“経済破壊大臣” 西村康稔氏のクビを取るにも刺客のいない野党

名前の上がる2人の対抗馬は?
報道アナリスト/株式会社ソーシャルラボ代表取締役
  • 西村大臣の発言撤回後も批判おさまらず。一般国民だけでなく業界団体も
  • 落選を望む声も多いが、兵庫9区は圧倒的な保守地盤。立民は支部長なし
  • 順当なら西村氏の圧勝だが、シナリオを覆す可能性がある2人の刺客

西村康稔・経済再生担当相が、酒類提供の停止に協力しない飲食店の情報を金融機関から働きかけてもらうと述べた発言の炎上は鎮火するのだろうか。菅政権は1日で撤回し、政権与党ともに火消しに懸命だが、コロナ対応の強権的な「本音」を見透かされた格好で、一般国民の政権への不信感をさらに深めた。さらには協力しない飲食店との取引停止を求められた酒類販売業者側の中には政府に抗議する動きも出ている。

西村氏が問題発言した記者会見(7/9 政府インターネットテレビ)

読売新聞のけさの朝刊によれば、全国小売酒販組合中央会(吉田精孝会長)が「長年培ってきたお客様との信頼関係を毀損(きそん)する引き金となる」として政府に抗議文を提出したという。同中央会は、自民党に多額の献金をしてきた歴史があり、6年前には、量販店による酒の激安販売規制を盛り込んだ改正酒税法の成立を実現させるなど、政治的な影響力は大きい。都議選でも自民党が土壇場で苦戦を強いられ、秋の衆院選に向けて緊張感が漂うなかで、自民党としては貴重な支持団体の不興を買う結果となり、今後、選挙情勢が苦しい議員たちから、西村発言の責任を問う可能性もありそうだ。

兵庫9区…圧倒的な保守地盤

その西村氏自身の選挙区情勢はどうか。西村氏を選出している兵庫9区は、かつて衆議院議員を半世紀余りつとめた原健三郎氏の地盤だったところだ。西村氏は通産省を退職後、原氏の秘書を経て地盤を継承。初選挙となった2000年は無所属で出馬して落選したが、その3年後の選挙で初当選し、以後6回連続当選を果たしてきた。

西村氏の政界デビューが遅れたのは、保守分裂の壁で公認を得られなかったためだ。1990年代の政治改革により中選挙区から小選挙区に変更したことで、西村氏の“師匠”の原氏は、地盤の変更で苦戦を余儀なくされた。原氏にとって最後の選挙となったのが、小選挙区導入で初の選挙戦となる1996年の衆院選。議員生活を半世紀、衆議院議長や労相なども歴任した大ベテラン政治家といえども区割り変更の影響をまともにうけ、当時、野党第一党だった新進党の候補者と保守票の争奪戦となり、選挙区では落選。かろうじて比例復活した経緯がある。その後、相手候補が自民党入りしたことで、西村氏は公認を得られず、初陣は落選したのだった。

明石海峡大橋(ngkaki/iStock)

兵庫9区は、明石市と淡路島の3市(淡路、洲本、南あわじ)で構成する。落選した時の原氏や西村氏が相手候補と票の争奪戦をしても健闘できたほど、全体としては保守票の手厚い伝統がある。1996年の小選挙区制スタートから過去8回の選挙はすべて保守系の候補者(新進党、自民党)が当選。民主党などのリベラル系野党の比例復活を許したことはないほどの「保守地盤」といえる。前回の2017年選挙の野党陣営は、小池新党(希望の党)の候補者が西村氏に挑んだが、共産候補ともども得票率10%台に低迷して全く歯が立たなかった。

立憲民主党は前回も候補者を立てていないが、4年近くたち、秋の解散総選挙が視野に入ってきた現時点(7/10)ですら、いまだに選挙区支部長を決めきれていない。西村氏が今回の問題で大炎上したとはいえ、いまの状況であれば、野党はよほど魅力的な候補者を擁立しなければ、西村氏が議席を失うのは難しいといえる。

西村氏への刺客シナリオ

しかし、このシナリオを覆す可能性は2つほどある。一つは全国区の知名度を持ち、西村発言の問題を追及して選挙区の多数の支持を取り付けられる求心力を持つ候補者の出現だ。過去にはれいわ新選組の山本太郎代表が、記者会見で兵庫9区からの立候補に含みをもたせたことがある(参考:東スポ)。山本氏が野党共闘候補で出た場合、これまで自民党に消極的に票を投じてきたものの、今回ばかりは「お灸を据えよう」と考える無党派層が動く可能性はある。

泉房穂氏(公式サイトより)

ただし、山本氏だと毀誉褒貶があるため、保守票を割れるかといえば微妙なのは確かだ。そこで政治好きのネット民から対抗馬に声があがりはじめているのが、明石市の泉房穂市長だ。泉氏は2003年から1期だけ民主党の衆議院選挙をつとめたが郵政選挙で落選。本業の弁護士などをつとめ6年間の雌伏のときをへて、2011年の明石市長選で初当選。中学生までのこども医療費の無料化や犯罪被害者等支援条例など先進的な施策を行なって全国的に注目された。2019年2月、職員に対する暴言によるパワハラ騒動で辞任したが、翌3月の出直し選挙で得票率70%の圧勝。さらに4月の本来の選挙で無投票当選を決めたことで知名度は全国区になった。

泉氏は現在行われている兵庫県知事選の野党側候補者としても名前があがったことがあり、待望論は野党支持者らを中心に根強くある。市長の行政手腕でみせてきた実績から保守票の信頼も一定度ある。仮に西村氏への「刺客候補」として立ち、今回の問題で憤る選挙民の共感を広く集めるストーリーを打ち出すことができれば、ジャイアントキリングが起こる可能性は、少なくとも無名の新人を新たに立てるよりはかなりあるように思える。

兵庫県はいま知事選が保守分裂になっており、ここもまたいつもとは違う“変数”をはらんでいる。西村氏の大臣職継続も微妙になってくる中で、与野党や泉氏の動向は、秋の衆院選に向けて全国区の注目を集めることになりそうだ。

 
報道アナリスト/株式会社ソーシャルラボ代表取締役

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