中国AI軍事革命 #1 「自律型兵器」が尖閣を襲う日

『知能化戦争』監訳、慶応大・安田淳教授に聞く
2021年06月26日 06:01
ライター・編集者

「中国は、もはや人対人の戦争を想定していない」――。これは、中国の現役軍人・龐宏亮が書いた『知能化戦争――中国軍人が観る「人に優しい」新たな戦争』(五月書房新社)に明確に書かれた近い将来の軍事ビジョンだ。人民解放軍の自律型兵器導入構想とは。尖閣に自律型兵器が投入されたらどうなるのか。中国共産党100周年となる7月1日を前に、監訳者で中国の安全保障に詳しい安田淳・慶応義塾大学教授に話を聞く。(3回連載の1回目)

中国軍の無人型偵察攻撃機(2015年撮影、写真:新華社/アフロ)

すでに中国は「人対人」の戦争を想定せず

――安田先生が監訳された『知能化戦争』。中国の現役軍人が書いた論文で、戦争における武器の変遷を追いつつ、近年の情報化戦争、人間が遠隔操作する無人機、そして「知能化」、つまり自律型のAI兵器の実戦投入を前提に、それによる軍や「戦争」そのものの変化について書かれています。

【安田】著者の龐宏亮は、原著である『21世紀戦争演変與構想:知能化戦争』の略歴によると、中国国防大学国家安全学院の副教授であり、中国人民解放軍の大校(上級大佐に相当)です。人民解放軍は、軍人をオペレーション担当者と、アカデミズムで研究領域を歩み続ける人とに分ける傾向があるようで、著者は後者に当たります。

中国も少子高齢化の懸念が出始めていて、軍としてもこれからのマンパワーをどう補っていくかが課題になっています。大幅な兵員削減を実施してきましたが、それでもまだまだ世界最大の軍隊。どうやって軍を効率化していくかは、中国にとっても大きな課題で、「自律型兵器」の開発や導入は、今後の中国にとっても外せない要素です。

2017年10月の中国共産党第19回全国代表大会では、習近平総書記が「軍事知能化の発展を進め、ネットワーク情報形態に基づく統合作戦能力、全域作戦能力を向上させる」と提示しました。以降、中国の軍事は実際に「知能化」を意識して進化し始めていると見るべきでしょう。本書からも、世界、特にアメリカの動きをかなり気にしながら、単なる掛け声ではなく「自分たちも『知能化』に対応しなければ」と考えている様子がうかがえます。

――「知能化」、つまり自律型のAI兵器を導入することによって、兵士を前線に駆り出す政治コストが下がり、そうした兵器の開発や増産といった経済面が重視されるとしています。「もはや中国は人対人の戦争を想定していない!」と驚きました。

安田 淳(ヤスダ・ジュン) 慶應義塾大学法学部教授。1960年生まれ1989年慶應義塾大学大学院法学研究科政治学専攻博士課程単位取得満期退学。1986年防衛庁防衛研究所教官。2005年慶應義塾大学法学部学部教授。この間、1988から89年中国・復旦大学留学。1997から98年米国スタンフォード大学訪問学者。専門は軍事を中心とする現代中国の安全保障。共著に『中国をめぐる安全保障』(ミネルヴァ書房)、『台湾をめぐる安全保障』(慶應義塾大学出版会)など。

【安田】邦訳版につけたいわば副題の「『人に優しい』新たな戦争」というのは、もちろん皮肉なのですが、本書にある通り、知能化戦争の行きつく先は自律型兵器で、AIが自分で判断して行動をとることにあります。味方の人的損害が出ないことはもちろん、敵の司令官や首脳をピンポイントで殺害することで、相手組織の被害をも最小限に抑えられる。あるいは人間を殺さずとも、インフラの破壊などによって社会を混乱させることで恐怖心を植え付け、戦意を喪失させることもできる。これはまさに中国が得意とする「戦わずして勝つ」を実現することにもつながります。

中国は人を殺したり、殺されたりせずに目標を達成する「戦争」を、一つの理想形として考えている、ともいえるでしょう。そのために「知能化」はもってこいなのです。

「戦わずして勝つ」中国の理想を実現

――自律型兵器の導入が進むことによって中国は何を達成しようとしているのか。本書では、「知能化」によって「敵の意思を直接挫くことができる」「行動時間の短縮により、国際世論が干渉する前に目標を達成することができる」と利点を挙げています。

【安田】ご承知の通り、中国は宣伝・情報工作に非常に長けています。要するに「人間の心の動き」を重視しているので、人的被害が出たり、作戦行動時間が長くなったりすれば、国際的な反発が出ることをよく知っている。そうした被害や反発を抑えるには、自律型のAI兵器が理想的なツールだと彼らは考えているのでしょう。

――仮に尖閣であれば、米軍が出てくる前に、日本が尖閣奪還の意志を喪失するような状態に持っていく、それによって日中双方の人的被害を出さずに、まさに「戦わずして勝つ」ことができる、と。

【安田】そういうことになります。

中国自律型兵器に対して、日本は「人」を出せるか

――自律型AI兵器、つまり人でないロボットが尖閣に上陸した場合、日本側に確実に人的被害が出ることを承知で、海上保安官や自衛官を尖閣に向かわせるか……と考えると確かにかなり難しいですね。

【安田】日本では「相手は人間じゃないのに、しかもこちらは人命を損なうことが確実なのに、それでも『敵』を排除しろと言うのか」という世論の反発を押しのけるのは難しいかもしれません。日本側が中国のAI兵器を破壊するハードルは、人間同士の交戦よりは低いでしょうが、日本側に一方的に人的被害が出る、となるとかなり厳しい。

これまでの「戦争」における占領の概念からすれば、「中国軍の自律型AI兵器が尖閣に上陸したからといって、それを『占領』とみなすのか」という議論にはなります。が、容易に人間が近づけなくなることは確実ですから、その点では大きな効果がありそうです。

sarah5/iStock

――アメリカではすでに無人探査機や遠隔操作の飛行機などがオペレーションに組み込まれていますが、もし中国が尖閣沖や上空を24時間巡回するような無人機、しかも自律型のものを導入したら、と考えると、現状の日本では対処のしようがないように思います。

【安田】それこそが中国の狙いで、グレーゾーン事態をできるだけ長く続けて、相手が気を抜いたり、状況に慣れてしまったりしたところで目的を達しようというわけです。まさに時間が味方する。連日、尖閣の接続水域に現れる中国船に対しても、現場は必死に対処していますが、世論的にはすでに「また来たか」というくらいの感覚になってきてしまっていますよね。

米軍の「情報化戦争」を意識

――これが無人・自律型の船に置き換わり、体力や時間の制約なく動き回るようになったら、日本側にも同様のツールがない限り対処できませんね。

【安田】中国がある面、神経質なほどに「知能化」を意識するのはそこで、やはりまだまだこの分野ではアメリカの方が先を行っています。当面の脅威であるアメリカの動向を追っているし、本書でも中東などでの「情報化」「ネットワーク化」の米軍の成果を強く意識している記述がみられます。

――対処しなければ、一方的にこちらがやられる一方だ、という危機感ですね。

【安田】はい。しかも中国は今世紀半ばにはアメリカとの立場を逆転したい、との国家目標を掲げていますから、アメリカが先を行っている情報化、知能化の分野で、自分たちも何とか対応しなければと思っている。しかし中国は状況を悲観してはないと思います。それこそ、今問題になっている安全保障上の技術流出や知的財産権の問題がよりリンクする形で、「知能化」を推し進めるのではないでしょうか。(#2に続く

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