ソニーが挑む次世代自動車開発 #1 優れたアイデアがあれば参入できる時代
見習うべきあの自動車会社- ソニーが自動車開発に参入。得意のエンタメ技術とクルマを融合
- 自動車業界は戦略的分業の流れ。生産機能がなくても企画次第で参入可能に
- ソニーの自動車プロジェクトは中途入社の30代も多く、自由とスピード重視
ソニーが進めるEVや自動運転のプロジェクト「VISION-S」。昨年12月に欧州で公道試験を始め、今年3月28日には試作車を日本で初公開した。担当役員の川西泉氏は、ロボット事業を担当する立場でモビリティのプロジェクトも統括している。ソニーはどのような狙いでモビリティのプロジェクトを進めているのか。筆者が川西氏に尋ねるとこう語った。

ゲーム・映像技術とクルマの融合
「過去10年を振り返ると、スマートフォンの登場でライフスタイルが激変した。これからの10年を考えると、さらに大きな変化が起こる。EVシフトを含めてクルマの電動化は加速するので、C-MOSなどイメージセンサーのソニーの技術をどう使っていくのか。何か提供できるものがあるはず、との思いで始めたのがこのプロジェクトです」
重視しているのが「クルマの居住性とエンターテインメント性」。ソニーが得意とするゲームや映像コンテンツの技術とクルマを融合させ、「クルマに乗っている時間の付加価値を高めていきたい」と川西氏は語った。
また、ソニーはロボットと次世代モビリティの両事業に共通性を見出している。たとえば、自立して周辺環境に配慮しながら動く(走る)という点だ。「人に寄り添う」という発想にも共通性がある。ロボットには、ハードとソフトによる「機能価値」と、ユーザーがそれを使った時に感じる心地よさや質感、驚きといった「感性価値」があるが、これからの個人所有のモビリティには、より一層の「感性価値」が求められるとソニーは見ている。
「VISION-S」のプロジェクトの人員数や予算については「公表していない」とのことだが、川西氏は「自動車メーカーが一つの車種の開発にかけている人員よりもおそらく少ない」と見る。ただ、外部の協力パートナーは多いという。開発拠点は日本と欧州が中心。車体組み立てを担当するのが、自動車業界のファウンドリー的存在である、オーストリアのマグナ・シュタイナーで、ドイツのメガサプライヤーであるボッシュやコンチネンタルも協力パートナーだ。
▼欧州での公道テスト走行のデモ動画(公式YouTube)
自動車業界で進む戦略的分業
ガソリン車、EVに限らず、実は欧州、特にドイツの自動車産業では戦略的分業が進んでいる。ざっくりしたイメージで言うと、フォルスクスワーゲン(VW)やベンツといったブランドを持つ自動車会社(OEM)は、デザインや商品企画、開発の上流域、量産、販売・ブランド管理といった高度なノウハウや資本力が必要な分野に注力し、開発の中下流域から試作にかけては、メガサプライヤーやエンジニアリング会社(ES)に委託している。
ESは日本企業にはなく、オーストリアのAVL社やドイツのFEV社が有名で、OEMから「こんなクルマを作って欲しい」と頼まれれば即座に試作できる能力を持つファブレス(量産部門を持たない)の自動車会社だ。最近ではESやメガサプライやーが力を付け、上流域にまで迫ってきている。
これにマグナ・シュタイナーのような量産を請け負う企業もある。これまで自前主義できたトヨタ自動車ですらマグナ・シュタイナーに一部車種の量産を委託している。このような産業構造の欧州では、優れたアイデアや商品コンセプトがあれば、自前で自動車の開発や生産に関する機能を保有しなくても自動車ビジネスに参入しやすくなっているのだ。
自由・スピード・風通し
「VISION-S」の話に戻すと、開発チームには中途入社の30代の日本人社員が多く、自由にやらせることと、スピードを重視することを大事にしているそうだ。トライ・アンド・エラーで仕事を進めさせている姿が想像できる。一方で日本の自動車OEMは若い人に任せる体制になっていない。このため、比較的待遇が良いトヨタやホンダでもこうした風土を嫌って優秀な多くの若い社員が会社を辞めている。トヨタの昨年の春闘交渉では、若い人材の退社問題が労使間の課題として議論されたほどだ。
ソニーでは若い人の活力を生かしながらベテランも中途採用を強化している。2018年にはルネサスエレクトロニクスで車載半導体事業のトップを務めた人がソニーに転職した。一時の低迷から大復活を遂げたことで「ソニー」というブランドが再び人材を引き寄せ始めたと見ることもできる。
そして、ソニーの復活を見習うべき会社がある。それはホンダだ。(#2に続く)
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