ソニーが挑む次世代自動車開発 #2 ホンダとの連合なら世界で戦える

かたや敗戦から大復活、かたやEVへ大転換
ジャーナリスト
  • 「ソニーをホンダは見習うべき」と筆者。違いは「大きな負け戦」の経験の有無
  • ソニーは「デジタル大敗戦」を喫したが、その経験を生かして復活してきた
  • EV転換とアライアンスへの意欲を示すホンダとの連合なら世界で戦える

ソニーの復活を見習うべき会社がある。それはホンダだ。かつて両社は、日本を代表するグローバル企業でその製品が世界の多くの人を魅了した。しかし、今のホンダにとってそれは過去の栄光に過ぎない。ヒット車もなく、四輪事業は低収益に苦しみ、株価は低迷する。ホンダは、ソニーと大きく違う点が一つある。それは役員を含めて現役世代が「大きな負け戦」を知らないことだ。ソニーは主力ビジネスだったテレビ、携帯電話、パソコンで大敗戦を喫した。

2040年EVシフトホンダの記者会見

EVへの大胆なシフトを掲げたホンダ三部社長(ホンダ公式サイトより)

「大敗戦」経験を生かし復活

AV機器でソニーはパナソニックと並んで世界市場を制覇していた。しかし、テレビがブラウン管(トリニトロン)から薄型に変化していく過程、すなわちデジタル化が進んだ中で事業構造が垂直統合から水平分業に変化し、生産分野の付加価値が低くなったために儲けられなくなった。携帯電話も折り畳み式などのガラケーからスマートフォンに移るプロセスで同様のことが起こり、覇権は日本勢からアップルやサムスンに移った。

ソニーは主要事業で「デジタル大敗戦」を喫し、1万人を超える人員整理をしたうえで立ち直ってきた。まだホンダは主力ビジネスで大負けを経験していない。しかし、見方によっては、そのことで社内に本当の危機意識が芽生えず、世の中の変化を直視し、それを企業活動に健全に反映させていこうという意識が低いのかもしれない。

川西氏は言う。「モビリティの変化の中心は、エンジンという機械からソフトウエアに比重が移っていくことにあります。テレビや携帯電話での失敗の経験が大いに活かせる」。

VISION-Sの5G走行試験(ソニープレスリリースより)

「空中戦」のソニー、「地上戦」のホンダ

ソニーの「VISION-S」は4つの視点でモビリティ事業をベンチマークしているそうだ。
①既存の自動車メーカーがどう動くか
②テスラなどの新興メーカーがどう動くか
③半導体のエヌビディアなど技術から入ってくる企業がどう動くか
④アマゾンなどサービスから入ってくる企業がどう動くか…の4点だ。

ソニーは自前ではこの4つの視点にすべて対応できないので、コラボレーション戦略を重視している。ソニーは日本の製造業としては珍しく、エンターテインメントや映像コンテンツなどのデジタル産業に加えて、金融サービス産業のノウハウを有している。

地道なモノづくりを「地上戦」、生き馬の目を抜くデジタル・金融サービス産業を「空中戦」に例えるならば、ソニーは両方のノウハウを持った稀有な日本企業だ。ただ、川西氏は「消費者に安心安全を提供する技術力はソニーにはない。その点は自動車産業の歴史から学んでいかなければいけない」と話した。

それに対し、ホンダは「空中戦」には弱いが、「地上戦」ではまだ戦える戦力を保持している。今年4月に新社長に就任した三部敏宏氏は、これまでの方針を大きく転換し、EVシフト路線を打ち出し、「アライアンスに躊躇しない」と語っている。次世代モビリティ事業でソニーとホンダが組めば、世界と互角に戦えるかもしれない――。そんな発想があってもいいのではないか。(おわり)

 

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