バイデンの法人増税をミスリードする日経新聞「大機小機」

やるべきは「国民減税」!愚論すぎる「国民連帯税」
国際政治アナリスト、早稲田大学公共政策研究所招聘研究員
  • 日経新聞コラムの「国民連帯税」提唱を渡瀬裕哉氏が猛批判
  • 引用したバイデン政権法人増税は前政権の減税幅を一部戻したのみ
  • やるべきは「国民減税」。メディアを通じた新しい政策提案に

新メディア「SAKISIRU」の創刊寄稿にあたって、日本の中長期的な将来の政治情勢を見据えて新興メディアが打ち出すべき争点は何かを提示したい。

その争点とは「国民減税」VS「国民連帯税」のポストコロナの税制を巡る政治対立だ。

ホワイトハウスFacebookより

ぶっ飛び記事が招くコロナ増税

国民連帯税とは日経新聞4月10日大機小機「ポストコロナと『国民連帯税』」として打ち出した提案である。税金の名称からして戦前を彷彿とさせる全体主義的な名称でナンセンスの極みであるが、記事内容は更にぶっ飛んだ内容であった。

米国のバイデン政権の巨額支出と増税政策、そして日本における給付金などのバラマキ政策を引き合いに出しながら、

一方、バイデン氏は、選挙公約だった所得・資産格差拡大への対応としての高所得者の所得税率の引き上げ、キャピタルゲイン課税の強化を予定している。またインフラ事業の財源として法人税率の大幅な引き上げを提案。イエレン財務長官は法人税の引き下げ競争をやめる旨提言した。

「もう一つのベクトルである格差是正や財源確保の動きは、日本も正面から受け止める必要がある。格差是正・所得再分配機能の強化には金融所得課税の見直しが必要だ。

最重要は、コロナ禍で膨張した歳出の後始末である。東日本大震災時には、国民が連帯し所得税や住民税などの時限的付加税で復興費用を25年かけて賄う仕組みを作った。

コロナ対策費用は70兆円を超える。国民が連帯して政策を支える証しとして同様の仕組みを作り、後世代へのつけを避けるべきだ。「国民連帯税」として国民全員が応分の負担をするという考えが、ポストコロナの思想を育む。

としている。根本的な発想が間違った愚論であり、これが日本最大の経済紙のレベルなのかと唖然とせざるを得ない。そして、筆者は一人の日本国民として強い危機感を覚える。日経新聞は、その賛否は別として、多くのビジネスパーソンが目を通すことは間違いないメディアだ。その影響力に鑑み、このままでは復興増税に続くコロナ増税を許す機会が起きてしまう可能性は捨てきれない

バイデンは減税幅の一部を戻したにすぎず

今、本当にメディア上に真に求められる政策提案は「国民減税」である。国民のあらゆる階層に対して、大胆な減税・廃税を通じて、新たな経済成長に向けての活力を涵養することが必要だ。

コロナ禍において諸外国が真っ先に踏み切ったことは「減税」であった。

sorbetto/iStock

世界中の国々がコロナ禍で苦境に陥る国民のために最初に行ったことは「付加価値税減税(消費税減税)」であった。日本の一部のメディアや学者などは「減税政策は経済回復期に行うものだ」と主張しているが、諸外国ではそのような頓珍漢な議論は無視されており、その多くは時限付きではあるものの、英国やドイツを含めた世界数十か国で付加価値税減税がコロナ対策として早々に行われた

そして、米国はコロナ禍に陥る以前からトランプ政権が空前の規模の法人税大減税を行っていた。バイデン政権が目指す税率は対中国との競争から25~28%の間に落ち着く見通しであるが、それはトランプ政権が実施した35%から21%への減税幅の一部を戻すだけのことだ。

また、バイデン政権はキャピタルゲイン税増税を打ち出しているが、同増税は実際の税制改革を議論する連邦議会で満額成立する見通しはまだ立っていない。つまり、米国の場合は「大増税志向のバイデン民主党政権であっても、巨額の増税に踏み切る見通しは立っていない」という理解が正しいのだ。

つまり、消費税であろうが、法人税であろうが、所得税であろうが、経済苦境時には「全面的な減税」、つまり「国民減税」の議論が行われることが当然なのだ。

減税以外のバラマキは増税で回収

過去に東日本大震災時に導入された「復興増税」などは最悪の政策であり、本来東北復興に必要であったことは「東北地域に対する大規模減税」であった。仮に消費税・所得税・法人税などの地域減税が行われていた場合、日本各地からヒト・モノ・カネが集中して10年後の今、東北地域には目を見張るような大都市が出現していたとしてもおかしくなった。それが本物の復興というものだ。国民から薄く広く徴税して利権組織が鞘を抜いて流用するようなスキームを「復興」とするメディアの主張はナンセンスだ。

最後に付言するが、財政健全化に対する最も有効な手段は「経済成長」である。GDPの規模を拡大し、好景気によって税収を増加させることが重要である。経済成長によって財政赤字の対GDP比を低下させていくことが望ましい。

財務省は均衡財政を重視する政治志向を持っているため、補助金のような他の形で支給すると必ず増税によって回収しようとする。それを回避するためには減税という形で財政出動を行うことが必要だ。前述の日経新聞の大機小機にあるように、増税派は「減税以外の方法でバラまいた資金を増税で必ず回収しよう」とするからだ。これは景気回復を腰砕けさせて一層の財政問題を引き起こすことに繋がる。

一方、減税政策は財務省の論理を逆手に取ることができるため、増税ではなく財政出動の無駄を洗い出して本当に有効な政策に特化させる副次的な効果も生み出すだろう。

以上のように、ポストコロナの税制を巡る政治対立は、「国民減税」VS「国民連帯税」になるだろう。減税を望む声は決して小さくない。「SAKISIRU」には既存メディアにはなかった、「国民減税」の世論をすくいあげ、やがては受け皿となりゆく発展を期待する。

 
国際政治アナリスト、早稲田大学公共政策研究所招聘研究員

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