熱海の土石流はなぜ起きた?発生メカニズムを識者が説明

循環サイクルを失った山は暴走する
ライター
  • 熱海伊豆山の土石流災害。現地入りした、山の保全を行うNPO代表に聴く
  • 「盛り土」と「メガソーラー」、水の循環サイクルが失われた可能性を指摘
  • 昔の人が伊豆山神社を設置した意味とは。実効性に乏しい開発認可の基準

今なお行方不明者の捜索が続いている静岡・熱海の土石流災害。“山津波”という言葉に納得してしまうような圧倒的な破壊力に、自然の恐ろしさを再認識した人も多かったのではないだろうか。

土石流の原因について、発生当初から川勝平太静岡県知事や細野豪志衆院議員が山地開発との関連性を指摘してきた。専門家はどう考えているのだろうか。山林の環境調査や保全事業などを行っているNPO「地球守(ちきゅうもり)」代表の高田宏臣氏に、話を聞いた。

すさまじい破壊力の土石流(高田氏撮影)

山では10年ほど前に、残土の埋め立てによって盛り土が作られていました。山中でトンネルや道路を作ったり、建物を建てたりする際には、不要な土すなわち残土が出る。その残土は通常、山中の谷を埋めて処分する。また、開発の際に谷や斜面を埋めて平地を作る場合があり、そうした人工的に土を持って作られた地形を盛り土と呼びます(高田氏、以下同)

土石流が盛り土を起点に発生していることは、すでに指摘されている。

現場付近では盛り土が作られたあと、2016年ごろからメガソーラーの開発が始まり、2017年にソーラーパネルが並び始めました。残土の不適切な処理とメガソーラーの設置による山地開発が、土石流の背景にあると考えられます

メガソーラーの設置場所は土石流発生場所から離れているので関係ないと指摘する声もあるが、山の環境はそれほど単純ではない。

大量の泥が住宅地まで到達(高田氏撮影)

メガソーラーを設置するために、山地の頂上付近を削り、地盤改良材なども使いながら地面を重機でガチガチに固めてしまった。すると、雨が降っても地中に水が染み込まなくなり、水は山肌を削りながら直接谷のほうへと流れてしまう。そうすると、谷底に泥水が溜まって堆積し、地下水の流れを塞いでしまうのです

山の地中には、人間の血管のようにさまざまな地下水脈が流れていて、水が循環している。森は“緑のダム”と呼ばれており、本来は雨水を貯え、少しずつ湧き水として放出する機能がある。谷底に泥が溜まると、水の循環を妨げてしまうのだという。

水の循環の起きない状態の山では、地震や土砂崩れなどの際に地盤全体が一気に液状化し、今回のような土石流につながりやすい。水がきちんと循環する健康な山地環境が保たれていれば、たとえ豪雨が降っても、あれほどの土砂崩れは通常は起きません

“鎮守の森”を壊してはいけない

土石流の起点の付近には、伊豆山神社という長年祀られていた場所があった。

山頂部の開発は、山全体の環境に大きな影響を与えます。だからこそ、昔の人は保全すべき環境の要所に神社を置いて、聖域として守ってきたのでしょう。壊してはいけない危険な場所を、経験的によく分かっていたのです

伊豆山神社。山地に祀られた神社には合理的な理由があると指摘(高田氏撮影)

山の循環サイクルを壊してしまうような山地開発を、現代人はなぜ止めることができなかったのだろうか。

山地開発については森林法で定められていますが、明確な理由がないと、各都道府県は開発業者に許可を出さなくてはいけないことになっています。ただ、開発の可否について明確な基準を作ることは困難で、あいまいな基準で運用されているのが実情です

山という巨大な存在に人工的に手を加えた場合どうなるか、人間がすべて把握することは難しい。自然は人知を超えている。

総量規制のような形で開発を制限していかないと、どんどん森が消えて災害が起きやすい環境になってしまう。山地開発について、一度立ち止まって考え直す時期に来ているのかもしれません

今回の伊豆山地区のように、過度な開発によって水の循環サイクルを失った“危険な谷”は、全国に存在する可能性があるという。

 

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