G7台湾海峡問題言及で問われる日米の本気度

歴史的快挙と宿題、成果を徹底分析
2021年06月23日 06:00
国際政治アナリスト、早稲田大学公共政策研究所招聘研究員
  • G7声明の台湾海峡問題言及は「歴史的成果」と渡瀬裕哉氏。事実上の台湾支持は初
  • オリンピック開催賛同取り付け…筆者が個別に注目した菅首相の実務的成果とは
  • バイデン政権は中国に厳しいが、国防予算の実質マイナスなど軍備面で懸念も
G7集合写真の一コマ(官邸サイト)

英国コーンウォールで行われたG7サミットで、台湾海峡全体の平和と安全の重要性、そして両岸問題の平和的解決の奨励に言及があったことは歴史的快挙と言えるだろう。G7が台湾を事実上支持する声明を発表することは初めてであり、その政治的意義は極めて大きいものだった。また、同時に発表された2021年開かれた社会声明もG7参加国等が自らの属する自由主義・民主主義の陣営の価値観を世界に示し、その価値観を他国に対して拡大する旨が述べており、中国ら権威主義国に対するカウンターを示す重要な声明となった。

見事だった菅首相の仕事ぶり

欧州諸国は中国の人権問題に対して眉をひそめてはいるものの、安全保障上の問題として中国を明確に位置付けることには積極的な態度を示してこなかった。今回のG7声明は菅総理がバイデン大統領と面会した際に発表された日米共同声明をトレースしたものとなっており、欧州諸国が中国に対して若干及び腰になる中で、日米主導で作られたものと理解することが妥当だろう。

菅首相のG7での仕事はやはりいつも通り淡々としたものだった。しかし、上述の台湾海峡問題言及を含めて実務的な成果を上げている。たとえば、筆者が個別に注目した点は以下の通りである。

  • G7参加各国から東京オリンピック開催への賛同を早々に取り付けることで、東京オリンピック開催に向けた国際的な機運を確固たるものとし、新型コロナウイルス問題後初のオリンピックという象徴的な位置づけを北京オリンピックに奪われることを阻止した。
  • G7各国からのアジア太平洋地域における安全保障協力、特に英仏による軍艦派遣を評価することを通じ、欧州各国による目に見える形での協力の重要性を再確認した。また、北朝鮮問題での多国間対話が再び開始されることが見据えて、G7各国から日本の方針に関する支持を得ることに成功した。
  • 4月の日米共同声明を具体化するサプライチェーンの強靭化に関する様々な合意を締結し、医薬品、半導体、レアアースなどの重要物資に関して主要な民主主義国間で情報共有・対応準備していく即応メカニズムとそれに実効性を持たせる組織も設置されることが提案された。

これら以外にも人権問題・環境問題を含めた取り決め等交わされたが、対中国という観点から上述のポイントの確認が改めて行われたことは評価に値する。バイデン政権の国際協調主義に日本側がうまく乗っかる形で、欧州各国が渋々ながらも説得される様は実に痛快であり、菅総理のG7での仕事ぶりは見事なものであった。

ただし、あくまでもG7は外交交渉の場であり、外交交渉から生み出された言葉に実質を与えるものは「力」である。

これは現実の問題は中国の軍事力の向上なのだから当然のことだ。

中国側は台湾海峡問題に言及したG7声明に激しく反発し、台湾の防空識別圏に対して従来までの最大規模の軍用機侵入によって威嚇行為を行うとともに、メディアなどでは元軍人らが中国政府の見解を事実上代弁する形で、日米に対して攻撃を辞さない旨を宣言すべきだと喧伝している。中国にとって自らの死活的問題で面子を潰されたのだから、彼らがこの程度の過激な言動に及ぶことは想定の範囲内だと言えるだろう。

心許ないバイデン政権の軍備

avdeev007/iStock

しかし、真の問題はバイデン政権の台湾海峡問題に対する本気度にある。

バイデン政権が中国に対して覇権を争う敵として認識していることは明らかだ。ただし、外交交渉の言葉に実質的効果をもたらすのは現実の武力である。バイデン政権はこの点において非常に心許ない態度を示している。

バイデン政権が示した2022年度予算教書は米軍再建を目指したトランプ政権とは真逆の内容であった。それはバイデン政権の方針は省別の予算要求額の増減を見れば一目瞭然である。全体の総予算が約6兆ドルという莫大な金額に増加しているものの、国防予算は僅か1.6%しか増加していない。予想されるインフレ率を加味すると事実上のマイナス査定となっている。教育省は40.8%、商務省は27.7%、保健福祉省は23.1%、環境保護局は21.3%の増加など、軒並み各省が予算要求額を伸ばしているのと対照的だ。(もちろん、最終的には連邦議会で予算は作られるものの、大統領の予算教書は予算づくりの方向性を示す参考資料として重要だ。)

国防総省予算の中には米軍基地の気候変動対策予算などのナンセンスな予算も含まれており、今後バイデン政権内で左派勢力の勢いが強まることがあれば、国防関連予算の中に非現実なバイアスがかかった予算も増加し続けることになるだろう。その結果として、オバマ時代のように米軍の練度や兵站に問題が生じ、米軍が張り子の虎に逆戻りすることが懸念される。

外交を重視するバイデン政権下では欧州を含めた対中国の国際的な枠組みは整備されつつある。今後は述べられた言葉を現実のものとするため、各国が現実に労力を注ぐ段階に入りつつある。台湾海峡問題も含めて、米軍は予算不足で十分に対応できない可能性があることを踏まえて、日本政府には従来までの環境とは次元が異なる外交・安全保障の舵取りが要求されることになるだろう。

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