物理学で世界をリード!日本がILCを誘致すべき3つの理由

「ものづくり大国・日本」再生の切り札?
2021年06月22日 06:00
ジャーナリスト
  • 素粒子物理学の国際プロジェクト「ILC」を巡る、日本政府への期待とは?
  • ILCは宇宙の95%の謎の解明に期待。東北の北上山地に国際研究拠点の構想
  • 次世代の革新的な科学技術・産業派生を想定。ものづくり大国復活の好機

世界中の物理学者がいま、日本のリーダーシップを熱望している。素粒子物理学の国際プロジェクト「国際リニアコライダー(ILC)」だ。これが日本にできれば、世界中から多くの研究者や技術者が集う国際研究都市が日本に出現することになる。ILC計画の実現を目指す物理学者らの国際推進チームは、今月、その前身となる準備研究所(プリラボ)の提案書を公表した。日本政府の正式誘致表明が熱望されているILC計画とは、一体どのようなものなのか。

ILCの予想図(提供:ILC国際推進チーム)

① ILCで宇宙の謎がわかる

夜空を見上げながら、この宇宙はどのように誕生したのか?宇宙の果てはどうなっているのか?と、想像を膨らませる人も多いだろう。実は、最先端の科学でも、宇宙のうちの5%の物質しか解明されておらず、残りの95%は「ダークエネルギー」や「ダークマター」と呼ばれ、それがどのようなものなのか、まったく解明できていないという。

その謎に迫ろうとするのがILCだ。ILCは、電子と陽電子という素粒子を光の速度近くまで加速し、超高エネルギーで衝突させる実験。宇宙の始まりである「ビッグバン」から1兆分の1秒後の状態を人為的に再現し、未知の素粒子を探ることで、宇宙の謎に迫るという壮大なプロジェクトなのだ。

日本はこれまでに、素粒子物理学の分野で、湯川秀樹氏、小柴昌俊氏、梶田隆章氏ら11人のノーベル物理学賞受賞者を輩出してきた。世界最高記録の衝突性能を誇るSuperKEKB加速器もあり、物理学理論の新発見を支える実験施設での超精密技術も、世界から信頼を得ている。

国際推進チームの第3部会長で物理学者の村山斉氏は、「我々が知らない残りの95%には、新しい物理法則があるはず。ILCはそのすべての謎に迫ることができる。そして、長く使うことができるユニークな施設」とその意義を説明する。

② 東北に国際研究都市構想

ILC計画は、1993年に世界の主要な加速器研究所の所長らでつくる国際将来加速器委員会(ICFA)が推進を決定。ヨーロッパ、アメリカ、アジアの研究者を中心とした国際共同チームでこれまでにも研究が進められてきた。今回、プリラボの提案書を発表した国際推進チームは、ICFAが昨年8月に設置し、スイス連邦工科大ローザンヌ校の中田達也名誉教授が議長を務め、茨城県つくば市の高エネルギー加速器研究機構(KEK)を拠点としている。

KEK内にあるILCのための研究施設(©️KEK)

提案書では、プリラボを2022年に設立し、世界各国の加速器研究所とパートナーシップを結び、物品や技術の提供を得て運営。岩手、宮城両県にまたがる北上山地での建設を想定しており、4年間で工学的な設計や環境影響評価などを進める。それを経て、ILC研究所の設立は2026年を目指している。

ILC研究所が作られることになれば、世界50か国から400研究機関、2000人の研究者が集い、民間企業100社以上が参画することになるという。研究所の建設・運用で、地域での新たな雇用や人材育成の機会が創出されることも期待できる。ILCの建設段階から運用段階に至る間に、全国ベースで約25万人分の雇用機会が創出されるとする試算もある。

③ 新たなテクノロジー派生

プリラボの運営で必要な予算は4年間で約60億円としており、日本が負担するのがおよそ3分の1の約20億円という。宇宙の謎の解明という壮大な実験ではあるが、私たちの暮らしの何に役に立つの?費用対効果は?とその価値を問われると、実験の目的そのものよりも、そこから派生する技術で期待されることを見たほうが、一般の人にとっては想像しやすいかもしれない。

素粒子物理学の研究は、これまでに、電子の発見がエレクトロニクスを、量子力学がライフサイエンス・ナノテクノロジーを生み出した。X線やPETなどの医療診断装置や粒子線治療など医療技術にも応用されてきた。加速器が作る放射光は、創薬や新素材の研究にも使われ、加速器の超電導技術はリニアモーターカーでも使われている。

素粒子物理学の研究から派生する分野は幅広い。ILCで新たな発見を目指す最新技術を集結させることで、次世代の革新的な科学技術・産業がそこからどんどん派生することが想定される。ものづくり大国・日本の再生につながる好機になりそうだ。

村山氏は「かつてはドイツなどでも直線型の加速器をつくる動きはあったが、世界の国は泣く泣く諦めている状況。現在、世界ではほかに計画はなく、日本にやってほしいと期待がかかっている」と強調する。また、物理学者の山下了氏は、「プリラボを経て正式誘致表明という流れになるだろう。日本政府から、正式誘致表明までいかなくとも、何らかの関心を持っていることを示すことが必要です」と政府の意思表明を期待する。

物理の新しい発見、派生する分野の技術革新、地域の発展。ILC設立に寄せられる国内外からの熱い期待の声に、日本政府はどう答えるだろうか。

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