東芝は「日本企業」なのか?買収劇で覚えた違和感
「会社は誰のものか」日本と世界の常識との乖離- 東芝の買収騒動の報道を見て藤巻健史氏が覚えた「違和感」
- 「会社は誰のものか?」日本と欧米の違い。騒動の起因では?
- 東芝騒動は、外国人株主増加で変わりゆく日本企業の一例
東芝が、英投資ファンドCVCキャピタル・パートナーズから買収&株式非公開化案を持ちかけられ、社長兼CEOの車谷暢昭氏が辞任する騒ぎとなった。
私の父は東芝勤務のサラリーマンだったからある意味、私は東芝に育ててもらったともいえる。日曜午後6時半から放送されていた「サザエさん」は自分が提供しているような気になっていた。終身雇用制が真っ盛りで、子供ながらに東芝社員は、皆、家族のような気持ちだった。
その東芝が、上場廃止に一時は追いやられるわ、上場に復帰したと思いきや、このような混乱に巻き込まれるわで、なんとも情けない。一社員に過ぎなかったものの、泉下の父も苦虫をかみつぶしているに違いない。当時、日本を代表する名門企業だった東芝の今の時価総額は今や2兆円前後で米アップルの100分の1しかないそうだ。日本経済没落の象徴の一つともいえるかもしれない。

今の東芝は「日本発祥の外国企業」
さて、今回の東芝のニュースを見ていると、いろいろ感じることがある。
日本人の常識からすると、東芝はまだ「日本企業」だろう。しかし株主構成は「外国法人がトップ」の62,66%で、次が「個人その他」の20.1%だ。世界の常識からすれば東芝は今や完全な外国企業だ。日本名を持つ日本発祥の外国企業にすぎない。東芝、日産、シャープ、中外製薬等このような状態になった日本の大企業は多い。
もっとも会社の国籍を気にするのも日本人の特徴で、気にする外国人は少ない。「会社は株主のもの」だ。外国人にとって、株主にはいろいろな国籍の人がいる以上、「どこの国の企業か?」などは何の意味も持たないからだ。私がモルガン銀行のパリ支店に出張したとき、彼らは米銀のモルガン銀行をフランスの銀行だと思っていたので驚いたことがある。
一方、日本発祥の会社には「会社は株主のもの」との原則が徹底しておらず、経営陣、従業員組合、メインバンク、地方政府、そして株主などステークホルダーが多数いる。会社が誰のものとは断定がしにくい。印象としては経営陣が株主より権限があるようにさえ思える。
このような欧米人と日本人との「会社の捉え方」の違いが存在する中で、グローバル化により外国人株主が多くなっていくと、「会社は自分たちのもの」と信じている外国人株主と、他のステークホルダー、特に、やはり「会社は自分たちのもの」と信じている日本人経営者との間の軋轢が激しくなっていくと思う。もっとも、鎖国を選択しない以上、最後は「会社は株主のもの」との世界の常識に合わせざるを得なくなると思う。
今回の東芝の騒動問題もその辺に起因しているような気がする。

「社外取締役」に見る日米の違い
私は邦銀に11年、米モルガン銀行(現JPモルガン・チェース銀行)に15年勤めたが、「会社は誰のものか」の認識の違いゆえに、会社運営が日米の会社間で全く異なると強く感じる。
日本では社長が一番えらく、会長は半分引退した感があるが、米企業では会長が最もえらく、権力者だ。取締役会は会社の持ち主である株主の代表の会であり、その長が会長なのだから当たり前だ。社長、副社長、執行役員はその取締役会の監視のもと、株主のために働く番頭さんみたいなものだ。株主の代表である取締役会には社外取締役が多いのも当たり前。株主は社員とは限らないからだ。
モルガン銀行では取締役会のメンバーに、数名の社員がいたが大部分は社外取締役だった。皆、当然それなりの株式を保有していた。社員である取締役は会長のほかに1、2名の副会長にすぎなかった。その彼らも、ボーナスや株式オプション等で大量の株主を保有していたから、株主の観点で取締役会に参加していたはずだ。この取締役会の下に、株主の利益のために働く経営者、執行役員がいた。これが米国の会社の仕組みだ。
一方、日本では、取締役と執行役が形式的に分かれていて、執行役が出世すると取締役になるように思える。終身雇用制で、入社以来その会社から給料をもらい株もそれほどは多くを持っていないのなら、経営者よりも株主の利益のために働くのか、私は疑問に思う。
日本では「取締役に社外役員を多数入れろ」との主張をよく聞くが、社外取締役が多いからガバナンスが効くというものではない。株主の代表が経営を監視するからガバナンスが効く。社員に変なことをされ会社のレピュテーションが下落し株価が落ちたら、たまったものではないからだ。

ついでながら、米国企業では時価会計が徹底しているのもこの理由によると思っている。株主にとっては時価会計でなければ自分の会社がどうなっているのかわからず心配でたまらない。不正も防げるので、私は時価会計こそ最高のガバナンスツールだと思っている。
一方、経営者なら、簿価会計がありがたい。いろいろな操作が出来るし、都合の悪いことを株主に隠せるからだ。江戸時代の大商店の旦那と番頭の関係で考えていただければ、理解しやすいと思う。
外国人株主の増加で変わる日本企業
今回の東芝騒動に関しても、「東芝経営陣とCVCとの対立」「東芝が投資ファンドの軍門に下るか」「東芝経営陣が逆転するには」「経営者に勝ち目はあるのだろうか」などのマスコミの報じ方に対して、米企業で働いてきた私は、違和感を覚えざるを得ない。「会社が株主のもの」である以上、株主と経営者の対立などありえない。あるとしたら株主対株主の戦いだ。いつでも首を切られる米国社会において株主と経営者が対立すれば翌日、首を切られるのは経営者だからだ。
東芝や日産のように、外国人株主が今後とも増え続ければ、良い悪いは別にして、経営陣の弱体化&株主立場の強化、終身雇用制の崩壊等、多くのことが変化していくと思う。雇用の安定(=労働組合)、税金の確かな納付、職場の提供(=地方政府)、確実な利息の支払い(=メインバンク)などを目的とするステークホルダーが弱体化し、利益極大化が目的の株主の力が増大していくことにより、会社の収益力も著しく高まっていこう。今の日本の会社の収益力の低下は目を覆うばかりだか、その改善がなされると思うのだ。
なお、利益極大化を目的とすると、ブラック企業になるとか、法令順守をしなくなるという批判があるのは理解しているが、そのようなことをすれば企業レピュテーションが落ち株価が下落するので、取締役会はそのような選択はしないというのが米企業で働いてきた私の経験に基づく予想である。
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