日本発!第5のがん治療法「BNCT」はどこが画期的なのか?

坂田薫『コテコテ文系も楽しく学ぼう!化学教室』第8回
2021年07月11日 06:00
化学講師
  • 日本人の死因1位のがん。第5の治療法に期待の「ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)」
  • がん細胞が「栄養」と勘違いするBNCT薬剤。注射したあとに放射線を照射
  • 従来の放射線は正常な細胞も傷つけたが、BNCTはがん細胞のみ破壊

みなさんは、いつか必ず来る「最期」を想像したことはありますか?身近な人が亡くなるなど、死と向き合うことになったとき、自分自身の最期について考えた経験があるのではないでしょうか。コロナ禍もその1つだったかもしれません。「眠るように逝きたい」「家族の世話にならないように逝きたい」などの願望とともに、多くの人が思い浮かべるのは、きっと「がん」による最期でしょう。そのくらい「がんは日本人の死因第1位」ということは周知の事実です。実際、厚労省のデータでも、令和元年にがんで亡くなった人の割合は28.2%となっており、まだまだ他人事ではありません。

今回は日本発のがん治療法である「ホウ素中性子捕捉療法(BNCT:Borono Neutron Capture Therapy)」と、それに関する最新の研究を2回(後編は7月25日)にわたりお送りします。

がん細胞をターゲッティングする効果的な治療法とは?(peterschreiber.media/iStock)

みなさんはがんの治療法をどのくらいご存知でしょうか。三大治療法である「手術(物理的にがんを切除)」「化学療法(化学物質を投与し、がん細胞を消滅・抑制)」「放射線治療(放射線でがん細胞のDNAを破壊し、がん細胞の増殖を阻止)」は定番ですね。それに加え、第4の治療法として2018年にノーベル賞受賞で話題になった「免疫療法(免疫の力を利用し、がん細胞を攻撃)」。そして今、第5の治療法として期待されているのが「ホウ素中性子捕捉療法(以下BNCT)」です。

BNCTは日本発の医療技術で、体が弱った方や高齢者にも負担が少ないことから、今、もっとも期待されている治療法の一つです。なんと、この治療法。がん細胞だけをピンポイントで破壊!それだけではありません。たった1回で治療完了!これだけ聞くと、夢のような治療法ですよね。

それではBNCTがどのような治療法なのか、ゆっくり確認していきましょう。

がん細胞だけが取り入れる薬剤 !?

がん細胞は増殖するときにたくさんの栄養を必要とするため、正常な細胞に比べて多くの糖やアミノ酸を細胞内に取り入れます。その中で、がん細胞のみが取り入れるアミノ酸に「フェニルアラニン」といわれるものがあります。このアミノ酸に「ホウ素」とよばれる原子を結合させた化合物が「BNCTに使われる薬剤(以下、BNCT薬剤)」です。フェニルアラニンとBNCT薬剤は「ホウ素原子があるか無いか」の違いだけで、とてもよく似ています。

お気付きになりましたか。そうです!BNCT薬剤を注射すると、がん細胞はフェニルアラニンにそっくりなBNCT薬剤を栄養と勘違いして取り込んでいくのです。これにより「がん細胞のみが細胞内にホウ素B原子をもつ状態」になります。

従来のがん治療法は長期化も少なくなかった(kckate16/iStock)

BNCTが画期的な理由

この状態で「中性子線」といわれる放射線を照射すると、がん細胞内でホウ素原子が分裂し「2つの粒子(以下、2粒子)」に変化します。ここで使用する中性子線はエネルギーが非常に低いもので、細胞を傷つけるリスクはほとんどありませんが、ホウ素原子から生じる2粒子は、細胞を破壊する力をもちます。しかも、2粒子が破壊できる細胞は1個だけ! すなわち、破壊されるのはホウ素原子を含むがん細胞のみで、隣の正常な細胞には影響がないのです。ここが、がん細胞だけでなく正常な細胞まで傷つけてしまっていた従来の放射線治療とは、決定的に異なる点です。

そして、従来の放射線治療もBNCTも「がん細胞のDNAを切断」してがん細胞を破壊しているのですが、切断するDNAの本数が異なります。従来の放射線治療で使用する放射線は、2本鎖になっているDNAのうち1本しか切断できないため、DNAが修復されて再発する可能性があり、複数回の照射が必要です。それに対してBNCTでホウ素原子から生じる2粒子はDNAを2本とも切断するため、修復が不可能となり、1回の照射でがん細胞が死滅するのです。患者への負担が少ないのは明らかですよね。

がん細胞だけを破壊(日本中性子捕捉療法学会HPより引用)

この画期的ながん治療法であるBNCTは、すでに臨床の段階に入っています。脳腫瘍の患者に対してBNCTをおこなった結果、10年後のMRIで腫瘍が完全に消失していたり、アスベストによる肺がんで肋骨からはみ出すほど拡大していた腫瘍が縮小し、モルヒネを必要とする痛みが数日で消退するなど、すでにいくつもの成功例が生まれています。

しかし、このBNCT。がんの治療法として普及させるためには、1つの大きな課題を克服する必要があったのです。そして、その課題を解決したのが、みなさんにとって身近な、あの「液体のり」でした。

その課題と最新の研究は次回後編で。お楽しみに!

 

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