宮内庁長官「陛下は五輪開催を懸念と拝察」、陛下の真意は?

中止論者が期待する「御聖断」なのか
2021年06月24日 19:30
SAKISIRU編集長
  • 「陛下は五輪開催を懸念と拝察」西村宮内庁長官の記者会見の発言が波紋
  • 中止論者は「御聖断」と勢いづくが、会見録から「感染防止に万全」が真意では
  • 皇室と官邸の隙間風説もあったが現在は?皇室に詳しい八幡和郎氏の分析は

宮内庁の西村泰彦長官が24日の定例記者会見で、東京オリンピック・パラリンピックについて「開催が感染拡大につながらないか、(天皇陛下が)ご懸念されている、ご心配であると拝察している」と述べたことが波紋を広げている。

加藤官房長官は同日午後の記者会見で、「宮内庁長官のご自身の考え方を述べられたと承知している」との見解を示し、沈静化をはかったが、ネット世論は西村長官の発言に賛否が錯そうしている。大会中止を求めているリベラル側は、昭和天皇が終戦を決めた歴史を引き合いに「御聖断がくだされた」などと活気づくが、保守側は「天皇陛下の政治利用ではないか」と反発している。

写真:REX/アフロ

記者にも決然と語る西村発言

西村長官と記者たちのやりとりの詳細をいち早く報じたのは朝日新聞デジタルだった。質疑の終盤、記者から「拝察」の真意を確認されると、西村氏は「拝察です。日々陛下とお接しする中で私が肌感覚として受け止めているということです」と強調。ひょっとしてオフレコだったのではないかと記者が念押しするように、「仮に拝察でも長官の発言としてオンだから、報道されれば影響あると思うが。発信していいのか」と言われても、西村氏は「はい。オンだと認識しています」と言い切っている。

西村泰彦・宮内庁長官(画像は内閣危機管理監時代:官邸サイト)

西村氏は、その後の質疑で「私の受け取り方」「陛下から直接そういうお言葉を聞いたことはありません」と補足して陛下の意向とは切り離しているものの、これは形式的なものに過ぎず、宮内庁長官の発言として強い決意をにじませているのは誰が一読しても明白であろう。天皇と政治のリアルについて心得のある人なら「行間」の向こうにある「大御心」の本音を代弁していると解釈する向きが多いのではないだろうか。

憲法上、天皇は自らの意思で政治的影響力を行使できないが、それが要所では「建前」に過ぎなくなる現実はある。振り返れば2016年8月、明仁天皇(現上皇)が唐突に国民にビデオメッセージを発し、「天皇が健康を損ない、深刻な状態に立ち至った場合、これまでにも見られたように、社会が停滞し、国民の暮らしにも様々な影響が及ぶことが懸念されます」などと“お気持ち”を述べたことが、その後の生前退位への流れを作ったことが記憶に新しい。

恐れ多くも大御心の真意はどこ?

では、今回の西村発言が「大御心」を限りなく100%近くくみとって発言したとして、大会中止論者が期待するような「聖断」につながるのかといえば、早計であろう。さすがに大御心のなかをのぞくことはできないが、質疑の中身は手がかりになる。先述した朝日記事の質疑応答をよく読むと、少なくとも「中止」や「延期」の文字はない。「感染が拡大するような事態にならないよう組織委員会をはじめ関係機関が連携して感染防止に万全を期していただきたい」をはじめ、西村長官は「感染」への懸念、「感染拡大防止」など5回も言及しており、これがもっとも強調されるメッセージだと受け取るのが自然ではないだろうか。

安倍政権時代の後期、明仁天皇の退位をめぐって天皇家と官邸の間には「隙間風」が取り沙汰された。このときの記憶から筆者も当初は「天皇家と官邸は代替わりしても距離感があるのでは」とも感じたが、よくよく考えてみると、安倍政権はその後、退位に関する皇室典範特例法を整備し、代替わりを円滑に進めており、少なくとも当時よりは距離は縮まっているのではないだろうか。

菅政権になってから菅首相と陛下がお会いする機会は多くない印象だが、つい一昨日(6/22)、陛下にオリンピックに関する「内奏」(報告)したばかりで、「没コミュニケーション」とは言えない。もちろん内奏の中身は非公表とあって、自民党政権が嫌いな人たちは「いさかい」があったのではと邪推を膨らます余地はあるが、西村発言が天皇陛下の「本音」だとすれば、むしろ政府・大会関係者に対し、最大の懸案である感染拡大防止を決然と促す「士気高揚」の側面もあるのではないだろうか。そもそも仮に西村長官の発言が政権からみて「想定外」「制御不能」だったのかも疑わしい杉田和博官房副長官の警察官僚時代の部下であり、連携が全く取れていなかったとは考えづらい。

八幡和郎氏

政治と皇室の実情に詳しい評論家の八幡和郎氏は、今回の西村発言について「長官の心遣いが陛下の立場をよくするかは疑問だ」との見方を示す。憶測が広がる要因として、八幡氏はコロナ禍になってから天皇皇后両陛下が公務で国民に直接お姿を見せる機会が減ったことを指摘する。

そして八幡氏は「昨年12月9日の雅子さまのお誕生日に発表された医師団の見解にもあるように、雅子さまのご体調が万全ではない事情もあって、両陛下の大会行事への参加を最低限のものにしたいという気持ちも反映されているのかもしれない。イギリスは、エリザベス英女王が国民を励まし、率先してワクチンを接種されるなど国民を鼓舞するようなかたちでイメージアップに成功されているのとは対照的だ。天皇陛下も、もう少し国民の前に出られてプレゼンスを示された方がいいのではないか」と話している。

関連記事

編集部おすすめ

ランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事