河野太郎大臣が吠えても、霞が関が「FAXやめられない」5つの言い訳
「メールより安全」は妥当か- 河野大臣の霞が関原則「FAX廃止」方針に暗雲。「全廃断念」報道も
- 事務局は「断念ではない」も、やめられない理由に挙がった5パターン
- 「メールより情報が盗まれにくい」は妥当なのか?有識者の見解は
河野太郎行政改革担当相が先月末に、霞が関の全省庁に要請した原則「FAX廃止」に対し、早くも暗雲が立ち込めている。霞が関の各所から「出来ない」との反論が多数寄せられ「FAX全廃を断念した」と報じられたのだ。河野行革担当相は、FAXをテレワークを阻害する要因の一つと見て、6月末に利用をやめて、原則電子メールに切り替えるように求めていた。

内閣官房行政改革推進本部事務局に確認してみたところ「FAX全廃を断念したわけではなく、今もFAXからメールに切り替える方針にあるのは変わりはありません」という。「霞が関の各部署にどうしてもFAXでないと困る案件があれば報告してほしいということで、ヒアリングするとのべ400件の“反論”が寄せられた」というのだ。「FAXをやめられない」とした回答をまとめると、概ね5パターンあったという。
- 危機管理上、災害があった際には、できるだけ多くの通信手段を残しておいたほうがよく、FAXような通信手段も選択肢として残しておいたほうがいい。
- 国民の声を吸い上げるとき、お年寄りなど「メールは使えないが、FAXなら使える」という人がいる。その人達のために残しておくべき。
- セキュリティ確保のため。盗聴器で情報が盗まれようとする場合、電話回線でFAXのほうが暗号化される手間があるので、情報が盗まれにくい。
- 民事裁判では現在、最高裁の定めた規則があり、「持参」「郵送」「FAX」の3つの通信手段しかみとめていない。規則を変えるのには時間がかかる。法務省で全デジタル化を検討しているので、それまで待てばいいのではないか。
- ニュースをクリッピングし、FAXで送ってもらう民間のサービスを利用しているがメールで送付にすると料金が2倍以上に跳ね上がり、予算的に難しい。
災害時の通信手段のひとつとして残しておくことや、高齢者に配慮するためなど、市民との通信手段として、FAXという手段を残しておくべきという考え方は、わからなくもないが、特に「セキュリティのため」などといった反論には、納得しづらいところだ。

FAXがメールより安全か?
行政では原則、個人情報のやり取りをFAXで行うケースが多いというが、実際に情報漏洩して問題になったケースは多くあるようだ。今年には、名古屋市で、新型コロナ患者の個人情報が詳しく記載された書類を、FAXで誤送信するという事故が2件発生している。神戸でも、昨年保健所に送られたコロナ感染者情報が4件、FAXの誤送信によって漏洩している。ほかにも、警察が捜査情報を間違えて送ったり、選挙で候補者情報を間違えて送ったりと、近年発覚してニュースになっている沢山あるので、実際にはもっと多い可能性も考えられるだろう。
情報社会学が専門で、自治体システム等標準化委員会の座長を務める武蔵大学社会学部の庄司昌彦教授も「セキュリティのために、FAXが必要」とする主張に疑問を呈す。
「FAXがセキュリティ面でより安全だという主張は、FAXが紙ベースで扱うことの情報漏えいリスクを考えているのでしょうか。FAXは紙でのやり取りなので、まず送受信で、オフィスの多数の人の目に触れるリスクがあります。メールも万全ではないですが、少なくとも送信した本人に届くこと、一定のセキュリティ対策が施せるという意味で、メールの方が優れているはずです」
インターネットセキュリティの大手企業であるチェック・ポイント・ソフトウェア・テクノロジーズの研究者であるヤニフ・バルマス氏とエイアル・イトキン氏は、FAXは誕生した80年代の技術的な変化がなく、セキュリティに対しては完全に無防備な状態だとしている。そもそも、ファクスのデータは暗号で保護されずに送信されるので、電話回線から盗聴したり、送信されるファクスデータを傍受したりすることは容易であり、ハッカーの攻撃を受けやすいとの指摘をしている。
(参照論文)Faxploit: Sending Fax Back to the Dark Ages
慣れているものを変えたくないのでは
次に「新聞のクリッピングサービスはメールで送付するが高くつく」と主張も、本当なのだろうか。ためしに、クリッピングサービス大手の料金表を見たが、基本料金はFAX送付のほうが高かった。1記事あたりの単価送料をみると、ネット送信でもFAXでも同じだった。もちろん、行政が同じ料金体系で契約していない可能性もあるが、少なくとも一般料金に準じているべきだし、メールに切り替えられない理由にはならなそうだ。
「ハンコ議論でもそうでしたが、結局のところ、反対している人は、慣れているものを変えたくないということなのでしょう。逆に言うとその裏では、合理的なやり方があるのに不合理な働き方を押し付けられて、不便を強いられている人もいるわけです。少なくとも、官僚同士のやり取りにおいて、FAXに拘ることに合理的な意味があるとは思えません」(同)
日本の成長を妨げているのは、慣れ親しんだやり方にこだわって、デジタル化を遅らせ、合理化が進まないからだということはすでに世界との比較でわかっていることだ。世界から取り残されないためにも、合理性に欠けた反論に与している暇は今の我が国にはないのではないだろうか。
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