世の中に無いものは、自ら作り出せばいい

気鋭の舞台演出家が語る「マネジメント」と「発想力」
2021年04月29日 06:00
演出家/京都芸術大学舞台芸術学科客員教授
  • ミュージカル演出家、小林香さんが「仕事術」のコラム執筆
  • 物語の解釈がバラバラの俳優陣。どうやってまとめ上げる?
  • 世の中にないものは自分で作る精神。

(編集部より)会社でプロジェクトを任されて、いざ仲間の協力を得ようとしたら同僚たちの考えが点でバラバラ。あるいは、自分のいる業界で「100点満点」と思う納得のサービスが見つからない時、どうすればいいか…。そんなとき、ビジネスパーソンのヒントは「異業種」から得られることがあるかもしれません。今回、気鋭のミュージカル演出家、小林香さんが長年の経験を生かしてSAKISIRUに特別に寄稿くださることになりました。

Aleutie/iStock

ミュージカルは社会の縮図

台本は1つ。なのに、これを俳優に渡すと、解釈は人によってまるで違う。台詞ひとつとっても、まるで違います。演出家としてやっていると、ミュージカル作りに社会の縮図を感じる時があるのです。こんなにも人と人は違うのか、と。

2年前に、トルストイの『戦争と平和』を原作とした舞台を演出したことがありました。ロシア文学の特徴でもあるのですが、『戦争と平和』には実に500人以上の登場人物がいるのです。当然、ミュージカル版にもいろんな人物が出てきます。それを出自がバラバラの俳優たちと作る。ミュージカル俳優もいれば、ドラッグクィーンの歌手もいれば、アイドルもいる。まさにカオスな状態なのです。

このように出発点からバラバラな状態を、どうやって前にすすめていくのか。どうやって1つの作品に仕上げていくのか。

作品を立ち上げるたびにこの課題に直面するなかで、私の姿勢はいつしか定まってきました。人には個性があって、違いがある。そのことを、まずは全力で肯定してみせるのです。

ミュージカルは決して一人では完成できないもので、だからこそカオスな出発点を受け入れる。すべてにYESと言ってから対話や時間をつみ重ねることで、一つの物語としてのまとまりをみせていく。それぞれの違った感性を包含しながら、物語を形作っていくのです。

私は、教育現場にミュージカルという総合芸術はとても役立つと思っています。私もこの春から京都芸術大学で学生にミュージカルを教えています。プロを目指す子もいれば、目指さない子もいるでしょう。たとえプロにならなかったとしても、ミュージカルを学ぶことはのちにきっと役に立ちます。それはミュージカル作りが、社会の縮図を一つの場で再現出来るからです。

差異もあれば、エンパシーもある。孤独もあれば、連帯もあります。もし政治家や経営者のように、社会を動かす方たちがこれを読んでいたら、是非ミュージカルを経験してみて欲しいですね。

BRO Vector/iStock

自分で楽団を立ち上げた理由

「無いなら、自分で作ればいい」

私には、幼い頃から自然とそういう発想がありました。既製品にうまく乗っかれない自分がいることを、強く自覚していたのです。幼い頃、”女の子色”の既製品の服が苦手でした。違う服が着たかったけれど、イメージする服がどこにも売っていない。それで母が、布を買ってきて作ってくれていました。欲しい物が無いなら作ればいいという発想は、母に学んだのかもしれません。

高校時代には「京都フィロムジカ管弦楽団」という社会人のアマチュアオーケストラを立ち上げました。自分で楽団をゼロから作ろうとした理由は単純で、当時、私の好きな曲でプログラムを組んでいる楽団が近くになかったからです。

例えをあげると、ドヴォルザークでは交響曲第7番が好きですが、ドヴォルザークといえば有名な第9番「新世界」が選ばれる。これを演奏する楽団ならたくさんあります。でも、7番をチョイスするような楽団に入りたかったんです。

演奏頻度も知名度も低いけど、良い曲だからもっとみんなに伝えたい。なにより自分も味わいたい。そうしたことを強く思って、公に声をあげはじめたら、「実は私も、その曲好きなんだ」と共鳴してくれる人達が次々とでてきた。結果、思いを同じくした仲間を集めて楽団を作ることができたのです。

自分の感性を信じる

自分の感性が、世の中のマジョリティといつも一致するわけではない。でも、いいものはいい。ただふんわり好きなのではなく、“いい”と思える理由がある。たとえマイノリティになったとしても、自分の感性を信じられる気持ちの強さがあると、きっと物事は好転する。交響曲第9番もあるけれど、7番もある。8番だってある。色んな選択肢があって選べる社会の方が、豊かじゃないでしょうか。

先日実家の京都に帰った時に、久しぶりに会った先生に「欲張りやなぁ」と言われました。「欲張り」という自覚はそれまでありませんでしたが、振り返るとそうかもしれません。もっともっと、長く親しまれる普遍性をもったいい作品を作りたい。

世の中をよくしていくために、ミュージカルをもっともっと作りたい。そこに共感してくれる仲間がいて、1つの形にしていく。みんながそれぞれの特技と個性をもちよって、ある方向へ歩いていく。その過程はとても欲張りかもしれない。でも誰だって欲張りでいい。

出発点はバラバラでも、それを多様性という“三本の矢”にしてしまえば、冒険はさらに楽しく心強くなる。ミュージカル作りやオーケストラを通じて、他者との関わりを、そんなふうに感じるようになりました。

 

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演出家/京都芸術大学舞台芸術学科客員教授

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