「消滅可能性都市」の正しい解釈と東京一極集中解消の是非

やみくもな地方への人口分散論と区別を
住宅・不動産ライター/宅地建物取引士
  • 最新の総人口でまた減少。ひと頃話題の「消滅可能性都市」を考える
  • コロナ禍で地方移住が取り上げられるが、人口減少問題の解決にならない
  • 名指しの豊島区は税制で人口増。安易な人口分散論より持続可能性追求を

総務省が6月25日に発表した「令和2年国勢調査」の速報値によると、日本の総人口は5年前の調査と比べて約87万人減少(0.7%減)し、1億2622万人となったことが分かった。

これは、山梨県や和歌山県などと同規模の人口がたった5年で失われたということに等しい。

人口減少は「静かなる有事」と呼ばれるように、日常生活で体感することはほとんどない。しかし、この様に具体的な数字で示されると人口減少による「都市の消滅」が現実味を帯びてくる。

「消滅可能性都市」として名指しされた東京・豊島区(TAGSTOCK1/iStock)

衝撃を与えた「消滅可能性都市」

消滅可能性都市」という言葉を覚えているだろうか。2014年5月、岩手県知事、総務相を歴任した増田寛也氏(現日本郵政社長)が座長を務める民間の有識者組織「日本創成会議」が、人口減少により2040年までに行政機能の維持が困難となる可能性のある自治体が全国で計896に上り、それらの自治体を「消滅可能性都市」だと表現・指摘した。

この「消滅可能性都市」という言葉は当時、社会に大きな衝撃を与え、人口減少によってもたらされる危機が現実のものだと多くの人たちに認識させる契機になった。

その後、人口減少問題を取り上げるうえで、消滅可能性都市と同時に語られてきたのは東京一極集中の是正だ。出生率の低い東京に人口が集中することで、日本全体の出生率が低下するという指摘は間違ってはいない。

ただ、コロナ禍の今、東京からの人口流出や地方移住ばかりが取り上げられ、そしてそれがあたかも日本の人口減少問題にとって好影響を与えるという論調が目立つ。

だが、コロナ禍による一極集中是正は、テレワークの普及と一時的な行動制限によるものなので、それが日本の人口減少問題を根本から解決するとは到底思えない

消滅可能性都市の定義とは

日本創成会議が示した消滅可能性都市の定義は、「2010年から2040年にかけて、20歳~39歳の若年女性人口が5割以下に減少する市区町村」である。

分かりやすく言えば、出産可能な若年層の女性人口が5割以下になるとその都市は人口が維持できなくなり、消滅してしまう可能性があるという意味だ。

東京の出生率は1.15(2019年)で、東京以外の出生率は1.36(2019年)なので、地方圏から出生率の低い東京へ人口移動することで出生率はさらに低下し、日本の人口減少は加速するという指摘は正しい。

しかし、この定義についてはさまざまな意見がある。確かに、出生率が回復しなければ日本の総人口は減少し続ける。だが例えば、出生数が仮にゼロになったとしても、社会増加(人口移動)により人口増加が続いている都市(自治体)は消滅することなどない。

実は消滅可能性が低かった豊島区

2014年当時、消滅可能性都市と指摘された中には東京特別区である「豊島区」が含まれていたことに衝撃を受けた人も少なくないだろう。

しかし、実は豊島区は消滅可能性都市と名指しされた2014年当時も、毎年のように人口が増加傾向にあったことをご存じだろうか?

豊島区の人口推移をみると、2012年:269,371人、2013年:271,610人、2014年:275,531人、2015年:280,908人と年々人口は増え続けていたのだ。まずは下記のグラフをご覧いただきたい。

グラフを見ると、豊島区の人口はV字で増加しているが、V字の基点となっているのは消滅可能性都市の指摘を受けた2014年以降ではなく、それよりずっと前のH17(2005年)となっている。

覚えている方も多いと思うが、2005年といえば豊島区が独自に制定し、当時話題となった、通称「ワンルームマンション税 」が施行された翌年である。
※筆者注:ワンルームマンション税(狭小住戸集合住宅税)。豊島区内で一定規模以上のワンルームマンションを建てようとする建築主に対して、1戸当たり50万円の税金を課す法定外税

※画像はイメージです(fabian cho/iStock)

豊島区は、全世帯のうち単身世帯の割合が50%を超えており、区内の住宅約40%が30㎡未満という大都市特有の住宅構成になっている。このような住宅状況を改善し、偏った世帯構成を是正して多様な世帯構成の層を呼び込むというのがこの課税の狙いだった。

住宅ストック(住宅の総数)の多様化は、色々な世帯構成の人たちが長く住み続けられるためにも、そして将来の地域コミュニティを維持するうえでも重要であり、持続可能な都市づくりには欠かせない。

このワンルームマンション税だけが人口増加の呼び水になったとは言わないが、結果的には上記グラフが示すとおり2005年以降から豊島区内の人口は増加に転じ、文字どおりのV字回復を見せることになる。

消滅可能性都市と指摘された豊島区は、その指摘のおよそ10年も前に持続可能な都市づくりの取り組みを行い、実際に人口が増加中だった。豊島区は消滅可能性都市どころか、ずっと前から持続可能な都市づくりに取り組む先進的な都市だったのだ。

消滅可能性都市と指摘された後も、豊島区では区をあげて消滅可能性都市から脱却するための明確なビジョンを持って魅力ある都市づくりを進め、結果として豊島区の人口は当時から今に至るまで順調に増加を続けている。区内の出生率もわずかながらではあるが上昇基調だ。

消滅可能性都市というショッキングなパワーワードは、その定義をみる限り本来は低出生率に対する危機意識を高める目的として社会に拡散されるべきだった。しかし、いつの間にかその言葉の持つ強さだけが拡散、浸透してしまい、今では人口集めのための自治体啓発ワードとして定着してしまったように思う。その結果、大都市圏と地方は互いに消滅しないためにあたかも「人口の陣取りゲーム」を繰り広げているようにも見える。

人口減少問題と一極集中是正は別

6月27日、朝日新聞デジタルは増田博也氏へのインタビュー形式の記事「増田寛也氏も想定外の感染爆発 5年前から備えていたら」を掲載した。記事そのものは今回の都議選に向けたもので、人口減少問題をメインにしたものではないが、やはりここでも増田氏は東京に人が集まりすぎることの危険性と一極集中是正を主張している。

増田氏が一貫して主張している「東京に人が集まりすぎている」ことに対して危機感を持つことに異論はない。

しかし、論点はしっかり分けるべきだろう。東京に人が集まりすぎることに対する「都市の危機管理」と、「人口減少対策としての地方移住」は別に議論すべきだ。ただやみくもに地方へ人口を分散させる人口の陣取りゲームを賛美、推奨しても意味はない。

人口減少問題を解決する特効薬はまだ見つかっていない。その特効薬が移民政策なのか各都市のコンパクト化なのか、若しくはまったく別の何かなのかは分からないが、大都市、地方問わず、各自治体は豊島区のようにまずは自らの都市を魅力的で持続可能な形にしておくことが肝要だろう。

 
住宅・不動産ライター/宅地建物取引士

関連記事

編集部おすすめ

ランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

人気コメント記事ランキング

  • 週間
  • 月間

過去の記事