バイデン政権発足半年、政治分断した米国との正しい付き合い方

政権交代「ちゃぶ台返し」に備えのススメ
国際政治アナリスト、早稲田大学公共政策研究所招聘研究員
  • バイデン政権半年。トランプ時代と同じく前政権の政策転換が如実に
  • 政策転換は米国政治の構造問題。日本の外交安保も転換リスクの認識を
  • バイデン政権の国際的指導力頼みは危険、日本は主体的な外交的立ち回りを

バイデン政権が発足してからまもなく半年になる。この間、パリ協定復帰に象徴されるように、トランプ政権が行った幾つかの象徴的な政策が覆される状況になった。バイデン政権は粛々とアメリカファーストから国際協調主義への転換を進めている。

ただし、元を正せば、トランプ前大統領が行ったTPP離脱やパリ協定脱退はオバマ元大統領の政策をひっくり返すものであった。したがって、バイデン政権が発足して米国政治の安定性が向上したかというと、前政権の政策からガラッと“宗旨替え”するという点ではバイデン・トランプ両政権は共通の特徴を持っていると言えるだろう。

今年1月、大統領就任式で宣誓するバイデン氏(GPA Photo Archive/flickr)

“宗旨替え”が続く構造

バイデン政権は国際協定や国際機関に復帰し、その機能を強化していることについてコミットしているが、仮に2024年大統領選挙で共和党大統領が誕生すると、バイデン政権が行った政策の多くが再び放棄されることになるだろう。そして、その後に民主党大統領政権が誕生すると…というシーソーゲームが継続することが想定される。

この原因は米国議会(特に上院)が物事を決めるために必要な100議席中の60議席からの票を得られないほど、米国政治が分断していることにある。現在の上院議席は50対50で割れており、今後予定されている連邦議会議員選挙でもいずれかの政党が60議席を占有する見通しは存在していない。

大統領は議会の承認を経ず、様々な国際的な取り決めを行政協定の形で実現している。そのため、議会承認という安定的な政治過程を経て成立していない行政協定は、大統領の一存で簡単にひっくり返すことができる。米国の分断は大統領による専権の助長を生み出す結果に繋がっているのだ。

既存メディアは上述のようなシーソーゲームが継続し、その度に同盟国・関係国が振り回されることをトランプ前大統領のパーソナリティに起因するものと断罪してきた。しかし、この問題の原因は、トランプ前大統領の個人的なパーソナリティだけでなく、現代の米国政治に構造的に内包された問題だと言えるだろう。

「米国抜き」外交安保シナリオ模索を

もちろん、政権が代わることによって、外交安全保障の方針が変わることは民主主義国である以上おかしなことではない。そして、中国との覇権争いのような不変のテーマもあり、共和党・民主党の共通の目標も存在していることは事実だ。

ただし、共和党大統領と民主党大統領の政権交代が発生すると、前任者が行ってきた政策を簡単に覆す行為が発生するようでは、外交安全保障政策上の安定的なパートナーとしては些か不安であることも間違いない。

したがって、今後、日本政府は「米国の外交安全保障方針は安定しないもの」として、日本政府の外交安全保障方針は、米国抜きでも機能する形を模索していくことが望ましい。

4月16日、対面では初会談となった菅首相とバイデン大統領(官邸サイト)

この際、最も重要なことは、「バイデン政権は国際協調主義だから外交安全保障の観点では安定している」という近視眼的な発想を捨て、2022年中間選挙でのバイデン政権のレイムダック化、そして2024年共和党大統領誕生という蓋然性が高いシナリオを想定し、その際に何が起きるのかを想定しておくことだ。

バイデン政権は国務省の職業外交官らが主導し、一見するともっともらしい国際的な枠組みを作っていくだろうが、それは米国政治の分断の上に立つ砂上の楼閣の役人に過ぎない。共和党は国務省の職業外交官を嫌っており、彼らの取り決めた内容は政権交代が発生すると全て見直し対象に入ってしまうだろう。

当然だが、これは日米同盟を破棄せよ、親中方針に舵を切れ、というような荒唐無稽な戯言ではない。そうではなくて、米国政治の分断を構造的な問題と受け止めて、米国の政権がコミットしている国際的な合意内容が突然覆されることを現実のリスクとして認識することが大事だ。

日本が主体的にやるべきは?

日本は価値観を共通する欧州各国との関係を強化し、インド太平洋地域の国々に対して主導権を発揮していくことが重要だ。具体的にはTPP11のような安定的な枠組みは極めて好ましいものだと言えるだろう(米国が参加しているほうが良いが、彼らが居なくても成り立つことが大事だ)。

バイデン政権の国際的なリーダーシップに頼ることは極めて危険であり、日本は国際機関や多国間協議で自らが主導権を発揮できる主体的なポジションを構築していかねばならない。その前提として、国際機関の主要ポストを日本人が占めていくことなど、国家としてやるべきことに本腰を入れて取り組むべきだ。

米国の国内政治の分断は、米国国内だけの話ではなく、国際的な意思決定に影響を与えるほど構造的欠陥を抱えるようになっている。日本政府はバイデン・トランプ政権で顕在化した米国発のリスクを真摯に受け止めることが必要だ。

 
国際政治アナリスト、早稲田大学公共政策研究所招聘研究員

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