夫婦別姓「合憲」判決、最高裁は時代遅れなのか?

学者すら熟知していない司法権の限界
2021年06月24日 16:00
弁護士
  • 最高裁の「夫婦別姓」合憲判決に「時代遅れ」など批判が噴出
  • そもそも裁判所が国会に積極的な法律改正を命じるのは越権行為
  • 司法権の限界はある。国会で議論し、選択的夫婦別姓の早期の法改正を

6月23日、最高裁が「夫婦別姓」を認めないという判決を下した。多くの人々が、最高裁の判決に対して「時代遅れだ!」「裁判官の年齢が高いからだ!」などという批判の声を上げた。日本経済新聞社会面では、早稲田大学の棚村政行教授が「(国会の議論に委ねるのは)裁判所としての職責を放棄したことに等しい」という痛烈な批判を行っている。

しかし、私は今回の最高裁判決はやむを得ないものであり、司法権のあり方として正しいものであると考えている。

最高裁大法廷(最高裁公式サイトより)

日本国憲法41条には「国会は、国権の最高機関であって、“唯一の立法機関”である」と明記されている。最高機関性については議論があるが、「唯一の立法機関」であるという点は争いがない。狭い意味での法律を制定する権限は、国民の選挙で選ばれた代表たちで構成する国会にのみ存する。

国民が「自分たちの権利義務を規定する法律の制定を自分たちが選んだ代表者に委ねる」というのはまさに民主主義の根幹だ。行政庁が法案の多くを作成しているのが現実だが、議論や採決は必ず国会でなされている。

国会への命令は司法の越権

憲法81条が「最高裁判所は、一切の法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有する終審裁判所である」と規定しているとおり、裁判所には法律が憲法に適合するか否かを判断する権限がある。現に、古いケースでは刑が重すぎる尊属殺人の刑法200条を憲法違反としたものや、最近のケースでは非嫡出子の法定相続分が嫡出子の法定相続分の半分であるという規定を憲法違反するという判断を下している。

しかし、これらの違憲判決は、個別の条文を違憲とする消極的なものに過ぎず、新たな法律の制定や改正を間接的に促すような積極的なものでは決してない。刑法200条は違憲判決後もしばらく削除されず国会の怠慢と言われたが、検察が同条での起訴を行わなかったため、事実上適用されることはなかった(現在は削除されている)。非嫡出子の法定相続分が嫡出子の半分という民法の規定は既に改められたが、違憲判決が下されてからは裁判実務での運用が改められており、不公平は解消した。

ところが、夫婦別姓を違憲とする判断が下されたらどうなるか?
民法の規定だけでなく戸籍法を改めるなど、積極的に法律改正等を行わないと違憲判決と行政実務の間に大きな齟齬が生じてしまう。重ねて述べるが法律を制定することができるのは「唯一の立法機関」である国会の専権だ。裁判所が国会に対して積極的な法律改正作業を行うよう(間接的であれ)命じるのは、司法権の守備範囲を外れた越権行為だ

もし裁判所が新たな立法行為が必要な判決を次々と下すことになったら、単に司法試験に合格した法曹資格者や元役人や学者という(選挙という)民主的洗礼を受けていない裁判官たちが、国民の重大な権利義務に関する法律の制定を(間接的であれ)命じることになってしまう。

ここまで想像するのはいささか極論かもしれないが、民主的プロセスで選ばれていない裁判官たちが暴走すれば、「自分たちの重大な権利義務に関する法律の制定は自分たちが選んだ代表者に委ねる」という民主主義の根幹を揺るがしかねない。最高裁判所の裁判官には国民審査という民主的プロセスがかろうじて残っているが、事実上ほとんど機能していないのは周知の通りだ。

司法権と法改正は別

また、仮に違憲判決が下され国会も法律改正に前向きになったとしても、改正法が施行されるまでの間に多くの別姓での婚姻届が提出されることが予想される。婚姻届を受理する市区町村の役場の窓口が大混乱に陥ることは想像に難くない。「最高裁で違憲判決が下されたじゃないか!」と迫る人々に対し、窓口担当者は「まだ法律が改正されていませんので…」「今の法律に従うことしかできませんので…」という苦しい対応を迫られることは容易に想像できる。中には、「悪法を守るのか!」と迫る面々も出てくるかもしれない。

以上のように、新たな法律の制定や関連法規の改正などの積極的立法作用を裁判所が(間接的であれ)促すのは、三権分立と民主主義制度の精神を逸脱する恐れがあるだけでなく、行政窓口の混乱をももたらしてしまう恐れが極めて高い。本件で、憲法違反という意見を表明した裁判官は、検察官、弁護士、学者出身で、長年裁判所の内部にいて司法権の限界を知悉している裁判官出身者が1人もいなかった。検察官や弁護士、学者出身の裁判官たちは、今一度日本国憲法の基本理念を想起し、判決の与える影響をしっかり想像すべきだろう。

最後に、次の条文(?)を読んでいただきたい。

夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫若しくは妻の氏を称し、または各自の婚姻前の氏を称するものとする。夫婦が各自の婚姻前の氏を称する旨の定めをするときは、夫婦は、婚姻の際に、夫又は妻の氏を子が称する氏として定めなければならないものとする。

これは、1996年2月に法制審議会民法部会が「民法の一部を改正する法律案要綱」として承認したものだ。与党内に異論があったため法律案として国会に提出されなかった。すでに20年以上経過している。国会で議論がなされ、一刻も早く選択的夫婦別姓の法改正がなされることを心から願っている。

関連記事

編集部おすすめ

ランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事