この産業投資を行うのに必要になるのが実は政府が持つ株からの配当金収益なのだ。具体的に言えば、日本電信電話(NTT)、日本たばこ産業(JT)、日本郵政などの株式がそれに当たる。

NTT株売却で懸念する「デメリット」

折りしも、その政府保有のNTT株を巡って大きなニュースがあった。自民党が7月25日、NTT株の売却について本格的な検討を始めていると報じられた。背景にあるのは防衛費倍増に伴う財源確保へ、増税を避けたいためだ。

通常国会終盤に成立した「防衛財源確保法」では、政府は5年間の防衛費を43兆円にするため14.6兆円程度の追加の確保をめざしている。その内訳として、税外収入で4.6兆〜5兆円強を見込んでいるが、この税外収入にNTT株売却益が入る公算になる。

東京・大手町のNTT本社(編集部撮影)

中国やロシア、そして北朝鮮の脅威が現実のものとなっている今、防衛費倍増は当然するべきことである。しかし、できることであれば増税せずにすむことが望ましいことは筆者も共感している。

一方で「稼ぐ行政」を推進してきた立場からすると、増税を避ける「メリット」がある反面、「デメリット」があることも読者の皆さんには知っていただきたい。

現在、産業投資に使う「財政投融資特別会計投資勘定」は約4500億円。そのうち4分の1にあたる1000億円程度がNTT株式からの配当金であるため、これが消失することは産業投資の原資を失うことになる。

今後の動きを注視していきたいが、仮にNTT株を全て売却するのであれば、代替となる産業投資の財源を確保するような措置がとられなければ、我が国の産業を育てるという大事なシステムに小さくないダメージが考えられる。

いずれにしろ、国の経済発展と持続可能性を追求する、より長期的な視点をもって、防衛費倍増が進むことを期待したい。

第1回は、埋蔵金と稼ぐ行政の違いという、本論に入る前に理解が必要な概念を説明した。第2回以降は、具体的なスキームを他国の事例も加味しながらお伝えしていきたい。

 
元財務省研究官、前世田谷区長候補

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