陰謀と悪意が渦巻く!韓流ドラマ的韓国大統領選の見どころ

野党最有力候補、尹錫悦氏と文在寅大統領の暗闘
2021年07月06日 06:00
東京通信大学教授/早稲田大学名誉教授
  • 韓国大統領選が実質スタート、野党候補筆頭の尹錫悦氏の人物像は?
  • 反日の英雄英雄で出馬会見しつつ日本との関係回復訴えるしたたかさ
  • 文政権が尹氏の当選阻止で、朴槿恵氏釈放の「悪巧み」?その狙いは

韓国の大統領選挙が始まった。まだ公式の選挙戦には入っていないが、尹錫悦前検事総長が6月29日に大統領選挙への野党からの立候補をいち早く宣言し、韓国政界は大統領選挙戦に突入した。7月1日には、与党の李在明・京畿道知事も立候補を表明した。

出馬会見する尹錫悦氏(Facebookより)

早くも韓国大統領選で火花

尹錫悦氏の支持率は30%を超える1位で、2位の李在明知事に10%の差をつけるが、このまますんなりと進むほど甘くはない。韓国の大統領選挙は、最初に手を挙げた候補が落選するとのジンクスもある。

ちなみに、尹錫悦氏の読みは発音のルビでは「ユン・ソクヨル」と書かれるが、韓国語は英語のようにリエゾンするので、会話では「ユン・ソギョル」と発音される。

韓国の大統領選挙は、来年3月9日(水曜日)に行われるが、大統領選挙の候補者選びは、アメリカのように候補者を有権者が選ぶ「予備選挙(国民競選)」が導入されている。

日本のように、党首や幹事長などの「ボス」が公認候補を決めるのでなく、党員投票と一般国民の世論調査で候補者が決まる。その点で制度は日本よりも民主的だが、選挙戦は陰謀と悪意、虚言の何でもありの「韓流ドラマ」そのものだ。これが韓国の選挙文化なのである。

虚偽のスキャンダルが飛び交う

与党関係者は、尹錫悦氏が大統領選出馬を宣言する前から「尹錫悦氏のスキャンダルを集めたXファイルがある」と公言し、妻や義母のスキャンダルを流していた。「妻がホステスをしていた」から始まって、「義母の詐欺事件がある」まで、根拠のない話を平気で流した。与党の関係者が、虚偽のスキャンダルを「創作」するグループを構成している、とも言われる。

7月2日には、一旦は不起訴にした古い事件をほじくり出し、尹氏の義母に「懲役3年」の実刑判決が下ったが、これからも虚偽のスキャンダルが多く造られるだろう。なぜ嘘、つまりフェイクニュースを平気で創作するのかと言えば、当事者が否定するのに時間がかかるうえ、有権者が「もしかしたら本当かもしれない」と思ってくれたら成功だからだ。

大統領になりそうな人を核に政党ができる

韓国の政党名は与党が「共に民主党」で、第一野党は「国民の力」という。党名の思想がよくわからない。「民主党」だけではだめなのかと思うが、実は以前、「民主党」という政党が存在したので、使えないのだ。

韓国の政党は、与党も野党も何回となく名前を変えており、「政党が大統領を作るのでなく、権力者が政党を作る国」と言われる。要するに、大統領になりそうな人物に人が集まるため、その都度新たに政党が構成されるのだ。

与党「共に民主党」は9月に大統領候補を決める党大会をおこない、最大野党「国民の力」は11月に大統領候補を決めるが、予備選挙はその前に行われる。

野党の大統領候補筆頭の尹錫悦氏は、まだ第一野党「国民の力」に入党していない。他の弱小野党を統合した「野党大統合」の候補者として立候補したいのだろう。そのために、第一野党が名称を変える可能性もある。

また、「国民の力」は6月17日に36歳と若手の李俊錫氏を党代表に選出し、勢いづいている。李俊錫氏は大統領選出馬資格がないため(大統領選立候補は満40歳に達していなければならない)、尹錫悦氏の動向が注目される。

尹錫悦氏の「親日家レッテル封じ」

尹錫悦氏は、立候補宣言の記者会見で「日韓関係の回復」を訴え、「回復が不可能なくらい関係を悪化させた」と文在寅政権を批判した。こうした発言は「親日家」と攻撃されるが、記者会見を民族的英雄の尹奉吉記念館で行うことで批判を封じた。

尹奉吉は、1932年4月に上海での天皇誕生日記念式典に手榴弾を投げつけ、日本軍司令官や政府関係者に多くの死傷者を出し、銃殺刑に処せられた。尹錫悦氏は同姓の英雄との関係を示唆する場所で、その意思を引き継ぐ意図を示した上で、「日本との関係回復」を訴える演出をした。したたかな計算だ。

尹錫悦氏は、翌日には国会記者室を訪ね、政治記者たちと懇談し、「この国の民主主義がうまくいくように助けてほしい」と訴えた。これもなかなかの演出で、政党関係者を訪問せず最初に記者に「皆さんに多くの教示をお願いしたい」と訴えた。韓国では、新聞記者は日本とは比較にならないほどの影響力を有する現実を、よく理解している。

尹錫悦氏は前述のとおり、前検事総長だが、司法試験に9回目に合格した伝説を持つ。ソウル大学法学部在学中に、「光州事件」に関する模擬裁判を行い検事役で全斗煥大統領の罪を問い、にらまれた。そのため司法試験で連続不合格になったが、試験官の一人が「実は合格していた」と教えてくれたことから9度も挑戦し、民主化後の91年に合格した信念の人物だ。

文在寅が目論む「朴槿恵釈放」の悪巧み

文在寅氏、大統領府公式写真より

韓国の大統領選挙は、慶尚道と全羅道の地域対立が反映される。朴槿惠前大統領の地盤は大邱市などの慶尚北道で、与党の大統領候補を狙う李洛淵首相は全羅道の出身。

慶尚道の有権者は、故朴正煕大統領と娘の朴槿惠前大統領への絶対的な支持者たちだ。尹錫悦氏は慶尚道の出身者ではないので、慶尚道票が取れなければ当選は難しい。だが、慶尚道の有権者からすれば、尹錫悦氏は「朴槿惠事件」を捜査し本人を投獄した責任者で、許すわけにはいかない。

この地域感情を利用して、文在寅政権にはクリスマス恩赦で朴槿惠前大統領を釈放し、「尹錫悦氏を許さない」と言わせて尹錫悦氏の当選を阻止する「悪巧み」がある。朴槿惠前大統領が「政権交代と国民のために尹を許す」と言えば時代は変わるが、簡単ではない。

世論調査にも「権力者の意図」が

韓国の有権者の感情は、いまは「何がなんでも政権交代したい」と思っているが、来年の3月まで尹錫悦氏への期待が継続するかはなお不透明だ。

一方、与党で立候補を表明した李在明知事は反文在寅派で、当選すれば文在寅大統領を逮捕するだろう、と噂される。一方、文在寅政権は、彼を与党の大統領候補から引きずり下すために、「女性スキャンダル」を準備しているとされる。

韓国の世論調査は意図的で、必ずしも信用できない。選挙投票直前まで、世論調査の結果を信用してはいけない。権力側の意図が、必ず反映されるからだ。韓国政治の舞台裏報道に気を配り、騙されないでほしい。

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東京通信大学教授/早稲田大学名誉教授

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