翁長前知事の「亡霊」がいまも徘徊する沖縄 #1

市議選を前に「負の遺産」に苦しむ那覇市のウラ事情
批評ドットコム主宰/経済学博士
  • 故・翁長前沖縄県知事の「負の遺産」が那覇市政でクローズアップ
  • 最高裁で違憲判決が出た「孔子廟」問題に続き、水道局駐車場疑惑も
  • 水道局の管理の平面駐車場で不可解な契約。市議会でも問題に

辺野古反対のヒーローとして扱われることが多い故・翁長雄志前沖縄県知事だが、沖縄はいまも翁長氏の「負の遺産」に苦しんでいる。来年の知事選挙の前哨戦ともいえる那覇市議選(11日投開票)を前に、翁長氏とオール沖縄の「罪」を検証する。

2018年10月に行われた翁長氏の県民葬(県サイトより)

翁長前知事の亡霊

「沖縄を亡霊が徘徊している。翁長雄志という亡霊である」

これは、マルクス&エンゲルスの『共産党宣言』(1848年)の有名な書き出し「ヨーロッパに幽霊が出る。​共産主義という幽霊である」をもじって沖縄の現状を表した表現である。

故・翁長雄志氏(画像は2015年の安倍首相との会談時:官邸サイトより)

「翁長雄志」とは在職中の2018年8月に亡くなった沖縄県知事だ。保守本流に属しながら、2014年の沖縄県知事選挙に那覇市長の職を辞して出馬し、「オール沖縄」(政府の基地政策に反対する政治勢力)を率いて、現職の仲井眞弘多知事を下した政治家である。自民党・公明党にとっては裏切り者だが、共産党、社会民主党、沖縄社会大衆党などオール沖縄勢力にとっては「辺野古反対という正義」を貫くヒーローだった。

亡くなってはっきりしたことだが、翁長氏存命中の沖縄の政界は、翁長氏を軸に動いていた。その政治的影響力はきわめて大きく、翁長氏がオール沖縄に参加することによって、沖縄における政界地図はすっかり塗り変えられてしまった。自民党沖縄県連は、糸の切れた凧の如く無軌道に動き回り、国政・県政の主要選挙で負け続けている。一方のオール沖縄陣営も、存命中は翁長氏の求心力によって盤石な態勢を築いていたが、氏を欠いた現在、あちこちで綻びが目立ち始めている。ひとことでいえば、翁長氏あっての自民党、翁長氏あってのオール沖縄だった。

那覇市に遺る翁長氏の負の遺産

違憲判決が出た那覇市の孔子廟(パッキー/写真AC)

影響はそれだけではない。「選挙に勝つためなら手段はいとわない」という翁長氏の政治姿勢が遺した「負の遺産」が、ここにきて沖縄県、とくに那覇市を苦しめている。

今年1月には、最高裁によって「那覇孔子廟違憲判決」が下されているが、これも翁長氏の負の遺産だ。宗教的血縁団体である「久米崇聖会」に対して、那覇市が市有地を無償で貸し出し、同会の先祖の霊を祀る孔子廟を建てさせたことは、憲法上の「政教分離の原則」に違反するという判決だった。久米崇聖会は、琉球王朝時代の支配階層だった中国由来の渡来人の男子直系子孫だけで構成する排他的な集団で、いまも政財界に強い影響力を持っている。翁長氏は政治的駆け引きの一環として久米崇聖会を優遇したが、この判決によって、翁長氏の後継者である城間幹子市長が司る那覇市政の「公平性」や「透明性」はひどく傷ついた。まさに負の遺産である。

那覇市上下水道局駐車場疑惑

那覇市にとって、翁長氏の「負の遺産」はこれだけではない。

「那覇市上下水道局駐車場疑惑」がそのひとつだ。那覇市新都心にある那覇市上下水道局の駐車場の賃貸借契約について、この6月まで那覇市議会で厳しい追及が続いていた。先頭に立っていたのは自民党の奥間亮市議で、本会議における持ち時間の大半をこの疑惑の追及に充てた。奥間市議に続き、保守系無所属の上里直司市議も市当局の姿勢に強い異議を申し立てた。

那覇市上下水道局(建物)に隣接する駐車場(市HPより)

問題の駐車場は、もともと上下水道局が管理していた約1,700坪の平面駐車場だが、昨年7月より大和ハウスパーキングが那覇市と賃貸借契約を結んで管理している。昨年3月の入札で決まった契約だが、落札した大和側の提案による年間賃料は9,500万円で、市が示した年間最低賃料2,700万円を大幅に上回り、2番目の入札業者の提示額約5,000万円の2倍近い。

そもそもこの落札額からして怪しいが、契約から1年も経たない今年2月、大和ハウスパーキングはコロナ禍の大幅減収を理由とした賃料の「減額」を願い出て、減額が認められない場合は契約を解除するが、違約金は免除してくれ、と求めてきた。常識を超える入札額を提示して落札しながら、「儲からないから撤退する。コロナに起因する不可抗力だから許してくれ。違約金も免除してくれ」というわけだ。

これに対して那覇市は、「減額は認められないが、コロナによる不可抗力と見なし、解約はやむをえない。市議会が認めれば違約金約4,900万円も不要としたい」と回答した。

契約書類には、解約の場合の違約金は義務づけられているが、違約金免除規程は存在しない。免除の法的根拠も不明である。奥間、上里両市議の厳しい追及が功を奏して、那覇市の提案した違約金免除案は6月28日の市議会で否決されたが(採決について詳しくは批評ドットコムの記事を参照のこと)、実はこの一件、元はといえば翁長市政時代の怪しい再開発事業の負の遺産だ。(#2につづく

 
批評ドットコム主宰/経済学博士

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