中国AI軍事革命 #3 「より強くなっていく中国」とどう相対するか

『知能化戦争』監訳、慶大・安田淳教授に聞く
2021年06月28日 06:00
ライター・編集者
  • 連載最終回は、中国側は日本をどう脅威にとらえているのか?を議論
  • 平和を謳いながら世界5位の軍事力。中国から見ると自衛隊は「不思議ちゃん」
  • 中国の軍事力強化は「やるといったらやる」。どう向き合うか素直に向き合う
wildpixel/iStock

人民解放軍の自律型兵器導入構想とは?尖閣に自律型兵器が投入されたらどうなるのか?中国共産党100周年となる7月1日を前に、中国の現役軍人・龐宏亮が書いた『知能化戦争』を監訳した安田淳・慶応義塾大学教授に引き続き話を聞く。(3回連載の最終回)

中国目線では「不思議な存在」の自衛隊

――前回の最後に「日本は中国の真意や実力が見えないと言うが、中国からすれば日本の方が何を考えているか分からない」というお話がありました。これはどういうことでしょうか。

【安田】私は、中国から見ると自衛隊こそ「不思議ちゃん」で、そもそもどういう存在なのかが分からない、と考えられているように思います。例えば毎年刊行される『防衛白書』。近年こそ、中国に対する脅威感が盛り込まれるようになりましたが、中国側からするとこれは非常に不気味な文書で、「ここに書かれていることは本当なのか。何かの策略があるのでは」と疑っているでしょう。

あれだけ平和を謳い、防衛に徹している、決して攻撃はしないと言いながら、世界で五本の指に入る軍事力を備えている。そして彼らは東シナ海で海上自衛隊の存在を目の当たりにしている。すると「あの『防衛白書』の文言と、実際の行動と能力は、一体どう整合するのか」と混乱することになるのです。

――相手の視点から見ると、日本の「平和主義」「戦争放棄」「自衛隊は軍隊ではない」と言った建前のすべてが罠に見えてしまうんですね。

安田 淳(ヤスダ・ジュン) 慶應義塾大学法学部教授。1960年東京都生まれ1989年慶應義塾大学大学院法学研究科政治学専攻博士課程単位取得満期退学。1986年防衛庁防衛研究所教官。2005年慶應義塾大学法学部学部教授。この間、1988から89年中国・復旦大学留学。1997から98年米国スタンフォード大学訪問学者。専門は軍事を中心とする現代中国の安全保障。共著に『中国をめぐる安全保障』(ミネルヴァ書房)、『台湾をめぐる安全保障』(慶應義塾大学出版会)など。

【安田】こちらにそのつもりはなくても、ある意味で「中国に対する目くらましとして、よくできている」のですが、自衛隊としてはそれがいいかどうか(笑)。

そういうギャップや認識のずれは他にも例があります。2017年に海上自衛隊の護衛艦「かが」が就役しましたが、中国はこのネーミングをものすごく嫌がっています。というのは、1932年の第一次上海事変の際に旧海軍の航空母艦「加賀」から飛び立った艦上攻撃機等が中国を攻撃しているのです。彼らからすれば、「加賀」はまさに中国侵略の象徴。なのに今の日本が、わざわざあの「加賀」と同じ名前を護衛艦につけた、ということで、彼らは不快かつ脅威を感じているようです。もちろん日本側は「何ら意図はありません」と説明しているのでしょうが。

日本が中国に示すべき「メッセージ」

――こちらが相手を疑いの目で見ているように、相手もこちらをそう見ている。

【安田】はい。もちろん、警戒もしています。決して日本の軍事力を軽視してはいない。しかしだからと言って、中国が抱いている警戒感、恐怖心に我々が甘えて努力を怠れば、彼らは確実に一歩、踏み込んできます。安全保障において、一歩踏み込まれたらそれを挽回するのは並大抵のことではいかないし、時間も労力も犠牲も払うことになります。ですから、日本は「自分たちは踏み込まないが、踏み込んで来ようとする相手は許さない」というメッセージを明確に、国家として発信すべきでしょう。

――10年後には「知能化兵器」の存在が日常風景になっているかもしれないし、クリミアがロシアのハイブリッド戦争の最初の実践例と言われるように、尖閣が中国にとっての「知能化戦争」の格好の試験場になるかもしれません。

【安田】中国は、見方によってはもはや東シナ海を「内海化」していて、尖閣はその中に浮かんでいると思い込んでいるかもしれない。いつでも自分たちのタイミングで好きにできると考えているかもしれません。今のところ、中国が優位性を発揮できるのは第一列島線内にある東シナ海。これを超えて第二列島線まで行けばアメリカと衝突しますから、まずは第一列島線までを確実に抑えておけば、シーレーンは確保できる。ですから彼らの視点は、すでに西太平洋に行っているのではないか、と私は考えています。

しかしもちろん、それは「日本は東シナ海を諦めろ」、という話では全くありません。こちらが少しでも手を緩めれば踏み込んできますから、中国に対して「太平洋に気を取られていると、足元をすくわれますよ」「東シナ海は楽勝だと思っているでしょうが、日本が後ろから何かするかわかりませんよ」という恐怖心を、常に中国に与えておく必要があります。そして、日本は「絶対に踏み込ませない」というメッセージを、繰り返し中国に発すべきでしょう。

自衛隊・防衛省サイトより

リアクションが遅い日本の安全保障分野

――中国がすごいのは、目標達成までの戦略を長期的視点でとらえていることです。日本人はすぐ慣れてしまったり、飽きて別のことを言い出したりしますが。

【安田】そうですね。「知能化」についても、私が「解題」にも書いている通り、実は中国ではすでに1987年に『知能軍隊』という本が解放軍出版社から出版されています。その頃から、今回の『知能化戦争』で取り上げられているような自律型兵器時代の到来や、問題点は指摘されているんですね。

――日本も研究者の土壌はあるはずなのですが……。

【安田】それに、日本のように核アレルギーがある国では、本来は「知能化」は非常に適切な手段ではあると思うんです。

――早く手を打つ必要がありますね。ようやく日本でも、「宇宙・サイバー・電子のマルチドメイン領域」とか、ハイブリッド戦争という用語がよく聞かれるようになってきましたが、これに関しても日本側のリアクションは時間がかかりすぎている気もします。

【安田】確かに遅い。何より、国家の意志として、「絶対に踏み込まれてはいけない」という決意が、そもそも固まってないですよね。尖閣であれ何であれ、場当たり的な、対症療法にとどまっています。

一方、中国は「知能化戦争」のみならず、「中国製造2025」という国家プロジェクトを掲げて、先端兵器から足元の工業力まで、全体で成長していこうという構えを見せています。当然、「経済戦争」と言われたトランプ政権下での米中対立も、ひいては兵器開発につながる技術や情報の出どころを閉めることをにらんでのことだったに違いありません。

中国は実は「わかりやすい国」

――中国を見ることで、日本側の課題も実によく見えて来ますね。

【安田】それでもあえて楽観視するとすれば、「中国の脅威」が認識されているだけでも隔世の感があります。私が中国研究を始めた頃、1980年代などはまだまだ親中的、日中友好的な見方が主流でした。中国自身の変化もありますが、日本の見方も随分変わりました。

他方でそれが、極端な反中に繋がっていきかねない面もありますが、一般的には「中国を警戒し、対処しなければならない」という前提に基づいた計画や政策が受け入れられやすい土壌はもうできている。

ただしその際には、議論が漠然としたもの、つまり「中国は怖い、おかしい、危ない」といったものになりがちな点を注意すべきでしょう。中国はむしろわかりやすい国で、やると言ったことはやるし、できないことは言わない。北朝鮮とは違って、中国は核開発も隠れて行ったわけではありません。毛沢東が「やる」と公言して、実現している。

よく見ればよく見るほど、よくわかる国だと思いますし、本書でいえば「知能化に力を入れるのは中国を強くするためだ」とはっきり書いている。そこを我々は素直に受け止めて、「強くなった中国、より強くなっていく中国」とどう相対するか、具体的に考えていくことが必要です。(おわり)

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